VOL.5では、企業オーナーが「相続」に備えて知っておくべき大事なポイントを考察した。今回は経営者の「ライフワークと社会貢献」をテーマにする。
はじめに「利他主義」を掲げ、事業を通じて、また個人として、さまざまな社会貢献活動に取り組む、株式会社LIFULLの井上高志社長に話を聞いた。

「利他主義」こそが企業の長期的発展につながる
――LIFULLは1995年、井上さんが26歳の時に前身のネクストを創業されて以来、「利他主義」を掲げて事業を発展させてきました。御社が「利他主義」を経営の根幹に置くようになった理由を教えてください。
私は新卒時に不動産業界で3か月ほど働き、業界のあり方に強い疑問を抱きました。不動産は一生で一番高い買い物なのに、お客様に十分な情報が行き渡っていなかったからです。そのためお客様にとってベストな住まい選び、納得がいく選択ではないこともありました。業界の一部にはお客様の喜びや利益より、自社を優先する風潮もありました。そのようななか、私はお客様に喜んでいただきたいとの思いで、会社の利益に直接つながらない仕事にも熱心に取り組んでいました。そんな私は上司とぶつかることもありましたが、長い目で見れば私の行動は自社のイメージ向上となり、メリットになると考えていました。当時は「利他主義」という言葉を意識していたわけではありませんが、今から考えるとこの頃の経験が私の原点だったのだと思います。
――「お客様の喜ぶ顔を見たい」との利他の心が、その後の起業につながったのですね。
不動産業界における情報の非対称性をなくし、お客様が安心して、納得いく住まいを選択できるプラットフォームをつくりたいと考えました。そして起業後に読んだ京セラの稲盛和夫さんの本のなかの「経営の根幹は利他の心だ」との言葉に感銘を受けました。利他とはもともと自利利他という四文字熟語で、「他人を幸せにすることで(利他)、自分が幸せになれる(自利)」という意味です。日本の経営者のなかではさほど特別な考えではなく、近江商人の三方よしも同じ考え方です。
とはいえ「利他主義」を経営の根幹に置くことに、最初は迷いもありました。会社を持続させるには、何より利益を出さなくてはなりません。「生き馬の目を抜く競争社会でそんな甘いことを言っていられるのか」と周囲から苦言を呈されたこともあります。しかし25年間経営を続けてきた今は、「利他主義」こそが経営の王道だと自信をもって言えます。人々の不満を満足に、不安を安心に、不便を便利に変え、世界中の人がハッピーになる社会の仕組みをつくることこそが、企業の長期的な発展につながることを確信しています。

空き家問題の解決、地方創生とともに新しい社会のかたちを目指す
――空き家問題や地方創生、働き方改革、格差問題を解決しながら、新しいライフスタイルや社会のかたちを目指す「LivingAnywhere Commons」もそのようなイノベーティブな取り組みの1つでしょうか。
「LivingAnywhere Commons」は、全国の遊休不動産を活用してメンバーと呼んでいる利用者らと共同運営型コミュニティーをつくり、地方創生も目指す取り組みです。法人、個人を問わずコミュニティーのメンバーになると、日本各地の拠点を自由に利用でき、地域の方と交流しながら働いたり、生活したりできます。
今後、AIとロボティクスの普及の影響で、一般の人の給与は大幅に下がるのではないかと予想しています。そこで社会全体の生活コストを限界まで下げる必要があると考えています。「LivingAnywhere Commons」は現在、1か月2万5000円で全国13拠点が使い放題ですが、拠点は2023年までに100か所に増やす予定です。運営は協同組合方式で行い、経費はすべてガラス張りにします。利益は全て還元するため、利用稼働率があがり超過利潤が出れば、さらに価格を下げます。これ以外にも様々な社会課題に取り組み、いずれは人が生きていくうえで不可欠な水、住まい、エネルギー、食糧、通信、医療、教育などのコストを10分の1以下に下げ、たとえば年収50万円で4人世帯を養えるような低コストな社会を実現したいと考えています。
――格差が大きな問題となっている、現在の資本主義をバージョンアップする取り組みですね。
「LivingAnywhere WORK」は企業や自治体などの賛同団体とコンソーシアムを組み、我々がシステムのプラットフォームと運営ノウハウで支援します。現在、148ある賛同団体は今年中に1000に増やしたいと考えています。
私たちが目指しているのは、テクノロジーを活用することで、地球上のどこにいても生きるために必須なものが簡単に手に入り、誰もが自分らしく、自由に生きられる世界をつくることです。そのための実証実験として、自動走行車やドローンによる宅配、完全キャッシュレスなどを実装した「スーパーヴィレッジ構想」を計画しています。さらにソーラーパネルと小型風力発電機、水循環システムを搭載し、砂漠でも快適な生活が送れる自動走行機能付きの未来型のキャンピングカーも将来的には開発したいと考えています。このような車を開発途上国に提供すれば、上下水道や電力網などのインフラ整備なしに国が発展でき、貧困や紛争の解決にも貢献できると考えています。

