Recipe
2022.06.17

コウケンテツの“名作ごはん劇場”
敬意の先にこそ光が
ジュディス・カー作『おちゃのじかんにきたとら』から

コウさんが、こころを動かされた映画や舞台、アート、文学を、 "食"の視点で描く随筆です。
「独断、妄想的タラレバ視点です。ご一読を!」(コウさん)

ジャムサンドと残った食パンのミミのラスク。「お茶の時間」は日常を豊かにしますね。

虎の持つ雄々しいイメージによって、人々は古来より力の象徴として、尊敬と羨望の対象として崇めると同時に、その獰猛で残酷な本性によって、畏怖すべき存在として様々な神話、童話、作品で描かれてもきた。

もしもあなたが大切な人との団らん中に、大きな虎がいきなり訪ねてきたら……。

ジュディス・カーの世界的名作『おちゃのじかんにきたとら』はティータイムの準備をしていた女の子のソフィーとおかあさんの日常に、虎が不思議な異邦人として登場し、その家の全てのものを食べ尽くしていく物語。

冒頭から「え? なぜ!?」と驚きの展開。本来なら恐怖の対象でしかないはずの虎の行為を受け入れる母娘、そして虎自身の穏やかな表情と時の流れが、逆説的にこの出来事の異常性を照らす。

しかし、そこはさすがのジュディス・カー。独特の柔らかな絵のタッチと、鮮やかながらも、やさしくかわいい色使いが、その異常性をうまく中和させる。

それにしても、危険な虎をなぜ自然に受け入れた? なぜ大切な食べ物を虎が望むがままに差し出した?

答えはナチスの迫害から家族で逃れたというジュディス・カーの過去にある。世界中で繰り広げられている無意味で無慈悲な争いをなくすにはどうすればいいのか。これは本作品の大きなテーマであるはずなのだ。

ソフィーとおかあさんはこの家そのものを、食べ物を、自分達だけの「所有物」だとは考えていない。虎のことも危険な敵だと考えてもいない。だからこそオープンマインドで共有できるのだ。

この作品は問いかける。あなたは食べ物だけではなく、パートナーを、子どもを、ペットを、自分だけの「所有物」として認識し扱ってはいないか? 身近な人だけではなく、生き物自体を「所有物」と認識した瞬間、本来払うべき敬意が失われ、「モノ」として扱うようになっていく。「自分のモノ」なのだから何をしてもいいのだ、と。

広義に例えると地域、社会、国、国民。それらを時の為政者が「自分のモノ」だと勘違いした瞬間、人間の尊厳を踏みにじるようなことを平気で行うようになる。

誤解しないでいただきたいのは、争いをなくすために、全てを受け入れて食べ物を差し出すべきだ、と主張しているわけではない。全ての存在に敬意を持って接することこそが大切なのだ。それが平和への第一歩なのだ、と(すみません。僕の勝手な解釈です)。そしてその結末は……。

この作品が歴史的名作だと讃(たた)えられているのは、読み手の数だけそれぞれ違った解釈を生み、またその解釈自体も、読んだ時の自分が置かれている環境、考えによって変化していくからなのだ(特に虎の存在をどう定義づけるかでも解釈が大きく異なる)。そこから新たな視点、深い考察が生まれ、さらに議論を呼ぶ。
1968年に初版が発行されて半世紀。世界はどう変わったのだろうか。そして今、この現状だからこそ本作品を手にとって、「お茶の時間に」大いに語りあっていただけたら幸いです。

ジャムサンド

材料(1回に作りやすい分量)

  • 食パン(10枚切り)…2枚
  • 好みのいちごジャム…適宜
  • ミントなどのハーブ…適宜

作り方

  1. 食パンはミミを切る。いちごジャムを薄く塗ってサンドイッチにし、食べやすいサイズに切る。
  2. ミントなど好みのハーブを添えて器に盛る。

残った食パンのミミで簡単フライパンラスク

材料(1回に作りやすい分量)

  • 食パンのミミ…食パン2枚分
  • バター…15g
  • 好みの砂糖…大さじ1

作り方

  1. 食パンのミミをそれぞれ2等分に切る。耐熱皿にのせてラップをせずに、カリッとなるまで2〜3分ほどオーブンで加熱する。
  2. フライパンにバター、砂糖を熱し、1をこげ茶色になるまでしっかりとからめながら焼いて、取り出し、冷ます。

(写真・文:コウケンテツ)

コウケンテツ さん

コウ・ケンテツ 1974年、大阪生まれ。料理研究家。世界30カ国以上を旅して料理を学んだ経験を持つ。3児の父として親子の食育活動に奮闘中。『アジアの台所に立つとすべてがゆるされる気がした』他著書多数。料理家ユーチューバーとしても活躍中。