コウケンテツの“食は人なり 出会いなり”
炎を通して、新たな自分に気づく
“練炭の灰を足蹴にするな 君は誰かを暖めたことがあるのか” “練炭の灰を足蹴にするな 君は誰かにとって一度でも熱い人だったか”
韓国の詩人、アン・ドヒョンの「君に聞く」の一節だ。何かにつまずいたり行き詰まったりしたとき、この詩をよく思い出す。あるいはあかあかと燃えさかる炎とむかい合ったときにも……。
20代の頃。アルバイト生活に明け暮れていた時代。月末は肉屋さんが経営しているなじみの焼き肉屋さんで、1人前のハラミとビールを2杯飲む。これが当時の自分にとって最高の贅沢でもあった。
今から3年前。仕事で訪れた北海道の北見にて、ひとり焼き肉をする機会が訪れた。久しぶりにあの至高の瞬間を楽しむとするか──。宿泊するホテルの方に勧められて入ったお店の店員さんが、若さに似つかわしくない慣れた手つきで炭をくべ、着火。小さな炎の命があるときを境に一気に燃え盛った。深紅から緋色に変わっていくその様はなんとも美しい!そして炎が白色に光り輝き、温度が臨界に達したその瞬間、何の味付けもしていない切りたての新鮮なサガリを一枚やさしくそっと網目に横たわらせた。ここからは秒の世界だ。肉汁が炭火にしたたり落ちては全てが台無しになる。その前に手早く肉を裏返し全てのうまみを閉じ込めないといけない。速やかに塩を少しだけパラリ、そして口に運ぶ。これこそが幸福だ!これこそが自由だ!でも……あれ? 何か違うな。何か物足りないな。
アン・ドヒョンは、一度きりの人生、練炭の炎のごとく熱く生きろと説く。そして灰になって使い物にならなくなったとしても、誰かのために自らの使命を全うした練炭の灰を粗末に扱うでないと。自分の幸せだけでなく、人、家族や社会の幸せのために生きるのが尊いと考える彼らしいエッセンスが詰まった詩だと思う。
僕がひとり焼き肉を楽しめなかった理由。もう自分自身だけの幸せな時間よりももっと大切なことを見つけたからなのかもな。
ねぎ塩ダレとしょうゆダレで。キムチも。
ひとり焼き肉
材料(1~2人分)
- 牛肉(好みの部位 焼き肉用)…300g
- 塩、粗挽き黒こしょう…各適宜
<しょうゆだれ>
- しょうゆ、酢…各大さじ1
<ねぎ塩だれ>
- 長ねぎ(みじん切り)…10cm分
- ごま油…大さじ2
- 塩…小さじ1
- レモンのしぼり汁…大さじ1
作り方
- たれの材料を混ぜておく。
- 牛肉は塩、こしょうをふって、さっと炙り焼き、たれにつけて食べる。
※サニーレタス、サンチュ、青じそ、えごまの葉、キムチなどに包んで食べるのもおすすめ。
(料理:コウケンテツ/撮影:在本彌生)

コウケンテツ
大阪府出身。テレビ、雑誌、講演会など多方面で活躍中。3児の父でもあり、親子の食育、男性の家事・育児参加、食を通してのコミュニケーションを広げる活動に尽力。
