株式会社ルミネは、「the Life Value Presenter お客さまの思いの先をよみ、期待の先をみたす。」という経営理念を掲げ、首都圏の主要ターミナルを中心に、『LUMINE(ルミネ)』や『NEWoMan(ニュウマン)』など16の商業施設を運営しています。さらに、既成概念にとらわれない事業領域にも挑戦し、新たな価値創造を提案している企業です。(ルミネのHPリンクはこちら)
2024年度にはルミネの10年ビジョン「Global&Sustainable」を掲げ、地球規模での持続可能な未来の実現を目指し、人(PEOPLE)、コミュニティと文化(COMMUNITY&CULTURE)、環境(THE PLANET)を軸に100年先に続く心豊かな未来に向けて取り組んでいます。
本連載「ルミネの未来共創」は、ルミネが見据える「100年先の心豊かな未来」に向けた、小さな対話から始まる未来図です。アート、ビジネス、文化など、さまざまな分野で活躍する方々との対話を通じて、「グローバル&サステナブル」というビジョンをどのように現実にしていくのか、そのヒントを探っていきます。
第1回(記事はこちら)では、ルミネ代表取締役社長・表 輝幸さんと、現代美術家の松山智一さんが「アートを通じた未来へのまなざし」をテーマに語り合いました。続く第2回(記事はこちら)では、世界的に活躍するフラワーアーティスト、ニコライ・バーグマンさんを迎え、表さんとともに「花が導く、豊かな体験」について語っていただきました。
そして最終回となる今回は、南仏オート・プロヴァンスの上質で洗練されたライフスタイルを提案するライフスタイルコスメティックブランド『ロクシタン(L'OCCITANE)』の最高商業責任者、ヴァンサン・ジァニアールさんを迎え、お二人それぞれの視点から「よりよい未来」につながる想いを語っていただきました。
日本と南仏に通じる、サステナブルな暮らしの哲学
南仏オート・プロヴァンスに根付くライフスタイルを再現したフラッグシップストア「ロクシタン SHIBUYA TOKYO」1Fはストア、2・3Fはカフェスペースとなっている
——ロクシタンは2026年に創業50周年を迎えます。創業以来、大切にされてきたフィロソフィーについて伺います。なぜこれほどまでに「自然・人・環境」を尊重されているのでしょうか。
ヴァンサン・ジァニアール(以下、ヴァンサン):ロクシタンが誕生した1976年当時は、日本はもちろん、フランスでも「サステナビリティ」という言葉はまだ一般的ではありませんでした。ただ、ロクシタンの生まれ故郷であるオート・プロヴァンスでは、“アール・ド・ヴィーヴル”という、暮らしをアートのように楽しみ、自然の恵みを尊重して生きるという考え方が、すでに人々の間に根付いていました。ですから、私たちにとって「自然を大切にする」という姿勢は、特別なことではなく、ごく自然なことだったのです。
L'OCCITANE INTERNATIONAL S.A. 最高商業責任者 ヴァンサン・ジァニアールさん
——とはいえ、そのフィロソフィーを世界中に浸透させていくまでにはさまざまな困難もあったのではないでしょうか。
ヴァンサン:私たちは特別なことをしてきたわけではありません。自分たちの信念をお客さまに誠実に伝え続け、それを共通の価値観を持つビジネスパートナーと共に広げてきました。ただ、困難は確かにありました。1970年代は経済成長が進む一方で、環境問題への意識はほとんどなく、「環境を優先する」という考え方はむしろ時代に逆行しているとも言えました。
そこでまずは、化粧品業界の中で自分たちの理念を共有していくことから始めました。そして企業として成長し、利益を得ることができれば、それを私たちと同じマインドを持つ活動に還元する。そうした取り組みを続けるうちに、少しずつ認知が広がっていったのです。
——表さんはオート・プロヴァンスへ視察に行かれたそうですが、実際に訪れてみてどのようなことを感じられましたか。
表 輝幸(以下、表):まさに「サステナビリティ」という考え方が、暮らしの中にごく自然に根付いていることに驚きました。私たちが「こうしなければ」と意識的に取り組んでいることが、あちらでは当たり前のように行われているのです。日本人が忘れかけていた「自然とともに生きる」という精神を思い起こさせてくれました。
私たちは植物や動物など、多くの命の恵みをいただいて生きています。だからこそ、それを次の世代にどうつないでいくのか、周りや未来のために何ができるのかということを、改めて深く考える時間になりました。
ヴァンサン:その感覚を五感を通して受け取ってくださったことが、何気ないようでいて、実はとても特別なことだと思います。表さんが「忘れかけていた」とおっしゃいましたが、私自身、オート・プロヴァンスと日本を行き来する中で、両者には多くの共通点があると感じています。
たとえば、四季を慈しむ心。日本では当たり前のように思われるかもしれませんが、世界的に見るとそうした文化を持つ国は多くありません。それこそ、オート・プロヴァンスと日本を結ぶ大きな共通項のひとつだと感じています。
“楽しい”が続ける力に!
