Recipe
2022.11.24

コウケンテツの“名作ごはん劇場”
今、我が子に何を伝えられる?
コーマック・マッカーシー著『The Road』から
『The Road』は2006年に発表された小説で、ピュリッツァー賞受賞作。(翻訳版はハヤカワepi文庫『ザ・ロード』)

コウさんが、こころを動かされた映画や舞台、アート、文学を、 "食"の視点で描く随筆です。
「独断、妄想的タラレバ視点です。ご一読を!」(コウさん)

光は暗雲に閉ざされ、寒く荒涼とした世界。灰が覆い尽くされ廃墟と化した町。生き残った人類は食べるために人を殺し、生き残るために殺し、奪い合う。そんな残酷な世界から逃れるため、まだ温暖であるはずの南へ歩いて向かう父と子の物語。

この作品全体に漂う、どうしようもない絶望感。そして淡々と静かに流れていく時間。それが、到底人が成せるものではなかろう、悪魔の如きおぞましい所業をより際立たせる。これこそが人間の本性なのだという事実を突きつけられた気がして、さらに絶望感が増す。唯一の救いは、その対極にある少年の天使のような純真さ。

しかし、そんな息子を守るためには、自身が悪魔にならざるを得ない。そこに大きな葛藤が生じるのだ。これはこの作品の根幹のテーマであり、まさにニーチェ、ドストエフスキー的な問いかけでもある。

神はいない。そこには守るべき秩序もルールも規範も何もない。それでも人は道徳的たろうとするのか。それでも人は善き存在であろうとするのだろうか。
その答えは?そして二人の旅の結末は!?

僕は職業柄、「究極の食とは?」など答えに窮する質問を投げかけられることも多く、悩みながらもその都度、曖昧な返答をくりかえしてきたのだと思う。でもこの名作中の名作「ザ・ロード」に出会ってようやくその答えに辿りつけたのかもしれない。

"いよいよ死が自分たちの上に臨んだようだから…"という極限状況の中、二人は地下シェルターらしき部屋を発見する。罠かもしれない。しかし、躊躇している余裕もない。差し迫る死が父を突き動かす。そして感情を押し殺した様子で静かに父は言う。

"降りておいで。すごいぞ。さあおいで。"
缶詰の山、たっぷりの水、生活必需品、簡易マットにコンロ…。ついに何よりも求めていた「命をつなぐ安心」が目の前に!

絶望に絶望を重ねて来た分、より一層感じるこの圧倒的な雲散霧消感!食の描写で味わったことのない高揚感!その後、じんわりと押し寄せてくる安堵感が、彼ら父と子、そして読んでいる僕自身をも優しく包み込む。絶望を乗り越え、心からの安らぎを得られる、このほんの一瞬の時間。なんと尊い!これこそ究極の食ではないだろうか。

しかし、地下のこの場所は安住の地ではない。せっかく手に入れた安らぎはあまりにも儚く、生き残るためにはさらに先に進まねばならない。
僕の食体験からは想像もできないほど強烈な情景を、静かに、静かに描くのは、巨匠コーマック・マッカーシーの真骨頂。

今回のレシピは二人がここで味わう、束の間の、人生最高の晩餐を軽く再現したものです。しかし、死の一歩手前の飢餓状態であるにもかかわらず、それをもらってもいいのか躊躇する少年の健気に姿に、思わず涙してしまう。

世界は相変わらず混沌とし、相変わらず人は奪い合う。考えて見れば、この父と子を取り巻く状況と、我々の世界はいったい何が違うのだろうか。そして僕は今、我が子に何を伝えられるだろう?
目の前の「ロード」を歩き続けながら答えを見出したい。

"地下シェルターでの最高の晩餐"

たった一瞬だとしても、命をつなぎ、心からの安らぎをもたらせてくれる「究極の食」。地下シェルターでの"最高の晩餐"をイメージしました。

材料(2人分)

  • スコーン(市販)…2個
  • グリーンピース(水煮缶)…1缶
  • 牛乳…50~100ml
  • ハム…4枚

<マッシュポテト>

  • じゃがいも…2個
  • 牛乳…50~100ml
  • 砂糖…大さじ1/2
  • 塩…適宜
  • サラダ油…少々

作り方

  1. じゃがいもは皮をむき、食べやすい大きさに切る。
  2. 鍋に1、砂糖、たっぷりの水(分量外)を加えて火にかける。ひと煮立ちしたら、アクをとって表面がゆらゆらするくらいの火加減で柔らかくなるまで10分ほど煮る。
  3. 2の水分を捨てて再度火にかけ、粉吹きにする。火を止めてフォークなどでつぶし、塩、牛乳を加えてなめらかになるまで混ぜてマッシュポテトを仕上げる。
  4. フライパンにサラダ油を熱し、ハムをこんがりと焼く。
  5. 器に3、スコーン、グリンピース(水気をきる)、好みの缶詰(分量外・開けてすぐ食べられるもの)などを盛り付ける。

(料理・文:コウケンテツ)

コウケンテツ さん

コウ・ケンテツ 1974年、大阪生まれ。料理研究家。世界30カ国以上を旅して料理を学んだ経験を持つ。3児の父として親子の食育活動に奮闘中。『アジアの台所に立つとすべてがゆるされる気がした』他著書多数。料理家ユーチューバーとしても活躍中。