「育休が“パワーアップ”の機会となる社会に!」
国保 祥子 さん(経営学者・「株式会社ワークシフト研究所」所長)

(撮影:宮本直孝/文:宮本恵理子)
女性が子どもを産み育てることと、社会で活躍すること。この2つが無理なく両立できることが当たり前の社会であってほしい――自らの経験も踏まえてパワフルに行動する経営学者、国保さんに10の質問。
Q1 「育休プチMBA®︎」は、どんな活動?
育児休業の期間を使って、経営者視点でのコミュニケーション力やマネージメント力を身につけることを目的にしたイベント型の勉強会です。6年前に始めて、これまでに累計7,700人超が参加してくださいました。参加した女性たちからは「久しぶりに大人同士の交流ができて楽しかった」「復職後に上司との関係がよくなった」とうれしい反響をいただいています。
育休プチMBA®︎を企画したきっかけは、もともとリーダー教育に携わる中で、「上司部下間のすれ違いが、女性のキャリアの可能性を狭めている」と感じていたこと。また、私自身が会社員時代にMBAを取得した際に、「経営者視点を学べる機会は一生ものの宝になる」と実感したことも、活動の強い動機になりました。やるべきことの優先順位をつけられたり、上司の意図を汲んで発言ができるようになったりと、毎日の仕事がとてもやりやすくなりますし、自信もつきます。
ブランクになりがちな育休が“パワーアップ”の機会となり、子どもを持つことがハンディにならない社会へと変えていきたい。そんな思いで続けています。
Q2 2020年、特に力を入れたいことは?
研究者としての使命は、研究と教育を通じて企業と個人の関係性をよくすること。まずは女性の能力開発に関するデータをまとめ、世の中に広く役立つ形で発信していきたいと思います。2020年秋を目標に、論文を提出できるように準備中です。
Q3 目標を立て、実行するためのコツは?
まず、自分らしい目標を立てることが大事だと思います。誰かの真似ではなく、「私の強みが生かせそう」と思える目標を見つけていく。そして、いきなり高いハードルを越えようとせず、小さな一歩を積み重ねていくこと。「やればできる」という自信をちょっとずつ身につけていきながら、そして時に息抜きも楽しんで、いつのまにか山の頂上まで登っているというのが理想。不器用で意志が弱い私なりの方法です。
Q4 1日のタイムスケジュールは?
朝は6時に起きて、パソコンで仕事のチェックをしながら家事を1時間ほど。7時になったら5歳の娘を起こして支度して、8時に出勤。途中で娘を保育園に送り届けます。仕事を17時頃に切り上げたら、娘のお迎えへ。19時過ぎに夕食をとって、21時には就寝します。東京で仕事がある日も、新幹線で移動してお迎えに間に合うように予定を組んでいます。
Q5 仕事と育児の両立のコツは?
メリハリをつけること。帰宅後は仕事をせず、娘との時間を大事にしています。一方で、緊急の対応や土曜出勤も日常茶飯事。それは「私が選んだこと」と割り切ります。誰かに強制されているのではなく、「人生のコントロールレバーは自分が握っている」という感覚を持てば、ストレスも感じづらくなるんです。
Q6 リフレッシュ法は?
家族と楽しむ旅行やキャンプ。ビーチで遊ぶ夫と娘の横で卒論の添削、なんてこともありますが(笑)。
Q7 失敗して落ち込んだ時の対処法は?
失敗の原因や対策を考えて、次に生かす。昔はクヨクヨしていたのですが、「失敗した事実は変わらないので、学んだかどうかを大事にしよう」と発想を転換。学びを見つけられたら、失敗は忘れます。
Q8 バッグの中身の定番は?
パソコンです。多少重くても能率重視で、キーボードが打ちやすい機種を長年愛用しています。
Q9 10年後、どんな未来を描いていますか?
10年後といえば、娘が中学生になっている頃。娘の人生を尊重し、お互いに自立した関係を築けるよう、私は自分の人生を夢中に歩めるように努力していきたいです。研究者としては、世の中にとって価値ある研究を続けられたら。それも一人の力ではなく、チームで成果を上げるモデルになりたいですね。
Q10 チャレンジしたい女性たちにメッセージを。
人生のどんな時も学びは大切。自分の可能性を自分で狭めないでほしい、とすべての女性に伝えたいです。私自身も出産直後はキャリアを諦めかけたのですが、前向きな言葉をかけてくれる仲間のおかげで一歩を踏み出すことができました。何か始めたい夢があれば、それを口にすることから始めてみてください。きっと周りの誰かが応援してくれると思います。

こくぼ・あきこ
外資系IT企業勤務を経て、慶應ビジネススクールでMBAおよび経営学博士号を取得。現在、静岡県立大学経営情報学部准教授、慶應義塾大学非常勤講師を務める。2014年に、育児休業期間をマネジメント能力開発の機会に活用する勉強会として「育休プチMBA®」をスタート。15年に「株式会社ワークシフト研究所」を立ち上げ、企業・官公庁向け人材育成プログラムを提供する。著書に『働く女子のキャリア格差』(筑摩書房)など。
インタビュー後記
「研究者らしくないですね」と伝えると、「その言葉、うれしいです」と微笑みが返ってきた。社会のあり方も、研究者のあり方も、そして、一人の母親としてのあり方も、“こうあるべき”を飛び越えて、気負いがなく自然体。対話の後味は爽快だった。