Beauty
2021.07.08

齋藤薫の美しい歳の重ね方
マスクを外そうとする人の顔をジロジロ見ない……
それは自然発生した新しいマナー

マナーには2種類ある。まずは、マナーブックにある、昔からのしきたりやルール。当然のこととして、知らないと恥をかく。逆を言えば、知っておきさえすれば、常識ある大人として通用するマナーということになるが、これが一つ目。

もう一つは、マナーブックには書いていない、ルールのない、誰も教えてくれないマナー。様々な場面や状況に応じて臨機応変、気遣いのような適切な対応ができること。それこそ、エレベーターの開ボタンを押してくれている人に“お礼”を言えるような最低限のマナーから、見知らぬお年寄りの荷物を持って一緒に歩いてあげられる利他の心まで、無限のケースがあるわけだが、前者は自分のため、後者は他者のためのマナーと言ってもよく、だから後者は時代の変化に応じてどんどん増えてくる。

コロナ禍においても、マナーのニューノーマルが次々と追加された。言うまでもなく人に近づかないこと、触れないこと。リモートの会話では、声を重ねないこと。最近は食事中でも、合間合間にマスクをすること、という具合。

そんな中で今、暗黙の了解的に広がっているのが、ミーティングなどで「マスクを外そうとする人の顔を見ないこと」。マスク生活が思いのほか長引く中で、マスクを外すのが怖くなっている人が増えていて、特にマスクを外した直後の顔を人に見られたくないという独特な気後れ感が生まれている。それをお互い感じるからこそ自然発生的に生まれたエチケット。化粧くずれを見せたくないからじゃない。口元はその人の内面までを象徴するパーツであり、知性や品性、清潔感の有無までを形にしてしまうデリケートな部位だから、隠せば隠すほど見せるのが怖くなる、そこまで感じている人が少なくないのだ。しかも、自分だけじゃない、周囲も同じ不安を覚えているのを黙って読み取る人も多いから「顔をジロジロ見ず視線をそらすマナー」がいつの間にか生まれていたということ。やはり気遣いの国、日本なればこそなのだろう。

この小さなマナー、しばらく続きそうだが、こうした新しいマナーが刻々生まれている現実に敏感になれる人こそが、目まぐるしく変わる今の社会に、賢い大人として順応し、好感度を高めていく人に他ならないのである。

齋藤 薫 さん
美容ジャーナリスト/エッセイスト

さいとう・かおる 女性誌編集者を経て美容ジャーナリスト/エッセイスト。多数の連載エッセーを持つ他、美容記事の企画、化粧品開発・アドバイザーなど幅広く活躍中。『“一生美人”力』ほか著書多数。Yahoo!ニュース「個人」でコラム執筆中。