「ウェルビーイング(永続的な幸せ)」と「世界平和」実現のための財団を設立
――壮大なビジョンですね。LIFULLでは本業の不動産ポータル事業や子会社でも社会課題解決や社会貢献を重視した取り組みを行っていますね。
不動産業界においては、情報の非対称性以外にも課題があります。例えば高齢者や外国人、LGBTQの方が賃貸の入居審査で断られるケースも多いことです。この問題を解決すべく2600社以上の不動産会社と連携し、住宅弱者に寄り添い、親身に住宅探しを支援する体制をつくりました。さらに不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME'S」でユーザーが物件を問い合わせした後、アンケート画面で支援したい住宅弱者のジャンルをクリックするだけで、私どもが利益の一部を還元してその団体に寄付する取り組みも行っています。
またLIFULLには現在、国内外に20以上の子会社があります。そのうちの多くは若手社員が自らの体験から社会課題を感じ、この状況を何とか変えたいとの思いから、新規事業提案制度を活用して事業化したものです。例えばママが子育てと仕事を両立しながら、スキルアップできる託児スペース付きワークプレイス事業、花の無駄な廃棄を減らすために農場や市場から定額で毎月決まった日に花を直接届けるお花の定期便事業などがあります。
――井上社長はライフワークとして「ウェルビーイング(永続的な幸せ)」と「世界平和」の実現を掲げ、そのための財団を設立したり、個人的な社会貢献活動も行われているそうですね。
私は32歳の時、利他の最大級である「ウェルビーイング(永続的な幸せ)」と「世界平和」を自身のライフワークに定め、行動を始めました。まずは古今東西の叡智を集め、100年後の社会デザインを研究する一般財団法人Next Wisdom Foundationを立ち上げました。
さらに幸福とは何かを解き明かし、人はどうしたら永続的な幸せを得られるかを研究する公益財団法人Well-being for Planet Earthを共同設立しました。この財団では、国民の総幸福を指標化して公表するGDW(国内総充実)の取り組みもスタートしました。Next Wisdom Foundationには私が保有するLIFULLの株式を貸株し、その配当金を財団活動に活かせるようにしています。他にも国連が定めた9月21日の国際平和デーの認知を高めるために財団法人PEACE DAYも設立し、毎年9月にPEACE DAYフェスを開催しています。
また個人的に西アフリカのベナン共和国に小学校をつくり、井戸を掘る取り組みも行ってきました。現地でとれるシアバターを原料にスキンケア商品を製造し、販売する支援を通じて現地に雇用も生み出しています。