ルミネが仕掛ける「エシカーニバル」
株式会社ルミネ 代表取締役社長 表 輝幸さん
——「四季を慈しむ」というお話にも通じると思うのですが、ルミネでは「季節を楽しみ尽くす」「季産季消」をコンセプトにした「エシカーニバル」という取り組みを行っています。これはどのような背景から生まれたのでしょうか。
表:さまざまな環境問題、社会問題が堆積していく中で、このままでは未来に豊かな社会は残せないという危機感を抱いています。ルミネのお客さまたちはファッションを楽しみたい一方で、それが環境を悪化させることにつながるなら、純粋に楽しめないと感じている方も多いと思います。サステナブルな取り組みの必要性は誰もが理解していますが、それが「義務」や「我慢」では続かない。だから、それを“楽しく、美しく、未来への希望を感じられるかたち”でやるにはどうすればいいか。その想いから「エシカーニバル」が生まれました。
たとえば「anewloop(アニューループ)」という取り組みでは、使わなくなった衣料品を回収し、リユースやリサイクルにつなげています。また、コスメの回収を行うなど日常の中で気軽に参加できる仕組みを広げています。成果をすべて「見える化」して、「これだけ未来に役立っている」という実感を共有しているんです。そうするとお客さまも嬉しくなって、また参加してくださる。サステナブルでありながらも“楽しく生活できる”ということを実感していただけることが大切だと考えています。
——ロクシタンも、コスメロスなどには積極的に取り組まれていますよね。
ヴァンサン:そうですね。ひと口にリサイクルと言っても、1回しか再利用できないものや、リサイクルの過程で多くのエネルギーを消費してしまうものもあります。ロクシタンでは、最小限のエネルギーで何度もリサイクルできるパッケージの開発を進めています。また、詰め替え用商品を利用していただくと、容器入りの製品に比べて約80%のプラスチック削減につながります。日本国内に約120店舗あるロクシタンの中でも、ルミネ内の店舗は詰め替え商品の販売比率が平均よりかなり高いんです。データとしても、ルミネのお客さまのサステナビリティな意識の高さが表れています。
表:それはとても嬉しいことですね。
——ルミネ、ロクシタンともに、サステナブルな活動にお客さまが「参加したい」と思えるような場づくりをされています。その際に大切にしていることは何でしょうか。
表:企業が一方的に「こうしてください」と伝えるのではなく、お客さまと一緒に楽しく実現していくことが何より大事だと考えています。新しい生き方を共に実感しながら、一人ひとりが希望を持って楽しみつつ行動できるようにすることで、サステナブルな社会へとつなげていけると確信しています。
ヴァンサン:まさにその通りです。自分が心地よい気分になる、参加して楽しいという気持ちになる。それこそが継続の原動力だと思います。
——これまでにも、ロクシタンはさまざまな体験型イベントを実施されていますね。
ヴァンサン:日本では、お客さまも一緒に参加できるチャリティーウォークやラン、植樹イベントなどを行っています。従業員によるゴミ拾いイベントを行った時には、ゴミ拾いがちょっとした“宝探し”のような楽しい時間になるんです(笑)。その様子を見た地元の方々から声をかけていただくこともあり、自然とコミュニケーションが生まれています。
表:実際に体験し、実感を持つことが大切ですよね。それこそが人の心を動かし、行動へとつながり達成感となり、人と人をつなぎ、さらに大きな喜びや成果へと広がっていくのだと思います。
「豊かな未来へ」再認識したい、日本の強みとは
