「その苦しみ、葛藤、苦労が全部、かけがえのない財産」
小手鞠 るい さん(作家)
(撮影:宮本直孝/取材・文:宮本恵理子/ヘアメイク:武田亜弥子)
普段はニューヨーク州ウッドストックの、静かな森で暮らす小手鞠さん。たまたま、仕事で東京に戻っているとうかがって実現したこのインタビュー。長旅の疲れも感じさせない。パワフルに溢れんばかりの小説愛を語ってくださる小手鞠さんに10の質問。
Q1 最新作『私たちの望むものは』はどんな作品?
私にとって7年ぶりとなる恋愛小説です。ヒロインは小説家志望の女性。彼女が暮らしたニューヨークのアパートで甥が見つけた残像と記憶、そして、彼女が綴った手紙から、一人の女性の“愛の形”を追う物語です。この小説を書き終えた時、「恋愛は自分と向き合うことであり、恋愛の相手は自分自身なのだ」という一つの確信を得られました。幅広い年齢層の女性、それから男性も、人生を振り返れる恋愛小説になっていると思います。
Q2 小手鞠さんにとって「書くこと」とは?
少女時代からずっと物語を描くことに憧れ、時に書くことに逃避し、時に救われ、また時には裏切られながらも諦めずに追い続けてきた「夢」であり「目標」。これは一生続くものでしょう。
Q3 児童書から硬派な小説まで、精力的に書き続ける創作の源は?
私が日頃暮らしているウッドストックの「森」です。日本から離れた異国の地で、動物と植物に囲まれた静かな生活は、ピュアな気持ちで日本語に向き合い、その表現を磨いて物語を紡ぐのに最適な環境です。ある方が「日本語を外国語のように扱えるのが小説家だ」とおっしゃいましたが、まさにその作業を助けてくれる環境に身を置けていると年々実感しています。
私にとっては、森で出会える小さな生き物への愛が、新たなテーマを生み出す泉。大人に向けて書くのと同じように、子どもたちにも人が生きていく上で大切なことを伝えているだけ。対象の違いによってボキャブラリーは変わりますが、書く姿勢にはまったく違いはないんですよ。
Q4 アメリカ人のパートナーとも仲良し。夫婦円満の秘訣は?
お互いの違いや理解できない部分に魅力を見つけて、面白がりながら暮らすこと。私たちの場合は育った文化背景が違うので、「根本は分かり合えない」という前提に立っているのが、かえってよいのかもしれませんね。だからこそ、理解のための努力は惜しまず、若い頃は真剣に議論して派手なケンカもよくしました(笑)。でも、それがよかったのだと思います。そして、二人で常に新しい冒険をすること。一緒に旅をするのも大好きです。
Q5 最近の旅先でよかった場所は?
アメリカ西南部とギリシャ。ギリシャでは地中海の恵みたっぷりの食事を楽しみ、海辺で見つけた“あるもの”が今回の小説の重要なモチーフになりました。旅はあくまでリフレッシュのために行くものですが、インスピレーションを持ち帰れることも多いですね。旅程は計画を立てるのが大得意の夫にお任せ。私は彼の計画通りについていくだけです(笑)。
Q6 家事は夫婦で分担を?
はい。それぞれが得意なことを担当します。お掃除は家電ロボットが活躍してくれて、料理とスーパーでの買い物は夫が。私は、洗濯と庭仕事、パンやお菓子作りの担当です。
Q7 ご自分の性格を一言で表すと?
悲観主義者。とってもクヨクヨするタイプなんです。夫は正反対で「悩みがあれば、実践的に解決したほうがいい」とドライに解決しようとするタイプ。実際、私が泣き寝入りしかけていた問題を、一緒に解決してくれたこともあります。
Q8 リフレッシュの習慣は?
一番は書くこと。私にとっては執筆が最高のストレス解消になっています。あとは毎日のランニング、読書、週末の登山。やっぱり自然は癒やしとエネルギーをくれますね。それから、最近は夫婦揃って「般若心経」にハマっています。夜にリーンと鈴を鳴らし、二人で唱えるのが日課に。無心になれてスッキリします。
Q9 10年前のご自分にメッセージを贈るとしたら?
その苦しみ、その葛藤、その苦労が全部、かけがえのない財産になるよ。もっと悩みなさい、苦しみなさい、泣けるだけ泣いておきなさい。すべては過ぎ去ることであって、今しか味わえない体験だから。
Q10 これからの夢、目標は?
私が生きた時代に起きた出来事や出会った人物にフォーカスしたノンフィクションのようなフィクション、老齢と言われる歳を迎えてもなお熱い恋愛小説を描いてみたいです。そして愛ある人生をいつまでも。
こでまり・るい
岡山県生まれ。大学卒業後、出版社勤務、書店員などを経て、執筆活動を始める。92年より、米ニューヨーク州で夫と暮らす。『欲しいのは、あなただけ』で島清恋愛文学賞受賞。児童書でも精力的に執筆し、19年には『ある晴れた夏の朝』で小学館児童出版文化賞を受賞。代表作に『エンキョリレンアイ』『アップルソング』など。最新作の『私たちの望むものは』は、河出書房新社より3月中旬に発売予定。
インタビュー後記
「可愛らしい大人」。僭越ながら、お会いするたびにそんな印象を強める。可愛らしさとは純粋であること。大人とは、責任を引き受け、弱き者に愛情を注ぐ成熟。そんな生き方を教えてくれる。溢れんばかりの小説愛を語った後、ファンが待つ書店の会場へと急ぐ背中は、“物語の伝え手”だけが知る喜びに満ちていた。
