「自分より、選んだ花が評価されるほうがうれしい」
前田有紀 さん(フラワーアーティスト)
(撮影:宮本直孝/文:宮本恵理子)
刺激的なアナウンサーの仕事からフラワーアーティストへの転身のきっかけは、仕事帰りの深夜、立ち寄ったスーパーマーケットで買った一輪の花。
転身から6年が経った今、“移動生花店”として活躍する前田有紀さんに10の質問。
Q1 転身を決定づけたことは?
テレビ局での仕事は刺激に満ちていて、とても充実していました。特に印象的だったのは、取材するアスリートたちの目の輝き。好きなことに一心に打ち込む人の目を見るうちに、「自分ももっと今より輝ける人生があるんじゃないか」と思うようになったんです。本当に好きなことは何だったっけ? と、じっくりと考えてみて浮かんだのが「花や緑」。子どもの頃から大好きだった自然への恋しさが募って、イギリスへの留学を決断。漠然とした夢を追いかけて会社を辞めることには、もちろん不安もありました。でも自分の気持ちに正直になりたかったんです。
現地で庭師見習いとして働いた時、一日中、草取りや水撒きをして過ごした夕方、ふと鏡に映った自分の顔が泥だらけで可笑しくて。でも、「今のほうが私らしいな」って思えたんです。その瞬間、「花を一生の仕事にしよう」と自分に誓いました。
Q2 花の魅力は?
そこに一輪の花があるだけで、人の心を和ませたり、背中を押してくれること。贈り物としても、言葉以上に気持ちを伝えてくれる力があります。この魅力をできるだけたくさんの人に知ってほしいから、お花をショーケースから出していろいろな場所で販売する移動店舗にこだわっています。ジェラート屋さんや雑貨屋さんの軒先をお借りすると、普段は花を買わない人も手に取ってくれます。大雨に降られた時は大変でしたけど(笑)
Q3 今の1日の過ごし方は?
例えば今日は、朝5時に起きて、東京の生花市場まで車で出かけて買い付け。8時に帰宅して家族の支度を手伝って、息子を保育園に送った後は、花の撮影の仕事でした。13時頃に終わって急ぎ昼食を食べて、この取材を受けています(笑)。花の仕事といっても、優雅な暮らしとは程遠いです。毎日慌ただしいですが、「やりたいことをやる」のは自分の責任。やり遂げようとがんばっています。
Q4 母になって感じる変化は?
子どもを産んでからは、自分のペースで使える時間が圧倒的に減りました。以前は「誰よりも早く市場に行って、一番きれいな花を選ぼう!」と肩に力が入っていましたが、今はそうもいかなくなりました。でも、残っている花にはそれなりの美しさがあるんですよね。花の選別に限らず、「こうじゃなきゃダメ」ではなく、「その時々の最善を尽くそう」と考えられるようになりました。息子に出会えてよかったです。
Q5 ご家族も花好きですか?
2歳半になる息子も時々店先に立って、花売りの手伝いをしてくれるんです(笑)。今住んでいる鎌倉も自然豊かな土地なので、花が好きな子に育ちそうですね。一方、夫はバラと他の花との区別もつかないほど疎いほう(笑)。数字は得意なので経営面では頼りにしています。学生時代に出会ってお互いの価値観もよく理解しているし、家事分担も進んでやってくれるので、助かっています。
Q6 好きな家事は料理派? 掃除派?
クリエイティブな作業が好きなので、料理のほうが好きです。週末に生姜シロップを作ったり、梅を漬けたりする手仕事が、いい息抜きにもなっています。
Q7 一番のリフレッシュ法は?
心がワクワクする時間を意識的につくります。頼りにしているのは、本や映画の力。アラスカの大自然の中で暮らした日々が綴られた写真家星野道夫さんの『旅をする木』や、森の手仕事を丁寧に描いた『小さな家のローラ』が好きです。
Q8 バッグの中身の定番は?
花ばさみと口紅です。口紅はひと塗りするだけで自分らしくなれるから。はさみは何本も持っていますが、いつもいいものに出会いたいと思っています。人の手仕事が感じられるものに惹かれます。ヤカンを求めて長野の山のほうに行ったり、作られる過程や場所を見るのも好きです。“家族の思い出”が宿るものたちに囲まれて暮らしたいです。
Q9 自分の性格を一言で表すと?
「シンプル」です。あまり複雑に考えるのが得意ではないし、好き嫌いもハッキリとしているので。特に、花の仕事を始めてからはそうなりました。
Q10 10年後の夢は?
東京の街角が花で溢れる世界を、どうしても見たいんです。忙しい都会の人にこそ、花と日常的に触れてほしい。そのために動き続けます。
まえだ・ゆき
1981年神奈川県生まれ。大学卒業後、2003年にテレビ朝日に入社。10年間のテレビ局勤務後、2013年イギリスに留学。コッツウォルズ・グロセスター州の古城で見習いガーデナーとして働いた後、都内のフラワーショップで3年の修業を積む。「人の暮らしの中で、花と緑をもっと身近にしたい」という思いから様々な空間での花のあり方を提案。2018年秋に自身のフラワーブランドguiを立ち上げる。
インタビュー後記
どうしても行こうとご両親を説得して、16歳で初めて一人旅をした地はモンゴル。翌年も同じ地へという行動の人は、今も変わらない。これから先もしなやかな有言実行の人であり続けるのだろう。
