板谷由夏の“今日から、もっと。アップデート”
しめかざり研究家の森須磨子さんと語る
私たちの暮らしとともにある「しめかざり」を再認識
森さんの「渦巻く智恵 未来の民具 しめかざり」展は12月27日(日)まで、東京・三軒茶屋 キャロットタワー「生活工房」 で開催中。上写真の背景は、身近なものに感謝してつける輪飾り。土地によってカタチはさまざま。(撮影:天日恵美子)
新しい年の福を授けてくれる“年神様(としかみさま)”をお迎えするために、年末年始に飾る「しめかざり」──
未知のウイルスへの不安を抱えた我慢の暮らしはまだ当分、続きそう。だからこそ、2021年のお正月は希望を胸に迎えたいと思って、わが家に飾るお正月飾りを探していて出会ったのが、森須磨子さんです。
森さんが全国各地を巡って集めた、100点以上もの多種多様なしめかざりを拝見し、いちばん身近なものにかける「輪飾り」を一緒に作りながらお話をうかがいましたが、自分で実際に手を動かしてみたら、作り手の想いがぐんぐん伝わってきて、心が温かくなりました。日本人ってすごいよ~、いいよ~って。
「しめかざりの藁に触っていると、あ~この稲穂には一粒ひとつぶお米がついていたんだなあとか、日本人はお米を大切にして生きてきたんだなとか、お米やそれを育む自然の大切さに気づきます。そして、たとえば、輪飾りは一年間自分がお世話になったものや場所に飾るものですが、一つひとつ思いを巡らせながら飾っていくと、自分がどれだけ多くのものに生かされ、支えられてきたかがわかりますよ」という森さんの言葉に、そうか!しめかざりは“感謝のカタチ〞でもあるんだ、ということに気づかされました。これまで縁起物として形式的にかけていたしめかざりが自分の暮らしにグーンと近い存在に感じられて、うれしくなりました。
森さんのしめかざりのお話、余話。
「今では買うことが当たり前になっているしめかざりですが、昔は各家々で作っていたんです。お正月が近づくと家長は“年男”と呼ばれて、しめかざりの制作や松迎え、すす払いなどさまざまなお正月の準備を担っていたそうです。それらのしきたりは家長から次の家長へと代々受け継がれてきたのですが、興味深かったのは、私が話をうかがった作り手たちのほとんどが、ちゃんと教えてもらったことはない、みようみまねだ、とおっしゃるんです」。
みようみまね!? それで出来るの?って森さんにうかがったら、「そこで思ったんです。みようみまねは、物事が継承されていくための魔法の言葉だなって」。なるほど!「つまり、1ミリも隙のない設計図や一子相伝なんて高度な技を要求されたら思考停止になりますけど、いい意味で曖昧が許されるなら試行錯誤する過程でそれが“自分ごと”になっていくんですよね」。そうか、自分なりに考えてより良くしようとワクワクしたり、悩んだり、作業をしていくうちにだんだん腕前も上がるし、自分ごとになるですね!「そう!作り手はみようみまねの魔法にかかって、それが代々繋がってきたんです」。なんて、素敵なことなんでしょう!
改めて、こんな不安が多い時代でも、家族がそろって新年を迎えられることに感謝しながらしめかざりを飾ろうと思った次第です。(板谷由夏)
板谷 由夏 さん

いたや・ゆか 女優。ファッションブランド「SINME」のディレクター。福岡県出身。2児の母。
森 須磨子 さん

もり・すまこ グラフィックデザイナー。この20年、大晦日を挟んだ一週間、全国各地の“しめかざり探訪”を続ける。大晦日前の3日はしめかざりを購入・収集し、後の3日間はかけ方を探り、作り手に会う。「限られた期間で一つでも多くの場所を巡りたくて、ミステリー小説ばりに時刻表 を駆使してます。川を挟んだり、山を越えるとまったく異なるカタチに出会う。土地により家により 造形も風習もさまざまな伝承があって、一つひとつに作り手の願いが込められているんです」。著書に『しめかざり』(工作舎)、『たくさんのふしぎ傑作集 しめかざり』(福音館書店)がある。
