Life Style
2021.03.22

「どんな状況であっても友と、人と繫(つな)がっていたい……」
柚木 麻子 さん(小説家)

撮影:齊藤晴香/取材・文:宮本恵理子

今なお続くコロナ禍。柚木さんのインタビューもオンラインでしたが、画面越しの遠さを感じさせず、まるで親しい友人とリモートお茶会をしているよう。10の質問に自由闊達に答えてくださいました。

Q1 国内外作家10人による小説集『覚醒するシスターフッド』が話題です。

「シスターフッド」とは、女性たちの結束や共闘のこと。本書は雑誌『文藝』で組まれた特集が緊急書籍化されたものですが、私の周りの友人や母からも好評で、貸したらなかなか戻ってきません(笑)。

Q2 柚木さんの作品「パティオ8」はどんな物語?

私の作品の舞台は緊急事態宣言下の東京、中庭をロの字形に囲む形で建てられた集合住宅。ステイホームの呼びかけで、在宅勤務・在宅子育てを余儀なくされた女性たちに、住人の男性が「子どもの声がうるさくて商談に支障が出る」と訴えたという〝事件〟から物語は始まります。実はこの設定、私の友人の身に実際に起きたことでした。

1人の男性を助けるために、何人もの女性たちが何かを我慢しなければならない不条理への憤りが、創作の動機になりました。現実はなかなかうまくいかなかったと聞いていますが、小説では痛快なハッピーエンドに。物語の力で、彼女たちの気分が少しは晴れたかなと思っています。

Q3 新しい執筆のスタイルへの挑戦でもあったとか?

私はもともと肺が弱く、コロナ感染予防のために外出禁止が医師から言い渡されていたんです。普段は取材に出かけますが、この作品は家から一歩も出ずに書いたもの。事情に詳しい友人たちに電話やオンラインで聞いて情報を集めて書き上げました。

Q4 小説家を志したきっかけは?

学生時代にはシナリオを勉強し、ドラマのプロットライターとしての活動も始めていました。けれど、演じることを前提とする「制約の多さ」に限界を感じて、製菓会社に入社。会社員生活を始めたものの、やはり書きたい気持ちは消えず。25歳の冬、親友へのクリスマスプレゼントに「オシャレな装丁の気の利いた短編小説を贈りたいな」と探したのですが、見つからなくて。ないなら自分で書こうと、『オードリーのクリスマス』という手製の小説本を渡したら、親友が感動して「こんなに面白い小説はない!」と絶賛してくれたんです。以来、何か書いては彼女に読んでもらい、さらに文学賞にも応募したのがデビューのきっかけ。つまり、「ど素人がたった1人に向けて書いた」のが、小説家の私の始まりなんです。

Q5 小説を書く醍醐(だいご)味は?

『ランチのアッコちゃん』のドラマを見たという77歳男性から、「キャリア志向の女性とそうではない女性が仲良くできることを初めて知った」という感想が新聞に投稿されていたんです。エンターテインメントを通じて、作品が幅広い人に届き、〝まだ見ぬ友達〟と出会える可能性を感じました。

Q6 リフレッシュ法は?

最近は、音声SNSでおしゃべりしたり、歌ったりすることにハマっています。調理中などが多いですね。友達との電話やリモート飲み会も好きです。

Q7 小説業と母親業、両立の方法は?

両立はできていません。切り替えもうまくできません。執筆中の連載「らんたん」で描く1945年の食糧事情を考えながら、2時間後に子どもに作る献立を考えたり、ゴッチャゴチャな毎日です。日常の不安が1ミリでも解消される作品を書いていきたいです。

Q8 ご自分の性格を一言で表すと?

“赤ちゃん宇宙人”。これ、実際に先輩たちに言われた言葉で(笑)、つまり「何も通じないし、何もできない」。その分、人に助けてもらって生きてきました。失敗しても立ち直れるし、助けてもらえる。私が子どもに教えられるのは、それだけかな。

Q9 これから描いてみたいテーマは?

60年代を舞台に戦争で夫を亡くした女性と三姉妹の物語を構想中です。この時代に六本木で高校生活を過ごした私の母から聞き重ねた話がモデルです。

Q10 10年後の自分に約束を。

私は今年40歳になるので、10年後は「トンかつ子の50歳」に近づきたいです。トンかつ子とは「こんな70代になれたらカッコイイ」と私が妄想して創り上げた“理想の女性像”。淡色のサングラスとフェンディのターバンを巻いていて、図書館七つ寄贈したほか、貧困女性を支援する活動もしています。

こんなふうに、「遠い将来の理想の自分」を自由に空想しながら細かく設定してみると面白いですよ。

柚木 麻子 さん
小説家

ゆずき・あさこ 1981年東京都生まれ。2008年に『フォーゲットミー、ノットブルー』で、第88回オール讀物新人賞を受賞。15年、『ナイルパーチの女子会』で、第28回山本周五郎賞を受賞。代表作に、テレビドラマ化された『ランチのアッコちゃん』のほか、『BUTTER』『マジカルグランマ』など。この2月に発売された短編「パティオ8」(河出書房新社刊『覚醒するシスターフッド』に収録)も話題に。小学館webきららにて「らんたん」連載中。