「全国の職人さんと協業して"ものづくり"の根幹をしっかりと築いていきたい」
千石 あや さん(「中川政七商店」代表取締役社長)
(撮影:久保田狐庵/文:宮本恵理子)
古都、奈良に300年以上続く企業で、創業家以外から初めて社長に抜擢(ばってき)されて14代目となった千石あやさん。以来4年、生活雑貨の企画製造・販売を手がける老舗のトップとして走り続けています。でも「強靭(きょうじん)」というより、「温かく包み込む」印象の人。撮影時も、社内は、千石さんのお人柄そのままの温かな空間で包まれていました。
Q1 社長就任時のお気持ちは?
私たちは300年以上前に奈良で生まれた、ものづくりの会社です。先代の社長が「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを掲げて、2010年に「中川政七商店」というブランドを立ち上げました。私は子どもの頃からアートや美しいものが好きで、大学卒業後は大手印刷会社でデザイン系の仕事をしていたのですが、中川の価値観に深く共感して転職した中途入社組だったんです。
尊敬していた先代から社長のバトンを渡された時は、「なんで私なの? 私でいいの?」と驚き、半年近く悩みましたが、最後は先代の決断を信じて覚悟を決めました。
Q2 仕事で大切にしていることは?
全国の職人さんと協業し、ものづくりの根幹をしっかりと築いていくことです。日本の各地には、素晴らしい職人さんがたくさんいて、世界に誇れる技術があちこちに輝いています。
昔からあったけれど、時代の変化によって使われなくなった道具を、今の暮らしに合う形にアップデートしてお届けするのが私たちの役割。日常で工芸品を使うことの豊かさを、より一層丁寧にお伝えしていくことが私の代でやるべき務めだと思っています。
そのために大切にしたいのはやはり〝現場〟に行くこと。ものづくりの産地で職人さんに会いに行くことで、初めて見えるものはたくさんあります。布巾をとっても、職人さんが一枚一枚線を引いて仕上げていて。そんな手間に触れるだけで、使う幸せを感じます。直営店やオンラインショップでも、この〝行かないとわからない部分〟を感じていただくためのコミュニケーションは大切にしています。
Q3 社長になって、ご自身に変化は?
自分ではあまり変わっていないつもりですが、どうでしょう(笑)。それまでの私を見て期待をかけてもらったのだとしたら、むしろ変えずにいることも大切なのではないかとも思っています。もちろん考えることのレイヤーは替わりますし、より伝わりやすい言葉を選ぶなど意識することはありますが、基本的には同僚とも今までと変わらないコミュニケーションで。社員はビジョンに共感して全国から集まっていますし、社長はそれを共有し昇華させる司令塔。肩肘(かたひじ)を張らず、いい意味で〝社長以前の自分〟と変わらない気持ちでいます。
Q4 リフレッシュ法は?
1年前に、念願だった犬を飼い始めました。コロナ禍の影響で夫が在宅勤務に切り替わったので「今ならお世話できるかも!」と思い切りました。今では、かけがえのない癒やしになっています。店舗を一時休業しなければならなかったりとハードな時でも、愛犬の食事やトイレのお世話をする時間は、気持ちが完全に切り替わって、いいリフレッシュになっています。
Q5 今、注目の暮らしの道具は?
地味ですが、「フック画鋲(がびょう)」です。「留める」だけではなく「引っ掛ける」こともできて、二つ並べてさせばポストカードを立てかけて飾ることも。フック部分の型から職人さんに作ってもらいました。役釘という日本古来の便利な暮らしの道具をアップデートした好例です。

Q6 好きな家事は、掃除派? 料理派?
趣味と言えるくらい掃除が好きです。毎週土曜には早めに起きてコーヒーを飲んだ後、2時間くらい集中して掃除をするのが習慣。きれいに部屋を整えた後の、空気が変わる感じが好きなんです。
Q7 今、一番行きたい場所は?
どこか静かな温泉宿。気の置けない友人と会って、ゆっくり語り合いたいです。〝非日常〟が続くからこそ、自分や大切な人と向き合う時間を大事にしたいですね。
Q8 ご自分の性格を一言で表すと?
のんき。でも、よく考えたら、社長はのんきでいいのかな? とちょっと心配です(笑)。
Q9 20歳の頃の自分にアドバイスを
好きな道を進もう。選択肢はいろいろあったとしても、これと決めたら後悔せずに直感を信じてほしい!
Q10 10年後の自分への約束を
「楽しくやること」を大切に。どんなに大変であっても、好きで楽しめることなら続けられる。これに勝るものはないと思っています。
千石 あや さん
「中川政七商店」代表取締役社長

せんごく・あや 1976年香川県出身。大阪芸術大学卒業後、大日本印刷に入社し、デザイナー、制作ディレクターとして勤務。2011年に中川政七商店入社。生産管理、商品企画、ブランドマネジメントなどを経験した後、18年より現職。
