コウケンテツの“食は人なり 出会いなり”
出来合い
食において「出来合いのもの」と表現する場合、どちらかというとネガティブ要素が強いときなのかもしれない。しかし!作り手によっては出来合いがただの出来合いではなく、「至高の出来合い」に変化することだってあるのだ。
九州に仕事で通い出した十数年前。ある漁港で取材をし、お昼ご飯を取材先のお宅のお母様にいただいたときのこと。
こんな出来合いのものでごめんなさいね、と謙虚に勧めてくれたそれは、ほかほかごはんのどんぶり飯にお刺身の漬けとゴマ、薬味をたっぷりのっけたぶっかけ飯スタイルのものだった。ブリ、サバ、アジのほか、白身の地魚を数種類使っていた。そのお刺身に程よくしょうがの利いたしょうゆベースのタレが染み込み、身はねっとりプリプリで、いままで食べたことのない食感。それがごはんと最高に合うのだ!
「この漬け丼最高っす!」と興奮する僕に、それは「りゅうきゅう」という昔からある漁師のまかない飯だということ、佐伯の方ではブリがメインの「あつめし」ということ、津久見の方ではまぐろメインで「ひゅうが丼」ということなどなど、いろいろ教えてくれた。取材先で出会うお母さんの料理は味もさることながら、知識も豊富で、時として高明な師匠のような存在になってくれる。さらに残ったりゅうきゅうに、味付けして煎ったおからをさっと和えて即席の卯の花和えを出してくれた。これはね、とお母さんは昔を懐かしむように語り出した。
「名物料理といってもね、元々は田舎の漁師の貧乏飯なのよ。漁をして売り物にならない魚とか、調理して捨ててしまう切れ端を濃いタレに漬けるの。それに近所の豆腐屋さんが捨ててしまうおからで和えただけのものなのよ」
捨ててしまう=価値のないもの、ではなくそれを絶妙な素材の組み合わせで料亭の味をも凌駕するものに昇華させる。お母さんの出来合いを溺愛してしまった。りゅうきゅうの卯の花和え、ごちそうさまでした♡
「りゅうきゅう」の卯の花和え
材料(2人分)
- あじ、鯛、ブリなどの刺し身…合計で120gほど
- おから…50g
- しょうが(すりおろす)…1片分
- 白すりごま…小さじ1
- 万能ねぎ(小口切り)…大さじ1~2ほど
<漬け汁>
- しょうゆ、酒…各大さじ1と1/2
- みりん…大さじ1
<A>
- だし汁…大さじ2
- 砂糖…大さじ1/2
- 塩…小さじ1/3
- 酢…小さじ1/2
作り方
- 刺身は細切りにし、<漬け汁>(みりん、酒は煮切って冷ます)に30分ほど漬ける。
- おから、<A>をフライパンに入れて弱火で混ぜながら煎る。ふんわりとなったら取り出して冷ます。
- 1と2をふんわりと和えて器に盛り、しょうがを添え、すりごまと万能ねぎを散らす。
(料理:コウケンテツ/撮影:在本彌生)

コウケンテツ
大阪府出身。テレビ、雑誌、講演会など多方面で活躍中。3児の父でもあり、親子の食育、男性の家事・育児参加、食を通してのコミュニケーションを広げる活動に尽力。
