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2023.03.15

コウケンテツの“名作ごはん劇場”
Who will watch the watchmen?
アラン・ムーア作コミック『Watchmen』から

コウさんが、こころを動かされた映画や舞台、アート、文学を、“食”の視点で描く随筆。
「独断、妄想的タラレバ視点。ご一読を!」(コウさん)

今や世界を席巻しているアメリカのコミックブック社といえば、アイアンマン、スパイダーマンをはじめとするアベンジャーズやXメンの「マーベル・コミックス」。かたやスーパーマン、バットマンなどを擁する「DCコミックス」。

アメリカン・コミックを代表するスーパーヒーローのほとんどが、この2社から創造されている。

空を飛び、超人的なパワーを持って弱きを救い、悪を倒す正義の味方。我らのヒーロー。しかし、アメリカンコミックの歴史を変えたと言われている、この『Watchmen』(DCコミックス)のヒーローはひと味もふた味も違う。

もし、ヒーローが現実社会に存在したとしたら? それはどんな世界なのだろうか。そんなパラレルワールド的な「もうひとつのアメリカ」を描いた本作で、鬼才アラン・ムーアがこだわりにこだわったのは、「リアリティー」(規格外のDr.マンハッタンの存在と、便宜上物語の背景に合わせて随所変更している史実以外)だ。

実際、登場させる主要なヒーローの心理を、作者自身がより深く理解するために、“アインシュタイン以降の量子論に基づいた難解な時間考察の森を当てもなくさまよう羽目になった……”や、“架空の世界にリアリティを持たせたいなら、現実社会の徹底した分析を避けて通ることはできない……”などの言葉からも、そのこだわりようの凄さが伝わる。この点が、本作がコミックを超え、SF文学の最高峰として評価されている所以なのだろう。

舞台は1985年、核戦争の危機が目前に迫っていた東西冷戦下のアメリカ。時の大統領ニクソン(異例の長期政権体制を維持しているという設定)が1977年に制定した「キーン条約」によって、ヒーロー活動を非合法とされたwatchmen。

世界が破滅に向かう一方、東は東の、西には西の、それぞれが信ずる正義を貫き通す。その乱立する正義の「正しさ」故に、さらなる争いを呼び起こし、激化するという矛盾。いや、これはむしろ必然か。そして脆弱(ぜいじゃく)な権力体制を確固たるものにするために、ホワイトハウスが彼らの力を欲するのもやはり必然だ。

ならばwatchmen自身も然り。自らの正義に従い、進んで歴史の演者になる者、権力を後盾に暴走する者、真実を暴き出そうとする者、静観する者……。 それぞれのヒーローの態度決定が迫られる。

この、いまだかつてない斬新かつ壮大な物語の“核”はいったい何なのか。かなり強引にまとめさせてもらうと、ロールシャッハのこの問いかけに集約されるのかもしれない。

“20世紀という時代の本質はなんだったのか?”

18世紀後半に近代人権思想が確立され、人は、自分と同様に他者という尊い存在の価値を知った……はず。しかし、相変わらず人は人を蹂躙(じゅうりん)し、殺し合いを止めない。

Dr.マンハッタンはエドワード・ブレイク(コメディアン)を評してこう言う。
“底無しの狂気。無意味な殺戮……彼はそれを心から楽しんでいる”

コメディアン自身が、いや、そもそも人間それ自体が本質的に野蛮で、どうしようもなく残虐な生き物なのか。それが人間の真の姿なのだとしたら……。そして目の前の大きな危機、核戦争を回避し、平和への道に進むためにwatchmenはいったい何をすれば……。

グラフィックノベル史上最高傑作との呼び声の高い本作。熱狂的なファンから、アラン・ムーアは未来を予見した予言者であるとも言われている。事実、新聞を毎日読んでいると、その指摘が的を射ていることは間違いない、と感嘆せずにはいられない。 むしろ今だからこそ、是非とも読んでほしい作品なのです。

今回のレシピは、僕が、コメディアンと共に大好きなキャラクター、ロールシャッハの大好物(?)、豆の缶詰を使った簡単な煮込みです。彼は缶のまま、冷えた豆をムシャムシャ食べるのが好きなようですが、せっかくなので、野菜をたっぷり入れて栄養満点に仕上げました。

ロールシャッハも、この物語の重要な鍵になる存在。彼の正義とはなんだったのか、彼がどこに向かおうとしていたのか、そして最後はどうなったのか……。

ロールシャッハの強靭(狂人?)な意志に想いを馳せながらぜひ作ってみてね。

白いんげん豆と野菜の煮込み

材料

  • 白いんげん豆(水煮缶)…200g
  • 鶏もも肉…小1枚
  • 玉ねぎ…1/4個
  • セロリ(筋をとったもの)…1/2本
  • 里いも(じゃがいもでもOK)…1〜2個
  • 酒…大さじ4
  • ローリエ(あれば)…1枚
  • 塩、粗挽き黒こしょう…各適宜
  • 粉チーズ(あれば)…適宜
  • オリーブオイル…大さじ1

作り方

  1. 玉ねぎ、セロリ、里いも(皮をむいて)はそれぞれ1cm角に切る。鶏もも肉は食べやすい大きさに切る。
  2. 鍋にオリーブオイルを熱し、1の野菜を炒める。鶏もも肉、塩約小さじ1/3、ローリエを加え、炒め合わせる。酒を加えてぐつぐつさせる。
  3. 水1カップ、白いんげん豆を2に加えて強火にし、沸いたらアクを取って火を弱め、7~8分ほど煮る。
  4. セロリの葉適宜(分量外/あらかじめ刻んでおく)を3に加え、塩で味を調えたら、器に盛る。粗びき黒こしょう、粉チーズを散らす。

(文・写真= コウケンテツ)

コウケンテツ さん

コウ・ケンテツ 1974年、大阪生まれ。料理研究家。世界30カ国以上を旅して料理を学んだ経験を持つ。3児の父として親子の食育活動に奮闘中。『アジアの台所に立つとすべてがゆるされる気がした』他著書多数。料理家ユーチューバーとしても活躍中。