コウケンテツの“食は人なり 出会いなり”
おばあちゃんの苺ジャム
3人兄妹に弟(僕のこと)ができた時。我が家族は大阪の下町の小さな長屋暮らしだった。両親は朝早くから夜遅くまでがむしゃらに働いてくれていたらしい。僕が生まれたのを機に、2階にお住まいのご夫婦と交渉をして、そちらを購入した。我が家は少しだけ広くなった。さらに忙しくなった両親を助けてくれたのは、お隣に住んでいたおばあちゃんだった。白髪を品よくカールさせ、黒縁の眼鏡。少し腰の曲がった姿勢からは想像もできないパワフルさ。自分の孫の世話からうちの4人兄妹の世話まで! 幼稚園に通うようになった僕の送り迎えも。よく働く日本の“THE・おばあちゃん”。
一番記憶に残っているのは、たまに朝ごはんをおよばれした時のこと。典型的な韓国の食卓だった我が家にはじめてパンと苺(いちご)ジャムをもたらしてくれたのが、おばあちゃんの朝ごはんだった。絶妙な甘酸っぱさの中に弾けるプチプチの食感。こんなにおいしいものが世の中にあるなんて! 母はそんなおばあちゃんに何かお礼がしたいと。でも、その日を生きるのが精一杯だった当時。何も持たない母は自分の結婚指輪をネックレスに替えてもらった。受け取らないおばあちゃんに半ば強引に引き取ってもらったらしい。
それから一年後の同じ日。おばあちゃんがそのネックレスを母にそっと渡し、「ありがとう。あなたの大切なものをお返しします。わたしには夢のような一年でした。それで充分」と。
苺ジャムを作るときは、胸の真ん中がなんだか温かくなる。おばあちゃんに感謝の気持ちを込めて。
コウ流、簡単イチゴジャム
材料(2人分)
- いちご…10粒
- グラニュー糖…30g
- 赤ワイン…大さじ4
- レモン汁…大さじ1/2~1
作り方
- いちごは小鍋に入れて砂糖を絡め、中火にかけて赤ワインをふりかけ、レモン汁を加えて混ぜながら4分ほど煮る。粗熱をとって冷蔵庫で冷やしておく。
- こんがりトーストしたパンにバターを塗り、1のジャムをのせて食べる。
(料理:コウケンテツ/撮影:在本彌生)

コウケンテツ
大阪府出身。テレビ、雑誌、講演会など多方面で活躍中。3児の父でもあり、親子の食育、男性の家事・育児参加、食を通してのコミュニケーションを広げる活動に尽力。
