Recipe
2021.06.20

コウケンテツの“食は人なり 出会いなり”
幸せを包み込むように

子どもの頃から大好きな「オムそば」。ソースとマヨネーズとケチャップをたっぷりかけて。あ〜懐かしい、“お母さん”の味。

アツアツに熱せられた鉄板の上。それは金色に輝く卵にしっかりと包まれていた。重量感のあるぷっくりと膨らんだその形状をうっとりと眺めたら、たっぷりのソース&マヨ&ケチャップをかけてジュワ〜ッとさせてやる。

仕上げに青のりを適量ふりかけたら、おもむろにコテ(ヘラ)を入れて食べやすいサイズにギコギコとカットする。あとはやけどをしないように慎重に口に運ぶだけ。その瞬間、今まで感じたことのないような幸福感に満たされた。なにこのおいしさ!

こうして僕はその日以降、何百回と注文することになる「オムそば」に出会った。

ご夫婦できり盛りされていて、地元民にずっと愛されていたお好み焼き屋さん。寡黙なお父さんに、元気ハツラツのお母さん。

「今日は新メニューのオムそばがあるよ!」と、その日はいつにも増して元気なお母さん。

実は長年家族でお世話になっていたお店で、すっかりお店の味に慣れ親しんでいたまだ幼かった僕は、「豚玉かイカ玉ばっかりでなんか飽きたよ……」とよくこぼしていたらしい。そんな無邪気な暴言(本当にすみませんでした)を小耳にはさんだお母さんが考案してくれた、渾身(こんしん)の新メニュー、「オムそば」の発売日だったのだ。

すっかりオムそばの虜(とりこ)になった小学3年生の僕。その日のうちに、衝撃のオムそば体験を作文に書いたら、なんと学級通信に掲載された。

後日、それを持ってご挨拶(あいさつ)に。もちろん注文はオムそばアゲイン。とても喜んでくれたお母さんはしばらくお店に飾ってくれた。

包むという言葉を韓国語ではサム(쌈)と言い、「幸せを包む」という意味がある。お母さんのオムそばは、おいしさと幸せを優しく包み込んでくれていた、間違いなく最高のオムそばだった。

オムそば

材料(2人分)

  • 焼きそば麺(市販)…1玉
  • 豚バラ薄切り肉…100g
  • 玉ねぎ…1/4個
  • キャベツの葉…2枚
  • もやし…1/2袋
  • お好み焼きソース…適宜
  • マヨネーズ、ケチャップ、青のり…各適宜
  • 溶き卵…4個
  • サラダ油…適宜

作り方

  1. 豚バラ薄切り肉は2〜3㎝幅に切る。玉ねぎは薄切りにする。キャベツは1㎝幅の細切りにする。
  2. フライパンにサラダ油を熱し、半分のスペースで焼きそば麺、残り半分で豚肉、玉ねぎを炒める。肉の色が変わったら、キャベツを加えて炒める。焼きそば麺が色づいてきたら、麺にお好み焼きソースを加え混ぜ、もやしを加えて、全体をほどよくからめて取り出しておく。
  3. フライパンをさっと洗い、サラダ油を熱し、溶き卵半量を流し入れる。表面が固まったら、2の半量を乗せて両端を折りたたみ、器に盛る。もう半量も同様に。ソース、マヨネーズ、ケチャップ、青のりをかける。

(料理・文:コウケンテツ/撮影:在本彌生)

コウケンテツ さん

コウ・ケンテツ 1974年、大阪生まれ。料理研究家。世界30カ国以上を旅して料理を学んだ経験を持つ。3児の父として親子の食育活動に奮闘中。『アジアの台所に立つとすべてがゆるされる気がした』他著書多数。料理家ユーチューバーとしても活躍中。