Recipe
2021.03.22

コウケンテツの“食は人なり 出会いなり”
ぬか炊きはなくとも…… 

今が旬の、あさりの酒蒸し。あさりは酒とたっぷりの昆布だしで蒸す。

まだ寒さが残る春先の夜。僕は小倉の街をうろついていた(数年前の話だよ)。疲れていたのでさっと飲んで寝よう。そんな気持ちで旦過(たんが)市場を抜けると、不思議な吸引力のあるのれんに出会った。フラフラ近づくと、ぬか炊き※がおすすめだとうたっているではないか。

※「ぬか炊き」は、サバやイワシなどの青魚を、しょうゆ、酒、砂糖などとともに発酵が進んで栄養豊富なぬか床を入れて炊いたもの。九州、小倉城下に江戸時代から伝わる郷土料理。

ナイス!ぬか炊きに目がない僕。早速中に入ると、カウンターに女性のお客さんとお店のおかみさんとおぼしき方が座られていた。

「ごめんね、ぬか炊きないけどいい?」といきなり先制パンチを放つおかみさんにたじろぐ僕。しかしこれでお店を出るのも無粋というもの。

お通しのツブがうまいね! と言う僕に、おかみさんは静かに語り始めた。夫婦でずっとお店をやられていたこと。板前さんのご主人に先立たれて、その後は、常連さんに支えられながら、おひとりでなんとか切り盛りされてきたこと、などなど……。

思わず一緒に飲みましょうとお声がけさせていただき、3人でカウンターに並び、乾杯。おすすめのあさりの酒蒸しがふっくらしてこれまたうまい。

「こういうお店は絶対残していかないとダメ!」と熱弁をふるう常連さん。激しく同意します。この辺りの歴史と移り変わりなど興味深く拝聴し、すっかり酔いがまわってきた僕。

「絶対ダメ!」というおふたりに、強引に3人分のお代を置いてお店を出ようとすると、おかみさん、涙ぐみながら、「ありがとう。じゃあこの一杯はお店のおごりで飲んで」と。そしてまた飲み直す3人。これが地元に愛されるお店。これが小倉の良さなんだよな。

あさりの酒蒸し

材料(2~3人分)

  • あさり(砂抜きしたもの)…300g
  • 酒…大さじ3
  • 昆布だし…1/2カップ
  • にんにく…1片
  • しょうゆ、青ねぎ(小口切り)…各適宜

作り方

  1. あさりは殻をこすり合わせて、しっかり水洗いする。
  2. 包丁の背で叩いて潰したにんにく、酒を鍋に入れて火にかけ、一度沸騰させてアルコールを飛ばしたら、1のあさりと昆布だしを加え、ふたをして蒸す。
  3. 2のあさりの口が開いたら、しょうゆで調味する。器に盛って青ねぎを散らす。

(撮影:在本彌生/料理・文:コウケンテツ)

コウケンテツ さん

コウ・ケンテツ 3児の父親として子育て、食育にも尽力。You TubeでKoh Kentetsu Kitchen(料理研究家コウケンテツ公式チャンネル)を開設中。「ボンマルシェ」の連載“アジアの台所から”(2016年4月~2019年3月)に大幅加筆収録した新刊、初旅エッセイ『アジアの台所に立つとすべてがゆるされる気がした』他著書多数。