「ブレない理想、を追い求め続けたい。これまでも、これからも」
小林 愛実 さん(ピアニスト)
(撮影:宮本直孝/文:宮本恵理子)
先ごろ開催された第18回ショパン国際ピアノ・コンク―ルで4位入賞を果たした小林愛実さん。「もしも、コロナ禍がなければ昨年の開催のはずでしたが、そうだったら私は出場していなかったと思います」と、人生の巡り合わせを語る小林さんに10の質問。
Q1 ショパン国際ピアノ・コンクール入賞から1カ月。変化は?
私自身は何も変わっていないのですが、こうして取材を受ける機会も増えたりと、周りの皆さんとの関わりが広がったことが嬉(うれ)しいです。
ショパン国際ピアノ・コンクールの出場は2回目でした。前回は20歳の時で、若さと勢いでできたチャレンジ。今回はコロナ禍の影響で開催まで1年の延期期間があったこともあって、自分の意思をじっくりと見つめた上で出場を決めました。大切にしたのは「ブレない理想」。自分が理想とする音楽像を、今回は最後まで信念を持って追求できたと思います。
Q2 小林さんにとって理想のピアニスト像とは?
音に忠実であるピアニストです。演奏中の姿の華やかさで惹(ひ)きつけるような「魅せること」には重きを置かず、楽譜に書いてある一音一音を最後まで大切に弾く。「この作曲家はどんな表現を求め、どんな感情で書いたのだろう」と想像を膨(ふく)らませ、できる限り汲(く)み取っていきたい。作曲家が求めた理想に私なりに向き合って追求して、その上でその音楽をつくり上げていく。そんな姿勢を守っていきたいと思っています。
Q3 幼少期からピアノを続けてきた小林さんの表現を支えたものは?
自信がなくなったり、つらくなったり、ピアノをやめようと思ったことは何度もあります。でも、続けてきたのは純粋に「音楽が好き」という気持ちがあったから。どんな職業にも苦労はつきまとうものだと思いますが、努力の先に最高の楽しみや幸福があることを知っているから、その一瞬のために頑張れるのでしょうね。
Q4 この道で生きると決めたきっかけは?
私がピアノを始めたのは2歳のとき。もともととてもシャイだった私に人馴(な)れさせようと両親がいろいろな習い事に通わせ、その一つが音楽教室だったそうです。そして、教室にあった楽器の中でたまたま私が気に入ったのがピアノで、以来、弾き続けました。
「この道でやっていこう」と心がきまったのは20歳の頃。ショパン国際ピアノ・コンクールに初めて出場してその舞台で弾いているとき、ピアノ人生の中で一番楽しくて。「私、やっぱりピアノが好きなのかも!」と実感できました。それまでは「私はピアノしかできないからピアニストになるしかないのかな」と半ば強迫観念があって3年ほど悩んでいたのですが、純粋に「私はピアノが好きだから」という気持ちに立ち返って職業にする道を選ぶことができました。こう振り返ると、まるでショパンに導かれているようですね。
Q5 リフレッシュ法は?
休む時は休むと決めて、家の中でゆっくりとゴロゴロしていますよ。ピアノを1日弾かない日だってあります。一番のストレス解消法はショッピング。「頑張った自分へのご褒美(ほうび)」として、好きなお洋服とかお化粧品を少しずつ買うのが大好きです。今回の入賞のご褒美には一生モノにできる腕時計を買うと決めていたのですが、下見に行ったら思ったよりも高くて、いったん保留中です。(笑)
Q6 ここぞ!のパワーフードは?
舞台に上がる15分くらい前にチョコレートを4、5粒食べます。特に「LOOK」を食べたときにいい結果が出たので、験(げん)担ぎで毎回持参するように。ストッキングも毎回新品をはくと決めていたり、結構気にしちゃうタイプなんです。
Q7 ご自分の性格を一言で表すと?
これと決めたら、強い。もともと繊細で引っ込み思案だけれど、いろいろなステージや留学の経験を通じて強くなれたと思います。
Q8 ステイホーム中に始めた習慣は?
ガーデニングやお菓子作り。1週間プリンを作り続けたり。でも私、ピアノ以外は飽き性なんです。(笑)
Q9 10年前の自分にアドバイスを
「何かにならねば」にとらわれず、何かを楽しむ気持ちを大切に、その時にしか味わえない人生を楽しんでほしいです。やらずして後悔するより、挑戦して失敗する後悔を。
Q10 12月に聴くおすすめの曲は?
シューベルトの即興曲の作品142の2番。ゆっくりと流れる変イ長調で、温かく包み込まれるような雰囲気がクリスマスにぴったり。ショパンのプレリュード17番もおすすめ。掃除どきのBGMにするならバッハの「ゴルトベルク」かな。激しすぎず、穏やかすぎず淡々としていて、作業がはかどりそうだから。
小林 愛実 さん
ピアニスト

こばやし・あいみ 1995年山口県生まれ。3歳でピアノを始め7歳でオーケストラと共演。8歳より二宮裕子氏に師事。桐朋女子高等学校音楽科を経て、米カーティス音楽院に留学。マンチェ・リュウ氏に師事する。2015年、第17回ショパン国際ピアノ・コンクールで、日本人唯一のファイナリストとなる。21年の第18回同コンクール第4位入賞。最新CDは「ショパン:前奏曲集 他」(ワーナークラシックス)。
