Life Style
2019.12.05

「思い残すことなく、人生の次のステージへ」
吉田 都 さん(バレリーナ・新国立劇場舞踊次期芸術監督)

(撮影:渞 忠之/ヘアメイク:鈴木麻衣子/衣装:TADASHI SHOJI/文:宮本恵理子)

長きにわたって、世界のプリマとして踊り続けた吉田都さんが、この夏、現役を引退した。舞踊次期芸術監督として後進の指導という新たな道を歩き始めた吉田さんに10の質問。

Q1 2019年夏で、35年間のバレエ現役生活を引退。
振り返って、今年はどんな1年でしたか。

8月の引退公演「LastDance─ラストダンス─」では、日英の素晴らしいダンサーが駆けつけてくださって、この上ない感動の舞台に立たせていただくことができました。準備期間には開演のギリギリまで厳しい調整が続きましたが、これまで積み重ねた35年間の日々が蘇り、「単身渡英して35年の間、『私は1人で闘っている』と気を張ることもあったけれど、こんなにもたくさんの人たちに支えられてきたんだ」と改めて感謝を深める時間を過ごせました。これからは私がサポートする側に回って、若いダンサーたちを支えていこうと、胸に深く刻みました。思い残すことなく、次のステージへと立てることは大きな喜びです。

Q2 現役生活で最も印象的なターニングポイントは?

やはりローザンヌ国際バレエコンクールで受賞し、イギリスに渡ったこと。そして、そのままイギリスで舞台に立ち続けたこと。ロイヤル・バレエ団への移籍も大きなチャレンジでした。実力以上の踊りを期待される場所に身を置かないと、成長は止まってしまう。いつもそう思って、舞台へと挑戦してきました。

Q3 現役時代の典型的な1日のスケジュールは?

渡英してすぐの若い頃はとにかく稽古に没頭していて、いつも眠かったですね(笑)。毎日17時までリハーサル、19時から舞台に立って、翌朝の稽古が始まるギリギリまで睡眠をとる生活を繰り返していました。プリンシパルになってからは、毎日舞台に立つこともなくなり、年齢に応じて、より短時間で効率よく、パフォーマンスを維持するようになりました。

Q4 一流の舞台に立つプレッシャーを、どう乗り越えてきたのでしょうか?

思い描く踊りができずに悩んだことや、自分の姿を見たくなくて鏡を何日も見なかったことも。プロとしての重圧を感じたこともたくさんありました。でも、そんな時にも心の支えになったのはやはり「バレエ」でした。ダンサーなら誰もが憧れる素晴らしい舞台に立てて、継がれる名作を踊れる喜び。オペラハウスで踊りながらふと、バレエと出会った頃の幼い私の気持ちが蘇る瞬間があったんです。幼稚園の時に友達の習い事について行って憧れたバレエレッスンの風景や、初めてトウシューズを履いた時の喜び。好きなことを仕事にできた私は幸せですし、バレエのない人生は想像できません。楽しいこともつらいことも、すべてが「バレエ」に内包されていると思うと、バレエに向き合うしかない。それに、深く悩む暇もないほど忙しかったことも、よかったかもしれません。

Q5 新国立劇場舞踊次期芸術監督としての抱負は?

テクニックの強化はもちろん、私の経験を生かして、「世界の舞台で日本人として踊ること」という壁を乗り越えるために、ダンサーたちにヒントを与えられたら。可能性豊かなダンサーがたくさんいるので、心からワクワクしています。

Q6 自分の性格を一言で表すと?

しつこい(笑)。ただし、バレエにつながることに限って。他のことはあまりこだわりません。しつこい(笑)。ただし、バレエにつながることに限って。他のことはあまりこだわりません。

Q7 引退後の生活で始めたことは?

習い事を始めました。最近は、お料理やお花など。ずっと学びたかった和の文化について知識を深めたくて、小笠原流のお作法を習える席にも参加しました。バレエ以外の世界に触れて基礎から学ぶ生活がとても新鮮で、楽しんでいます。

Q8 家事は料理派? 掃除派?

ダンゼン、料理派ですね。体が資本の仕事でしたので、特に食事に関心が向くのかもしれません。渡英してしばらくは寮生活だったのですが、イギリスの食事に慣れず苦労しました。食生活が充実しないと、メンタルまで不安定になってしまうことも経験。長く活躍できる人の共通点は、しっかり食べてしっかり踊ること。引退するとエネルギー消費量が落ちるので、食事の中身にもより気をつけるようになりました。

Q9 10代の頃の自分にアドバイスをするとしたら?

時間はかかるかもしれないけれど、コツコツと努力を積み重ねることが大切。いつか夢の舞台に立てる日がきっと来るよ。

Q10 10年先、どんな夢を描いていますか?

その頃には仕事していないかしら? しているかしら? もしかしたら、まったく別のことを始めているかも。何もまだ想像できませんが、その時に出会った世界を楽しみたいと思います。

よしだ・みやこ
東京都生まれ。1983年ローザンヌ国際バレエコンクールで受賞後、渡英。84年バーミンガムロイヤルバレエ団に入団。4年後プリンシパルに昇格。95年英国ロイヤルバレエ団に移籍。22年にわたり世界の頂点を極めた。大英帝国勲章など受章(賞)歴多数。2017年文化功労者に選出された。世界のプリマとしての輝かしいキャリアを、秘蔵フォトと、愛するレパートリー紹介、舞台裏、寄稿などで振り返った豪華メモリアルブック『吉田都 永遠のプリンシパル』(河出書房新社刊)を去る8月に刊行。