Life Style
2017.02.10

仕事と子育てのバランスの難しさに、日々奮闘中です
綿矢りさ さん(作家)

よく作家を諦めなかったと思います

初の新聞連載小説(朝日新聞)の執筆を終え、『私をくいとめて』を発刊した。

「新聞は読者の方々から、すぐにネットで感想をいただく。驚きと面白さがありました」

連載時は、出産直後であったために「何が起こるかわからないから」と、ほぼ書き上げた形でスタートしたという。主人公の黒田みつ子は32歳。おひとりさまを満喫しながらも揺れ動く女性の日常の、軽妙で繊細な描写は綿矢さんの真骨頂でもあり、連載中から大きな評判を呼んだ。みつ子は常に自分の脳内にいるAという存在と会話し、気になる男性についても相談しながらわずかずつ変化していく。

「多重人格ということではなく、私自身、ひとり暮らしを始めてから自分の中にいる存在というか。自問自答に近いのかもしれませんが、ずっと話している、そんな感じを小説にしたくて」

執筆中は「独身のときに経験した楽しさ、辛さを思い出しました。仕事のグチやひとりでいる女の人の気持ち……、いろいろが書けてよかったと」。そう話す綿矢さんからは、母となったことでの柔らかな美しさのようなものが漂う。

「みつ子が街をぶらつく、あれは私のひとり暮らしの経験を生かしています」

幼児期から読書量は群を抜いていた。

文人なら虜(とりこ)になる人も多い太宰治の面影を追って、「故郷、青森を訪ねて旅した」こともある。高校在学中に『インストール』で鮮烈に作家デビュー。そして最年少で芥川賞を受賞。だがこれが本人にとっては「大変なプレッシャー」となり、大学卒業後は映画館のもぎりや、洋服店や飲食店でアルバイトをする生活となった。

「今思うと、よく作家をあきらめなかったと思います。賞をいただいて、自分という人間が評価してもらえるのは、この分野しかないという思いがあったのでしょうね」

誰しもに共通する疎外感を描く

この年月を経て、以降、綿矢さんの著書はたくさんの女性たちに、共感と感動を与えてきた。

「本を書くようになって感じたのは、思春期のころに自分が抱いていた、周りとの疎外感のようなものは、私だけのことではなくて国とか人種などを超えて、あらゆる人に共通する心理なのかなということ」

3年前の結婚で「精神的には落ち着きました」と言う。

「私のようなタイプと違って、(夫は)にぎやかな人なので、一緒にいると楽しいです」。

だが、1歳の男児を育てつつの、作家業の大変さを経験しているさなかでもある。

「特に産後は、ホルモンの関係もあるのでしょうけど、感情の揺れがひどかったですね。日ごろ考えもしないことを考えたりしました。いろいろと家族の手を借りながら育てています。仕事と子育てのバランスは本当に難しいですね。正解がないし、社会全体を通して、何十年もまだ答えが出ていないですよね。そのもどかしさをすごく感じています」

出産によって「人の始まりを知った。こうやって生まれて、やがて死んでいくんだなと」と、深い言葉を残す綿矢さんの、これから生み出されていく作品に興味は尽きない。

(撮影:渞忠之/文:水田静子)

綿矢さんへQ&A

いつもバッグに入っているものは?
ワセリンです。肌の保湿、指のささくれ、髪にも必需品です。
好きな花と色は?
芍薬(しゃくやく)が好きです。色はオフ・ホワイト。
好きな場所は?
故郷の京都の鴨川べり。
好きな音楽は?
『私をくいとめて』にも出てきますが、青春のきらめきを感じる大滝詠一さんの『ロング・バケーション』

わたや・りさ
1984年、京都府生まれ。2001年『インストール』で文藝賞を受賞、作家デビュー。早稲田大学在学中の2003年『蹴りたい背中』で、第25回野間文芸新人賞候補、翌年、第130回芥川賞を受賞した。12年『かわいそうだね?』で、第6回大江健三郎賞受賞。同作で京都市芸術新人賞を受賞。代表作に『夢を与える』『勝手にふるえてろ』『手のひらの京』ほか。新作『私をくいとめて』(朝日新聞出版)が発売中。表紙絵はわたせせいぞう。ファンである綿矢のリクエストが実現した。