Life Style
2020.12.21

「発信を止めてはいけない、という思いを強くしています」
原田 マハ さん(小説家)

撮影:藤井 保/ヘアメイク:MIZUHO/取材・文:宮本恵理子/撮影協力:東京国立近代美術館/アンリ・ルソー作『第22回アンデパンダン展に参加するよう芸術家達を導く自由の女神』の前に立つ原田さん。

原田さんの著書『楽園のカンヴァス』に「名画はときとして人生に思いがけない啓示をもたらす」という一文があるが、原田さんにとってのそれは、ルソーの絵?ピカソの絵?それとも……?うかがいたいこと多々、興味津々で、10の質問。

Q1 2021年は作家15周年。振り返っての思いは?

さっきふと、15年前よりさらにさかのぼって「30年前に私、何していたかな」と思い返してみたんです。湾岸戦争で世界が揺れた時代。私は商社に勤めていて、ランチタイムには東京・外苑前の銀杏(いちょう)並木を見ながら女子トークを楽しむのが日常でした。その15年後に、小説を書いて、そのまた15年後にまさか朝日新聞の取材を、しかもオンラインで受けるなんて! 月日がもたらす変化に驚かされると同時に、明日のことすら予測できない現実世界で、やりたいことを続けられている喜びをかみしめています。

Q2 書くことを楽しみ続けるコツは?

長く読み継がれるものを書きたい、という思いは常にありますね。それはきっと私が触れてきたアートから受け取ってきた感動が起因していると思います。例えば、ルーブル美術館に収蔵されている6000年前の壺と目が合った瞬間。今、この時代に生きる私とこの壺(つぼ)が出会うまでの途方もない時の集積に思いを馳(は)せれば、決して出逢(あ)えるはずもない私と作者が、目の前の壺を通じてつながった奇跡に胸が震えます。優れたアート作品は、時空を超えて伝わる。私もこの思いを持って書いていこうと決意して生まれたのが『楽園のカンヴァス』でした。

特に今年は、コロナ禍で人とのつながりの持つ意味を再確認できた1年となり、「発信を止めてはいけない」という思いを強めました。私が作品を通して発信を続けることで、受け止めてもらえる方とつながっていけるものだと信じています。

Q3 作品の題材となるヒントは?

ふとした出会いがきっかけになることが多いですね。おもしろいと思ったことを注意深く観察したり、無防備に飛び込んできたものを見逃さずに捕まえたり。アート小説の場合は、歴史に名を残したアーティストの背景にある人物の存在やエピソードを深追いしていく過程で、新たなテーマを発見していきます。

Q4 アート小説を書く理由は?

美術は本来、観(み)て感じるもの。それを文字で表現しようとするなんて、無粋なことをしていると自分でも思います。ではなぜわざわざその仕掛けをするのかというと、私はアートの入り口であり出口でありたいからです。敷居が高いと思われがちなアートを私が物語に仕立てることで、誰かが興味を持つきっかけになれれば。さらには読者が本を閉じた後に美術館へ出かけてくださるのであれば、こんなに嬉(うれ)しいことはありません。小説家に許される妄想を駆使して、アーティストの忠実なる使徒になったつもりで書いています。

Q5 今年始まった新習慣は?

自粛期間を含めて家にいることが多かったので、古典を再読できる時間が増えました。芥川龍之介や武者小路実篤の作品などをあらためて読んでみると、その素養の深さや瑞々(みずみず)しい感性に圧倒されます。

Q6 好きな家事は料理派?掃除派?

料理は気分転換にもなるので好きです。パリの家で過ごしている時はほぼ自炊。近くのマルシェで調達した食料と、日本から持ってきた調味料を使って「どこまで和食を再現できるか?」と挑戦するのが楽しいんです。掃除は、見えているところが整理整頓できていればよしというタイプ(笑)。モノはできるだけ増やさないように、「持ち物の定番を決める」ことを心がけて。モノと長く付き合う。パリで学んだ姿勢です。

Q7 ご自身の性格を一言で表すと?

サバサバしている。どんな時でも、いったんは状況を受け入れて、物事のサニーサイド(良い面)を見ようとします。私の作品にあまり悪人が出ないと言われるのも、この性格に由縁しているのかも。

Q8 リフレッシュの習慣は?

森の中での愛犬(ラブラドルレトリバー)との散歩。お風呂の中での読書も好きな時間です。

Q9 バッグの中身の定番は?

ミニサイズのバッグインバッグ。美術館に行く時には大きな荷物を預けて貴重品だけ持ち歩くのに便利。近頃はミュージアムショップで買ったセザンヌとルソーのミニバッグを気に入って、使い回しています。

Q10 10年後の自分へ約束を

小説はもちろん書き続けていたいですが、アートに対してもより積極的に関わっていきたい。憧れは、若きピカソやマティスを支えた作家でコレクターのガートルード・スタイン。10年後には足元のうちくるぶしくらいまでは到達できるよう頑張ります。

原田 マハ さん
小説家

はらだ・まは 1962年東京都生まれ。伊藤忠商事、森ビル森美術館設立準備室、ニューヨーク近代美術館勤務を経て、キュレーター、カルチャーライターに。2005年、『カフーを待ちわびて』で第1回日本ラブストーリー大賞を受賞し、06年に作家デビュー。『楽園のカンヴァス』(第25回山本周五郎賞)、『たゆたえども沈まず』など、アートの題材を中心に多彩な作品を発表する。『キネマの神様』が山田洋次監督により映画化、21年4月16日(金)公開予定。