日本でフィランソロピーを活発にするには制度改革が必要
――日本では欧米に比べ、成功した企業経営者によるフィランソロピーが活発ではないとの声もあります。日本でフィランソロピーを普及させるうえではどんなことが重要だと思いますか。
日本は公益財団のルールが非常に厳しいのが課題です。アメリカでは富裕層が簡単にファミリー財団を設立でき、寄附先も自由に決められます。日本ではそもそも、公益認定をとるハードルが非常に高い。定められた23項目の公益活動の形式基準でチェックされるため、幅広い分野にまたがる活動は認可されにくいのです。寄付先の選定も、公平に公募して第三者の承認を得なくてはならないため、杓子定規なものになりがちです。さらに運営時には収支相償原則により、年度を超えて資金をプールすることが非常に難しいです。公益活動は長いスパンで考えるべきだと思いますが、その年の寄付収入はその年のうちに使い切らなくてはならないと現場裁量で判断されてしまいがちです。
このようなルールは変え、思い切った税額控除のインセンティブをつくるべきだと思います。また具体的な提案としては最初から税額控除はせず、まずは「2年以内に都心5区の待機児童をゼロにする」などとKGI 、KPIを定めて公益活動を行う。そしてKGI 、KPIが達成された時点で、過去に遡って活動に使った資金を税額控除する、というのも一つの考え方です。
――企業オーナーや富裕層が社会貢献活動をするうえで、金融機関に期待することはありますか。
日本でフィランソロピーを普及させるうえでは、高度な知識とノウハウ、金融当局との交渉力をもつ金融機関の役割は大きいと思います。当社も、お世話になっている金融機関にそのノウハウを生かして各所と調整いただきながら、2年がかりでスキームをつくっていただいたことがあります。そのおかげで、株式の配当金を効率的に財団の活動へ生かすことができ、また万が一、私に何かがあった場合に備えた対策もとることができました。
――最後に、社会貢献活動を考えている企業オーナーや富裕層へのメッセージをお願いします。
私は昔から「一隅を照らす」という言葉が大好きです。フィランソロピーというとビルゲイツさんや孫正義さんのような大富豪がやるべきこと、と思っている人もいるかもしれません。でも規模の大小は関係ありません。社会をよくする活動は、気がついた人ができることから始めることが大事です。どんなに小さな一歩でもいいので、まずは始めてみる。一歩踏み出して現場を知れば、何とか改善したいとの思いが強まります。課題解決脳が動き始め、新しいアイデアも生まれます。そんな一隅を照らす人同士のつながりが、世界を変える大きな力になるのだと思います。
企業オーナーは社会貢献活動への社会的影響力と基盤を兼ね備えている
続いて社会貢献活動に取り組む企業オーナーに必要な知識について、UBS SuMi TRUSTウェルス・アドバイザリー株式会社 代表取締役社長の関本豊氏、三井住友信託銀行ウェルス・マネジメント部上級主席財務コンサルタントの石井隆氏に聞く。

――なぜ成功した企業オーナーや富裕層は社会貢献活動に熱心なのでしょうか?
関本 社会貢献活動に取り組まれているお客様から多く聞かれるのは「社会的な問題を解決したい」「個人の義務感」「やりがい」などの声です。それらは企業オーナーや富裕層だけでなく社会貢献に携わる方々に共通する目的・意義だと思いますが、企業オーナーや富裕層の方々は社会的な影響力が強い分、「社会をより良くしたい」「自分がやらなければ」という意識を強く持っていらっしゃる方々が多いと思います。加えて、その想いを実現させる行動力、決断力、人的ネットワーク、そして財務基盤も兼ね備えておられます。
また富裕層ファミリーならではの理由としては、ファミリーとして伝承されるレガシーとして遺すということも挙げられます。社会貢献活動がファミリーレガシーとなれば、ファミリーメンバーの役割分担、そして結束の維持が期待できるからです。
――最近の富裕層の社会貢献活動の傾向やトレンドを教えてください。
関本 UBSは、PwCと共にビリオネア(10億米ドル以上の資産を保有している個人)への調査等を行い、最新のビリオネアの資産とニーズに関する独自の見解を、年に一回「ビリオネア・レポート」としてまとめています。コロナ危機後の動向について調査した直近2020年版のレポートによると、ビリオネアは、社会貢献活動、企業の持続可能性、サステナブル投資の分野において、より活発に行動しているとのことです。資金を寄付するだけではなく、企業、環境、社会的価値と企業の収益性のバランスを取り、戦略的に社会貢献活動を行っているのです。また「社会貢献の分野にイノベーションを取り入れてさえいる」とも言及されています。
海外のみならず日本においても、井上社長のようにイノベーションを取り入れ、企業の収益性のバランスを取りながら社会の問題を解決しようとする企業オーナーが見受けられるようになっています。
自社への影響や税制にも留意した活動を
――創業経営者や富裕層が社会貢献活動をするうえで気をつけるべきポイントを教えてください。
石井 企業オーナーの資産は、自社株式が多くを占めていることが一般的です。そのため、自社株式やその配当金を社会貢献活動へ生かしたいとお考えになる方が多いのですが、自社株式・配当金を直接寄附する方法が適しているとは限りません。例えば、自社株式をそのまま譲渡すると企業オーナーが保有する議決権も移ってしまうため、経営への影響も懸念されます。そのため、企業オーナーの株式を保有する資産管理会社に無議決権株式の導入をしてから、その無議決権株式の寄附を行うなど、議決権に影響を及ぼさない方法を検討する必要があります。また、万が一企業オーナーと財団法人・社団法人の運営方針が合わなくなった場合でも、一度寄附した株式を買い戻すことは困難ですので、そういったリスクに備えることも必要です。
さらに税制にも留意しなければなりません。寄附をする先の財団法人・社団法人の組織形態や、今支援をするのか、遺贈として支援をするのか等により、課税の取り扱いも異なります。

