Recipe
2022.07.14

コウケンテツの“名作ごはん劇場”
全てマルコムから学んだ
『マルコムX自伝』より

コウさんが、こころを動かされた映画や舞台、アート、文学を、 "食"の視点で描く随筆です。
「独断、妄想的タラレバ視点です。ご一読を!」(コウさん)

ナマズ→スズキでアレンジしました。たらでも美味しいよ。タルタルソースは面倒なので、マヨマスターで手軽に。

魂が震えるような強烈な読書体験――。ページをめくる作業すら煩(わずら)わしい。こんなに夢中で貪るように一気読みした記憶は後にも先にもないだろう。

激動の1960年代。アフリカ系アメリカ人の民衆からの熱狂的な支持の下、黒人解放運動の闘争的な指導者として時代を一気に駆け抜けたマルコムX。そのあまりに短く激しい人生を記したのが「マルコムX自伝」だ。

ラディカルな過激派、分離主義、暴力、デマゴーグ…。NOI(ネイション・オブ・イスラム)時代の名残で、どうしても付きまとうマルコムのイメージワード。どれも言葉上の表現としては間違ってはいないのかもしれないが、それらが彼の本当の実像を現すのだとしたら、そんなの全く芯を喰っちゃいないよ、と言わざるを得ない。

マルコムは当時の体制側から最も恐れられた指導家だと言われていた。彼の過激思想のせい? それは違う。

歴史に裏打ちされた彼の激しくかつ冷徹な発言が、白人中心社会の嘘、偽り、偽善、欺瞞をあぶり出し、特にアフリカ系アメリカ人の民衆に知ってほしくはない「不都合な真実」を、命をかけて暴いたからに他ならない。

事実、本書を読むと、彼は研究熱心な勉強家であり、聡明で思慮深い人物だということがよく分かる。特にメッカ巡礼、アフリカへの旅以降はさらに視野、見識を広げ、変化し、成長することを自らに課し続けたマルコム。

晩年は、人種を超越した普遍的な思想に辿り着こうとしていたその矢先に……。本当に残念でならない。

僕はといえば、10代半ばから何をやってもうまくいかず、挫折を繰り返し、自分になんの価値も見出せない時期があった。周りの人たちとの折り合いも悪くなり、嘲笑や批判の声もちらほらと耳に入った。

「もし君を批判するものがいないなら、君は恐らく成長しないだろう」

このマルコムの有名な言葉に、僕の魂は激しく揺さぶられた。そして今もずっと心の片隅に留めている大切な言葉なのだ。

その一方、ネットやSNSで日々流れてくるおびただしい情報、フェイクニュース。これらの真偽を疑いもせず、確かめもせずに誰かを一方的に批判し、糾弾しないと気が済まないという世の中の空気には息苦しさを感じる。

マルコムは問う。事実とされる報道のその奥には何が隠されているか? その善悪の判断は誰にとっても公平なのか? 身近な人に信頼される人物になるには?

そして、あなたはそうあるための努力をしているのか?

マルコムXの最大の功績は、自分のルーツを知る意義を見つけたこと。どんな境遇に置かれても、どん底に落ちたとしても、自らを律し、努力と決意でどんな人でも自分の人生を変えることができる。それを見事に証明し、人々を導いたことだ。これこそが時代や人種を超え、普遍的に善きこと、美しいこととされる生き方なのかもしれない。

本書には、モハメド・アリはもちろん、サム・クックやビリー・ホリデイなど時代を代表するアフリカ系アメリカ人の偉人、アーティスト、作家、ジャーナリストなどが多数登場する。当時の時代背景、生活が生き生きと描かれ、60年〜70年代のブラックカルチャー史の、貴重な資料としても評価が高い。

執筆協力のアレックス・ヘイリー(あの『ルーツ』の著者と言った方が分かりやすいかな)が記したエピローグがまた秀逸なのだ。全ての章がハイライトだと言っても過言ではない本書だが、このエピローグの存在がさらに輝きを放っている。

そこには二人が育む友情関係や、人間味溢れる真のマルコムの姿が描かれ、アレックス・ヘイリーだからこそ本書が世に出たのだと、改めて認識させられる。

そして今回のレシピは、もしも僕がマルコムとランチを共にできたら何を作る?という妄想レシピです(笑)。

マルコムが愛してやまないヘルシーなイスラム料理ではなく、ボストンのエラおばさんの作る豪快な南部料理を一緒に作ってみたい! ということで、南部料理の定番、キャットフィッシュフライ(ナマズのフライ)を身近な材料でアレンジしました。

ぜひ作ってみてね。

キャットフィッシュ(ナマズ)フライ

材料

  • 好みの白身魚…3〜4切れ
  • 溶き卵、薄力粉、揚げ油、塩…各適宜
  • パン粉…適宜
  • 塩茹でしたインゲン、とうもろこし

<A>

  • カレー粉…大さじ1/2
  • 塩、粗挽き黒こしょう…各適宜
  • 酒…大さじ1

<さっぱりマヨマスターソース>

  • マヨネーズ…大さじ3
  • 砂糖…小さじ1/2
  • 酢…大さじ1/2
  • 好みのマスタード…適宜

作り方

  1. 白身魚はぶつ切りにし、<A>をもみ込む。薄力粉、溶き卵の順にからめ、パン粉をまぶす。
  2. 180度の油でからりと揚げる。
  3. マヨネーズに砂糖、酢、マスタードを合わせ混ぜて、<さっぱりマヨマスタードソース>を作る。
  4. 塩ゆでしたインゲン、とうもろこしを添えて盛る。3をつけていただく。

※コーングリッツやコーンミール、スパイス、ドライハーブなどを使うとより本格的になりますが、ここでは簡単にカレー粉とパン粉で代用しております。

(写真・文:コウケンテツ)

コウケンテツ さん

コウ・ケンテツ 1974年、大阪生まれ。料理研究家。世界30カ国以上を旅して料理を学んだ経験を持つ。3児の父として親子の食育活動に奮闘中。『アジアの台所に立つとすべてがゆるされる気がした』他著書多数。料理家ユーチューバーとしても活躍中。