「私は諦めの悪い女(笑)。完璧は望めなくても、だからこそ最後まで精一杯を尽くしたい」
朝井まかてさん(小説家)
(撮影:天日恵美子/文:宮本恵理子/撮影協力:練馬区立牧野記念庭園 https://www.makinoteien.jp
朝井まかてさんがインタビューの場所に選ばれたのは、ご著書『ボタニカ』(祥伝社刊)の主人公で、植物分類学者の牧野富太郎博士が生前に暮らしていた住居と庭の跡にある「練馬区立牧野記念庭園」。牧野博士が愛した植物たちと楽しげに"語らう"朝井さんに10の質問。
Q1 日本の植物学の父といわれる牧野富太郎博士を描いた『ボタニカ』が話題です。
物心ついた頃から植物と読書が大好きで、富さん(牧野富太郎博士)の伝記は小学校低学年の頃に読みました。小説の題材にしたのは、編集者からの提案がきっかけでしたが、改めて調べると富さんという人物の味わい深さに夢中になりました。
植物に対する純粋な好奇心を貫く生き方。ただ、それは"業"の深さとも言えるわけで、時に不器用で非常識な行動にもつながって破天荒な人生に。富さんに関する資料は膨大に残されていましたが、どの部分を切り取って描くかは私に委ねられた創作。まるで植物観察のように、富さんを注意深く観察して書きました。
富さんを支えた2人の女性も魅力的でした。選択肢が少ない中で、どれだけ自分の本分を尽くせるか。時代を超えて大切なことを感じながら書いていました。
Q2 47歳で小説家デビュー。きっかけは?
子どもの頃から小説を書きたいという夢は抱いていましたが、コピーライターという職業に就いたことで「執筆欲を飼い慣らす」期間が長く続きました。でも40代も半ばを過ぎたある日ふと、「このまま1作も書かなければ死ぬときに後悔する」と思い、一念発起して学校に通うことに。「ここで10年頑張って書けなかったら諦めよう」と自分に引導を渡すつもりで、登校初日に足が震えたのを思い出すと、今でも泣きそうになります。
そこで初めて書いた作品で運よくデビュー。題材に選んだ江戸時代の園芸については、ライター時代に好きで調べていたし、旅先でいい庭や木があると見に行っていた経験も役立ちました。興味の向くままにごった煮状態で溜まっていたものを一気に出して全身を使って書く感覚でした。
Q3 創作のインスピレーションの源は?
「分からんから知りたいなぁ」が出発点です。人物を描くときは、いわゆる成功者よりも、挫折の多い人に興味が湧きます。「なんでこんなふうになったんやろ?」と史実を調べて、史実と史実の間に漂う空白で想像を膨らませるのが面白いんです。
Q4 夫婦円満のルールは?
結婚当初は家事は全て私が担っていましたが、「このままじゃパンクする」と5年ほど前に夫に"料理力"を仕込もうと決意。褒めて育てる余裕はなく、喧嘩しながらのスパルタです(笑)。今ではすっかり上達して助かっています。いまだに果物はむけませんが、そこはいい。何もかもキツキツしないのが私もラクですから。
Q5 ストレス解消法は?
やっぱり植物と猫と本。あと気力を保つには睡眠、グウグウ寝ます。寝る前も好きな読書を欠かしません。映画やドラマも観ますが、つい話の流れや演出が気になっていろいろ突っ込んでしまい、夫に「うるさい」といやがられています(笑)。
Q6 日常で植物を楽しむヒントは?
引っ越しをするたび、その住環境でできる植物ライフを楽しんできました。マンションのテラスに軽量の土を敷き詰めて木々を植えたことも。小さなスペースにささやかな花を植えるだけでも日常の景色になります。お店で季節の花を買ってきて自由に生けるのも愉しい。同じ植物でも、その日その時にしか出会えない風情があります。
Q7 目下の目標は?
プライベートでは仕事抜きの旅をしたいですね。再訪したいのはパリ。旅にはいつも、その土地に縁のある小説を持っていきます。仕事では「朝井さんらしい」と言っていただける文体をあえて壊し、古い言葉を使うスタイルに挑戦中です。難しい!
Q8 自分の性格を一言で表すと?
小説については「諦めの悪い女」です(笑)。本の校正もギリギリまで粘ります。完璧は望めなくても、だからこそ精一杯を尽くしたい。その他のことは至って「諦めのいい女」かな(笑)。
Q9 20歳の頃の自分にメッセージを。
本当に遊んでばかりいましたね。とても愚かであったけれど、その愚かさも含めて愛おしい。無駄な遠回りもたくさんしましたけれど、「大丈夫、すべて引き受けてやる」と伝えたいです。
Q10 10年後の自分に約束を。
小説を書いていたいです。死ぬまで書く人間でありたいというのが、今の私の唯一の夢です。
朝井 まかて さん
小説家

あさい・まかて 1959年大阪府生まれ。甲南女子大学文学部卒業。コピーライターとして働く傍ら、小説を書き始める。2008年、『実さえ花さえ』で小説現代長編新人賞奨励賞受賞を機にデビュー。14年、『恋歌』で直木賞を受賞。『眩(くらら)』がNHKでドラマ化され好評を博した。最新作は、日本初の洋食店を開いた夫婦の物語『朝星夜星』。