――ご自身で財団法人・社団法人を設立する方も多いのでしょうか。
石井 はい、既存の団体に寄附をするのではなく、ご自身で財団法人・社団法人の設立を検討される方も多いです。財団法人・社団法人の組織形態には「一般」「一般(非営利徹底型)」「公益」等の種類があり、「一般(非営利徹底型)」「公益」の法人には税制上の優遇措置があります。また、ご自身が設立された財団法人・社団法人に株式を寄附することで、自社の安定株主対策にも寄与するという利点もあります。
一方で、設立やその組織を運営していくにあたっては注意すべき点もあります。例えば公益の法人は認定のハードルが高いだけでなく、認定後も公益性と透明性の高い運営体制が求められます。仮に公益認定が取り消されてしまうと、公益目的取得財産の残額を国等に寄付することとなります。この場合、公益財団・社団には公益目的の財産が残らないため、実質的には解散に追い込まれる可能性が高くなります。結果として、寄付した株式が自らの手を離れてしまうことになってしまいます。公益認定を受ける際には、認定後の運営等についても十分考慮する必要があります。
ウェルス・マネジメント分野で幅広い商品・サービスを有機的に組み合わせて提供

――UBS SuMi TRUSTではお客様の社会貢献活動に対してどのような情報提供、支援を行っているのでしょうか?またお客様から喜ばれた事例があれば教えてください。
関本 社会貢献活動についてはUBS、三井住友信託銀行それぞれが知見を活かしてお客様への情報提供、支援を行ってきました。
UBSでは、これまで社会貢献に関するセミナーを多数開催し、お客様への情報提供を行っています。例えば、東南アジアで活動するNGOの代表者を講師に招いた際には、セミナーに参加した複数のお客様からご関心が寄せられ、NGOから提案された、小学校校舎や病院、生活自立のための職業訓練施設などの建設といった具体的なプロジェクトについてお客様ご自身で検討され、それぞれがご関心のあるプロジェクトに寄附された、という事例があります。また、UBSがスイスで設立した財団がコロナ危機に対応するために立ち上げた緊急プロジェクトに対して多くのアジアのお客様から寄付が寄せられる等の実績を有しています。
三井住友信託銀行では、外部専門家をご紹介して財団・社団設立のサポートをしたり、信託銀行ならではの高い専門性や幅広いソリューションを元に、お客様の目指す社会貢献活動を実現する支援をしたりしています。お客様の中には、その支援に大変ご満足いただき、お知り合いの方にご紹介いただいたケースもございます。
UBSと三井住友信託銀行は、2020年1月にウェルス・マネジメント分野で業務提携し、「UBS SuMi TRUST」ブランドの下、双方の幅広い商品・サービスを有機的に組み合わせて提供することが可能となりました。社会貢献においても、双方のこれまでの経験を組み合わせ、お客様への情報提供・支援を行っていきます。
――社会貢献活動を考えている経営者へのメッセージをお願いします。
関本 「気になってはいるけど手をつけられていない……」「こういう話って、誰に相談したらいいんだろう……」そんなお悩みはありませんでしょうか。ご自身が大切にされていることや、夢・目標といったことも含めて、ぜひ一度我々にご相談ください。社会貢献と一口に言っても、実現されたいことによって、様々な方法があります。またその目標へ動き出す前に着手すべき課題が見つかるかもしれません。もちろん一定の条件はありますが、社会貢献のみならず、ご子息や後継者の次世代教育、事業の承継、相続や資産承継、資産運用、不動産売買や管理、資産全体管理など、「UBS SuMi TRUST」はお客様の人生に寄り添い、お客様の人生の目標達成をお手伝いさせていただきます。
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