コウケンテツの“食は人なり 出会いなり”
涙のスープ
冷えた体を熱々のショラが温めてくれる。
ポルトガル料理の魂、バカリャウ(塩漬けタラの干物)。国民の胃袋を満たしてきただけではなく、ポルトガルの経済と食文化を支えてきたという側面もあるという。
その一方、伝統的なタラ漁は過酷な仕事で、大型船で漁に出ると半年は陸には帰れない。漁師さんたちは母船から単独でおのおの小舟に乗り移り、長時間冷たい海の上でタラと格闘する。命を落とすことも少なくなかったらしい。
元漁師トニーさんは言う。「母船に戻ると、氷のように冷え切った体を熱々のショラ(漁師風スープ)が温めてくれるんだ。最高だったなぁ~。海の男たちは、この味に救われてきたんだ」と。
港町イリャボに暮らすアナベラさん。彼女のご主人は100人もの漁師を抱えるバカリャウ船の船長だ。僕がお邪魔した時も、船長さんは、なんと遠くカナダ沖にて漁の真っ最中だった。
危険を伴う仕事。ご心配では?と聞くと、昔は本当に心配だったわ、とアナべラさん。「だけどね、ポルトガルの漁師にとって海は2番目の家であり、妻であり、子どもだって言うの。私の仕事は、陸の家と子どもを守って、おいしいショラを作って夫を待つことよ」。
ショラには「涙が出るほどおいしい」という意味もあるらしい。陸の家に戻ると、漁師はショラを食べて涙を流す。離別から無事に家族と再会できた喜び。安堵(あんど)感。帰る者と待つ者。互いを思い、心に秘めていた寄る辺ない寂しい気持ち……。複雑に入り混じったこのような感情を「サウダーデ」という。
家族をつなぐショラ。心も体も温め、癒やしてくれる愛のスープ。涙のスープ。この冬ぜひ試してほしい。
ショラ(タラの漁師風スープ)
材料(3~4人分)
- タラの切り身(甘塩)…3切れほど
- 玉ねぎ…1/2個
- 冷やごはん…100gほど
- ビール…1/4カップ
- トマト…2個
- ローリエ…1枚
- 酢…少々
- にんにく(すりおろし)…1/2片
- 塩、粉チーズ…各適宜
- 青ねぎ(小口切り)、オリーブオイル…各適宜
作り方
- 玉ねぎ、トマトは2センチ角くらいに切る。タラは4等分に切る。
- フライパンにたっぷりのオリーブオイル適量を熱し、1の玉ねぎ、にんにく、ローリエ、酢を加えて、炒める。
- 1のトマトを2に加え炒め、1のタラ、ビールを加えて蓋をしないで、煮る。
- 水2カップを3に加えてひと煮立ちしたら、冷やごはんを加え混ぜて、7~8分ほど煮る(水分が足りなくなったら、途中で水を適宜足す)。
- 塩で味を調え、器に盛り、オリーブオイル、粉チーズ、青ねぎを散らす。
(撮影:在本彌生/料理・文:コウケンテツ)
コウケンテツ さん

コウ・ケンテツ 3児の父親として子育て、食育にも尽力。You TubeでKoh Kentetsu Kitchen(料理研究家コウケンテツ公式チャンネル)を開設中。
