「“今この瞬間”を家族と共にできる豊かさを味わっています」
内田 也哉子 さん(エッセイスト・アーティスト)
(文:宮本恵理子、撮影協力:「週刊文春WOMAN」)
『なんで家族を続けるの?』の共著者で脳科学者の中野信子さんは也哉子さんを「心の動きを丁寧にみる人」と語る。そんな也哉子さんへの緊急事態宣言下のインタビューはオンライン。家族で育てたハーブも見える自宅のベランダから(写真下)お答えくださった。
Q1 『なんで家族を続けるの?』が話題
この本は、常識の枠に収まらない両親の元に生まれた私と、また違ったタイプの家庭環境にあった脳科学者の中野信子さんとの対話から生まれました。特に私の場合は奇抜な家族体験を語ったわけですが、読んだ方は「実は私の家族も……」と決まってご自身のお話をされるんです。多かれ少なかれ、どんな家族にも葛藤はある。“フツウの家族”はどこにも存在しないのだと、気づかされました。本を書くことは、コミュニケーションを生むことなのだとも感じました。
Q2 多彩な表現活動の原動力は?
人から「やってみたら」と勧められたことだけをやってきた“受け身”の人生。執筆もお芝居も結婚でさえ。日常の中で偶然出会うものに導かれて流れ着いたのが今の私です。出会うものに対して、「この運命を受け入れよう」と信じる力は強いのかもしれません。
Q3 夫の本木雅弘さんとは性格が正反対とか。似ているところは?
私も夫も納得できるまでこだわるタイプ。あと、話が好き。私が困り事や希望を伝えると、彼はちゃんと向き合って何時間も付き合ってくれます。根気強く、解決の糸口が見つかるまでとことん。よくよく考えれば、それが「愛」なのかもしれないですね。彼は、私にとって一番大事な時期に一番影響を受けた人。きっとこれからも深く向き合い続けていくのだろうと思います。
Q4 久しぶりに家族5人が集まって暮らすステイホーム期間
海外で暮らしたり、旅をしたり、常に“外向き”で定住しない家族が、この一年はすっかり“内向き”な暮らしに。制限を活用する発想で、これまで疎(おろそ)かにしてきた「今ここにあるもの」に焦点を当ててみると、新鮮な気づきがいくつもありました。手付かずだった花壇にハーブを植え、これはおいしいと思えるバジルペーストを作ったり、庭で宝探しごっこをしてみたり。ピアノも久しぶりに再開。小学生の次男が絵を描き始めて仕上げるまで、ずっとそばで見届けられたのも初めて。これまでは、あれもやらねばこれもやらねばって落ち着かなかったから(笑)。“今この瞬間”を家族と共にできる豊かさを味わっています。
Q5 子育てで大切にしてきたことは?
子育ては一筋縄ではいかないことばかりですし、私が教えられることは限られています。「絶対にこれしかない」と決めつけず、起きた事柄をいろんな方向から見てみる姿勢を大切に。ままならない時は、母がよく言っていた「水のような人になりなさい」という言葉を思い出します。水は器によって形を変えるが、本質は変わらない。しなやかさと強さを備えた人間に、私も子どもたちもなれたらいいと思います。
Q6 好きな家事は料理派? 掃除派?
20代はとにかく心に余裕がなくて、料理を楽しめるようになったのは30代後半から。今は夫と一緒に台所に立って、献立を分担して作る時間も楽しんでいます。片付けに関しては、持ち物を極限まで減らして暮らしていた母からの影響を自然と受けていると感じます。例えば、掛け軸と一輪挿しだけで無限の美をつくり出す床の間の美学など。物との付き合い方は、人付き合いとも通じますね。ちなみに、夫は結婚当初から炊事洗濯なんでもできる人。私はとても恵まれていた! と幸運に感謝しています。
Q7 自分の性格を一言で表すと?
繊細で打たれ弱く、とても怖がり。だけど、いざという時には底力が湧いてくる。
Q8 落ち込みから立ち直る方法は?
母はいつも、何かにつまずいたとき「ありがたいありがたい、これがあったからこそ次にくる幸せの濃度を強く感じられる」と言ってました。ずっと平坦(へいたん)だと幸せは感じにくい。日々の暮らしには細かい緩急で幸不幸があるけれど、「あ~よかったセーフセーフ」って小刻みに幸せを感じています。これがいちばん、幸せを多く感じられる方法かなと。物事には陰があれば陽がある、光には影がある。なるべく、俯瞰(ふかん)するようにしています。
Q9 20歳の頃の自分に今アドバイスしたいことは?
長男を身ごもった頃の私は、同世代と比べて自分だけが立ち止まっているかのような焦燥にかられていました。当時の私には「大丈夫、あっという間に人生は過ぎるから、今のその瞬間を一つ一つ味わっていればいい」と言ってあげたい。
Q10 10年後のご自分に約束を。
私が55歳のときで、末っ子も成人する。建築家のル・コルビュジエがそうしたように、大好きな海辺に小さな小屋を建てるのが夢。都会の喧騒(けんそう)と海辺の静けさを行き来しながらの暮らし……贅沢(ぜいたく)ですが、憧れます。
内田 也哉子 さん
エッセイスト・アーティスト

うちだ・ややこ 1976年東京生まれ。エッセー執筆を中心に、翻訳、作詞、バンド活動「sighboat」、ナレーションなど、言葉と音の世界に携わる。幼少のころより日本、米国、スイス、フランスで学ぶ。3児の母。著書に『ペーパームービー』『会見記』『BROOCH』、樹木希林さんとの共著『9月1日 母からのバトン』など。新刊は、中野信子さんとの共著『なんで家族を続けるの?』。翻訳絵本に『たいせつなこと』、『岸辺のふたり』『ピン! あなたの こころの つたえかた』『ママン世界中の母のきもち』他多数。現在、季刊誌「週刊文春WOMAN」でエッセー「BLANKPAGE」を連載中。Eテレ「noart,nolife」(毎週木曜午前5:55~/再第4日曜午前0:30〜)では語りを担当中。
