Life Style
2020.10.19

「しんどいと言った次の瞬間にケロッとしてます」
河瀨 直美 さん(映画監督)

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樹木希林さんは後輩に「河瀨監督の作品には一度は参加しなさい。ためになる」とすすめていたと聞く。名優に「ためになる」と言わしめたその魅力は? 気分転換はいつもバッグに入れている「梅エキス」と答えるチャーミングな河瀨監督に10の質問。

Q1 映画『朝が来る』が間もなく公開!

構想は3年以上前から。特別養子縁組をテーマにした原作小説を読んだ時、一人の当事者として強く惹(ひ)かれるものがありました。私自身、幼い頃に実の両親と離別し、親戚夫婦の養女として育ったルーツがあるので。この作品はフィクションですが、作中の一部はドキュメンタリーのように仕立て、私がカメラを回して撮っています。俳優の演技が素晴らしく、感情移入して泣きながら撮っていました。

すでに見ていただいた方からは、「河瀨ファン以外の方にも、幅広く楽しんでもらえる作品になっていますね」と言われることが多くてうれしいです。

Q2 原作ものとオリジナル脚本で姿勢の違いは?

原作ものを撮るのは、『あん』(2015年)に次いで2作目です。何を見てどう感じるかによって世界は変わると考えると、人の数だけ世界はある。その意味では、原作というストーリーラインがあることは、映画を撮る上での明確な指針になります。ただし、“絵”の想像を読者にゆだねる小説と違って、映画は明確な一つの“絵”を示す表現なので、伝え方は全く違う。原作者の意図を汲みながら、一つひとつ、映像言語に翻訳していく作業は難しくもやりがいがあります。

Q3 本作では「海」の描写が印象的

私は「場の力」を借りて、イマジネーションを広げることが多いんです。今回は、ロケハンで瀬戸内の小さな島を目にした途端、「ここだ!」と気持ちが定まりました。計6カ所の撮影地のうち、一つは私の生活拠点・奈良に。私自身が根づき親しんだ場所で撮ることで、私がこれまで重ねた時間もすべて、作品の中に入るものだと思っています。

Q4 河瀨さんにとって映画とは?

私にとって、映画は“もう一つの世界”を描く営み。現実世界ではできなかったことを、表現者としてもう一度作り出せる。たとえネガティブだった経験も、映画として表現し直すことでポジティブに転換できる。その作品で描く世界は現実ではないけれど、現実を変えていく力はあると信じています。

Q5 “アートの価値”は?

音楽や絵や物語に全く触れずに人生を終える人はいません。他の動物より遥(はる)かに頼りなく脆弱(ぜいじゃく)な人間が、これほど進化できたのは、「集う力」を得たから。集うことで民族や宗教や国家が生まれていき、文明が発展した。そして、人が集う中心にはいつもアートがあったはずです。悲しくても、アートによって癒やされたり、元気が湧いたり。いわば「フィクションを信じる力」によって人間は生き永らえてきたのではないでしょうか。つまり、アートを遠ざけることは生存の綱を手放すこと。命に関わる問題だと私は思います。

Q6 コロナ禍に始まった新習慣は?

ランニング! 規則正しい生活のために、高校生の息子と一緒に、朝走る習慣を始めたんです。シューズも買って、息子と競い合って走っています(笑)。

Q7 親子仲良しを維持するコツは?

ダメ出しはしない。そして、弱音を吐く(笑)。「お母ちゃんはしんどいです。あんたはすごいなぁ。助けてな」と弱音を積極的に吐くと、洗濯も食器洗いもなんでもやってくれます。将来、ちゃんと結婚できる息子を育てるのが私の目標です(笑)。

Q8 好きな家事は?

家事は料理も掃除も好き。時間があればやっています。室内やベランダで植物を育てるのも趣味です。得意料理ですか? 息子に好評なのは、ル・クルーゼの鍋で作る鶏肉のオーブン焼き。彼が小さい頃に名付けた「お母ちゃんのレストラン屋さん」という名称で作っています(笑)。ステイホーム中は彼の料理の腕前も上達しました。YouTubeで勉強して、カツレツやら肉100%ハンバーグやらアクアパッツァやら、たくさん作ってくれました。梅干しまで漬け始めたのには、母の私も驚きました。

Q9 ご自分の性格を一言で表すと?

切り替えが早い。「しんどい」と言った次の瞬間にケロッとしてます。瞬間ごとの状況認識力が問われる映画監督の仕事をするには、いい性格なのかも。

Q10 10年後の自分に約束を。

約束はしません! 50歳を越えて、何かにしばられることがホントに少なくなりました。そして、軽やかになれたのです。だから「“今”“ここ”を丁寧に重ねてゆくね」と、10年後の私に伝えておいてください(笑)。

(撮影:宮本直孝/スタイリスト:安野ともこ コラソン/取材・文:宮本恵理子)

河瀨 直美 さん
映画監督

かわせ・なおみ 映画監督。奈良を拠点に映画を創り続ける。一貫したリアリティーの追求はカンヌ映画祭をはじめ各国の映画祭で受賞多数。代表作は『萌の朱雀』『殯の森』『2つ目の窓』『あん』など。故郷の奈良において「なら国際映画祭」をオーガナイズしながら次世代の育成に力を入れる。東京五輪公式映画監督。2025年大阪・関西万博プロデューサー。辻村深月の同名小説を映画化した『朝が来る』が10月23日(金)より全国公開。