Life Style
2022.09.14

料理研究家 枝元なほみさんの提案
キッチンの窓を開けて、社会とつながろう!

左上:だしを取った後の野菜はカレーにリメイク! 右上:残りごはんはさらしでくるんで冷凍すると、ラップで包むより断然おいしく解凍できます。左下:かぼちゃの種も愛おしくて。干して、ケーキの材料などに使います。右下:余ったパンは冷凍してもおいしくいただけますし、細かく切って卵、牛乳、砂糖と溶かしバター、フルーツやナッツと一緒に型に入れてもう一度焼くと立派なデザートに。

"フードロス"という地球規模の大きな問題に対して、私たちはどう行動すればいいの? 料理研究家の枝元なほみさんは「私たち自身が変えていく意思と力をもって、小さな声を集めて具体的に前に向かって進まねば」と、フードロス問題と真っすぐに向き合った新刊『捨てない未来――キッチンから、ゆるく、おいしく、フードロスを打ち返す』で提案します。折しも10月は食品ロス削減月間。枝元さんとともに私たちが今できることを考えてみませんか?

(撮影:天日恵美子、松永卓也〈朝日新聞出版写真映像部〉/取材・文:酒井亜希子〈スタッフ・オン〉、保田さえ子、森 鈴香/構成:ボンマルシェ編集部)

枝元 なほみ さん
料理研究家

えだもと・なほみ 劇団員、無国籍料理店スタッフを経て料理の道に。売れ残りそうなパンを集めて販売するプロジェクト「夜のパン屋さん」でも注目を集める。農業生産者をサポートする「チームむかご」や「ビッグイシュー」「大人食堂」の活動も。新刊『捨てない未来――キッチンから、ゆるく、おいしく、フードロスを打ち返す』を10月7日(金)に発売予定。

捨てない未来に向かって、一歩、踏み出してみませんか?

料理研究家という職業柄、フードロス問題について私に求められるのは、キッチンというちっちゃな場所での対症療法的な役割になりがちです。そのことにずっともやもやする気持ちを抱えてきました。フードロス問題は「安い、早い」をよしとする価値観や"大量生産・大量消費・大量廃棄"という社会の大きな仕組みが変わらない限り、解決は難しい。それにもかかわらず、キッチンの中の問題として矮小化され、押し付けられているように感じるからです。

でも、大きなシステムの問題も、対症療法も、どんくさい言い方かもしれないけれど「愛がなくちゃね!」という点につながっていくのだと、気づいてきました。たとえば、つくった人の顔が浮かぶ食べ物には「ありがとうね」「このニンジンのしっぽ、かわいいな」「このネギ、おいしく食べ切りたいな」という想(おも)いが自然と湧いてくる。食べ物だけではなく毎日の暮らしのあらゆること、人に対しても同じです。

根本に愛があれば、大きなシステムの矛盾を見つけることにもつながっていく。逆に、問題があるシステムからは愛が抜け落ちているのだな、とも。

そもそも、私の危機意識は、未来を生きる子どもたちが、ちゃんとごはんを食べられる環境を残していけるか、というところから始まっています。「私たち個々人が取り組みやすいキッチンでの努力は何?」いう考え方とは、スタート地点が違うのです。この夏、欧州やカリフォルニアでは深刻な水不足に陥りました。私たちが当たり前のように口にしているものは、気候変動危機や戦争などで、ふっとなくなってしまうかもしれないんです。これから生まれてくる子どもたちのことを考えたら、今がよければいいというシステムは怖いな、と気付きませんか。

手を動かし、想像することで、キッチンの外へ……

じゃあ、なぜキッチンかと言うと、ここは閉じられた場所ではなく、人を養う豊かなパワーを持っている、社会の中心だから。私は毎年、北海道・余市の岩本さんという生産者さんから、見た目が悪かったり熟しすぎていたりしてスーパーには並べられない、"B品"のトマトを買っています。フードロス問題に取り組むという意識の前に、ただただおいしいから買う。すると、岩本さんも喜んでくださる。「北海道で大雨が降っているけど、岩本さんは大丈夫かな」「どんなふうに食べようかな、○○さんにも食べさせてあげたいな」「未来の子どもたちにもこのおいしさを伝えたいな」。キッチンはそんなことを考え、窓を開けて社会につながっていける場所なんですよね。

私は、食品の賞味期限の表示日を過ぎても、においをかいだり、なめてみたりして大丈夫だと思えば食べます。小さいことだけれど、自分の生命力をシステムにゆだねない、自分のことは自分の体を通して決めるぞ、という意思の表明です。料理もそうで、自分の手を動かしてみれば、主体的に動くことのおもしろさがわかり、食べ物の向こう側への想像力が働くようにもなります。そうやってちゃんと食べて生きるところに、私が言っている"愛"があると思っているんです。最初は対症療法のように思えるかもしれないけれど、キッチンで手を動かしてみたら、ぐるっと価値観が変わる。私の毎日はそんな体験であふれています。そうして、いつか社会を変えられるところまで、みんなで元気を積み上げていきたいのです。(談・枝元さん)

※農林水産省及び環境省が推計、公表している「食品ロス」の量は、事業系食品ロスと家庭系食品ロスの合計ですが、1次産業の生産現場で生じる流通前の食品の廃棄量は含まれていません。本特集では、生産現場から家庭までの食品廃棄に言及しているため、広く用いられている「フードロス」という言葉を採用しています。

<皮もしっぽもおいしいよ!>

フードロスを考えることは、未来を捨てないことにつながる

焼き野菜は、皮もしっぽも葉っぱも丸ごと食べられて、ごみを減らすというより、「わざわざ作りたい!」と思うくらいおいしい。小かぶや間引きニンジン、間引き大根などをよく洗って皮付きのまま天板にのせ、塩とオリーブオイルを振って180℃のオーブンで30~40分焼きます。

皮は野菜の甘みを閉じ込めてくれます。畑からそのまんまの姿でテーブルにやってきてくれたような形もいとおしい。

<ピンとひらめいた"ゾンビ揚げネギ">

頭で考えるSDGsじゃなくて、体と記憶に残る"おいしい!"に

長ネギの青いところは日を追うごとにしなびて色が変わり、くたっと折れた様子が何かに似ている、と思ったら……ゾンビですっ。ゾンビになる前に刻んで薄力粉をまぶして揚げネギにすると、日持ちして、ごはんやそばにのせてもおいしくて、元気が出ます。

<リボベジは目にもうれしい>

根本に人への、食への愛があれば、"捨てないこと"は重荷にならない

根三つ葉や豆苗などは、茎から切り離した根っこ部分を水に浸けると、2度目の芽が出てくるの!キッチンの観葉植物として活躍してもらったのち、バッサリカットして汁物に加え、お得感を味わうのが好きです。

<生ごみはコンポストで土に還す>

すぅすぅと風通しのいい循環の中に自分を置いて、"足るを知る"

これまで回収に出していた生ごみは、コンポストケースへ。自宅で1次処理を行い、農園に戻して完熟させることで、畑に還り、作物を豊かに育てる堆肥になります。