齋藤薫の美しい歳の重ね方
もう捨てないために、捨てる。母世代の「もったいない」とたたかう逆転の力学
親の持ち物を“断捨離”しようとして、本人の抵抗にあい、苦労しているという話をよく耳にする。うちも全く同じ、物をおよそ捨てようとしない高齢の母親としばしばぶつかり、いつも私の方が折れるという形を繰り返してきた。やはり物のない時代を生きてきた世代の、“物を大切にしたい”という価値観、“もったいない”の精神とたたかうすべは持っていないから。
ただ私自身がもう着ない服を大量に捨てようとしていると、それを母は羨(うらや)ましがった。整理はしたいのだ。捨てたいけれど捨てられない複雑な思いを抱えているのだ。そこで、母の見えないところでこっそり捨てることを決意。もう何十年も着ていない服など、少しずつ分からぬように。そもそも大層な物持ちである母親の私物は捨てても捨ててもバレなかったが、ある時点で、わあ、片付けてくれたの?と大いに感謝してくれた。捨てたのではなく、整理したのだと都合よく思い込んでくれたのだ。
目標は、20%の空きを残すこと。まだまだ捨てなければいけないが、そこからは捨てるのではなく、売ったり寄付したりするのだと言うことで納得してもらった。でも実際クローゼットに空きが出てきた頃には、意識は明らかに変わっていた。以前はよく「着るものがない」と新しい服を買おうとして、「同じような服を持ってるでしょ」と娘たちがそれを阻むといったことも繰り返してきた。おそらく物が増えすぎると、人間はある種の混乱をきたすのだろう。でもそれ以来、新しい服を一切買おうとしなくなった。捨てて捨てて残した服のひとつひとつに改めて愛着を感じているようだ。母親は一転、“物を捨てること”と同じくらい、“物を増やすこと”に罪悪感を持つようになったのだ。
家族とはいえ、勝手に物を捨てるのは後ろめたい気持ちもありながら、それでも増やしたがる物質的な欲求はどこかで止めなければという一心だった。そして一気に減らしたら、増やしたがらなくなった。持ち物と人間との不思議な関係、そこに息づく「もったいない」の力学を目の当たりにして、改めて“捨てること”の大切さを思い知らされた。「もう増やさないために捨てる」のだと。「もう捨てないために捨てる」のだということを。
齋藤 薫 さん
美容ジャーナリスト/エッセイスト

さいとう・かおる 女性誌編集者を経て美容ジャーナリスト/エッセイスト。多数の連載エッセーを持つ他、美容記事の企画、化粧品開発・アドバイザーなど幅広く活躍中。『“一生美人”力』ほか著書多数。Yahoo!ニュース「個人」でコラム執筆中。