——ヴァンサンさんは世界各国を巡られる中で、日本の特徴として感じることはありますか。
ヴァンサン:自然と文化、そして人々の生活がこれほど深く結びついている国は他にないと思います。たとえば日本では、都会の真ん中でも木々や花を目にすることができますよね。わざわざ公園に行かなくても自然に触れられる。それから、先ほどもお話ししましたが、季節を慈しむ心があること。食事にしても、季節限定の食材やメニューで季節を表現し、楽しんでいます。桜や紅葉を愛でる文化も、他の国ではなかなか見られません。みんなが自然を大切にしていることは、日本の特徴だと思います。残念ながら、フランスには季節を大切にするという文化はあまり根付いていませんね。
南仏オート・プロヴァンスの雰囲気と食からもその世界観を体験できる「ロクシタン SHIBUYA TOKYO」のカフェスペースにて。カフェではヘルシーなメニューと季節のフルーツを使ったデザートが楽しめる
——日本人として、それが特別なことだとは意識していませんでした。
表:日本人は、自分たちが大切にしてきたことの価値を、当たり前すぎて気づいていないことが多いんです。資源が乏しい島国で生き延びていく中で、自然への感謝の心や、譲り合い、助け合いの精神が長い歴史の中で培われてきました。それは人工的に生み出せるものではなく、とても価値のある文化です。これからのAI時代だからこそ、日本の強みとして再認識すべきだと思います。そして、日本に足りない部分は世界の優れたものと掛け合わせ、未来につながる新しい価値を生み出していかなければならないと感じています。
——改めて、サステナブルな社会の実現にはどんなことが必要だと感じていますか。
表:やはり、お客さま一人ひとりが自ら気づき、楽しみながら行動すること。そして、私たち企業がその取り組みをお客さまと共に実現していくことが大切だと思います。その一つひとつの行動が、世界のどこかにいる誰かの笑顔につながっている。自分の行動が美しい地球の未来をつくっていることに気づき、その輪が広がっていけば、やがて世界全体に届くはずです。ルミネとして、そうした幸せな未来への循環をサポートしていきたいと考えています。
ヴァンサン:ルミネさんと私たちがラッキーだと思うのは、お客さまと直接つながることができる「場」を持っていることです。ただ商品を販売するだけでなく、お客さまに気づきを与え、意識を変えるきっかけを楽しく提供できる。そのための新しいアイデアもいろいろ考えていますし、日本で感じた価値観やカルチャーをロクシタン本社に持ち帰り、そこからまた新しいものを生み出していきたいと思っています。
表 輝幸(おもて・てるゆき)
1988年にJR東日本へ入社。2000年、日本レストラン調理センター社長にグループ最年少で就任し、東京駅グランスタの開発などを牽引。2011年からはルミネの常務取締役、専務取締役を歴任。さらに、2016年から2021年にかけてJR東日本の執行役員 事業創造本部副本部長、常務執行役員、マーケティング本部副本部長などを務め、2023年6月より現職。
ヴァンサン・ジァニアール
フランス出身。2000年よりL'Oréalにて約8年間に渡り、Lancômなど複数ブランドの統括を複数の国で担当。2008年より英国DiorのゼネラルマネージャーおよびLVMHグループのマネージングディレクターとして市場拡大を牽引した後、2013年にバーバリー副社長に就任し、マーケティング戦略の強化に尽力。2024年より現職、L'OCCITANE INTERNATIONAL SAの最高商業責任者に就任。