講演 2

日本の新型コロナ対応と
英・独・仏との比較

日本医師会総合政策研究機構 主席研究員
森井 大一先生

かかりつけ医が機能しなかった
イギリス


日本医師会では「欧州医療調査団」を2023年の5・6月に派遣し、イギリス、フランス、ドイツの医療機関や政策関係者らのもとを訪れ、コロナ対応に関する調査を行いました。今日は、その概要と今後に向けた考察をご紹介します。

まず、イギリスの状況についてです。イギリスの医療は、登録制のかかりつけ医と、高度急性期入院医療を担う病院という主に2つの柱で支えられています。しかしコロナの際は、国の方針で病院の救急外来に患者が殺到。一方、かかりつけ医の先生方は「コロナ初期、診療所には患者がほとんど来なかったため非常に静かだった」と証言しています。

なぜこのようなことが起こったのでしょうか。それは、「JESIP(Joint Emergency Services Interoperability Program)」や「CCC(Civil Contingencies Committee)」というイギリスの緊急対応時のプログラムが発動されたためです。このスキームの下では、コロナ対応を担う医療機関は限定され、その結果、診療所はその機能を発揮できず、病院だけに患者が押し寄せる事態となりました。2020〜21年にかけての第2波では、イギリスの全病床の実に50%がコロナ診療に転用されるまでになったのです。

その影響はコロナ収束後のいまもなお続いており、イギリス訪問時には、約750万人もの入院待機患者がいました。これは「Backlog」(積み残し)といわれ、大きな社会問題となっています。

対応を切り替えたフランス、
病院機能を守ったドイツ


続いて、フランスについてです。フランスは、第1波(2020年3月)とそれ以降で、対応を大きく変えました。第1波の際はイギリス同様、政府は国民に「かかりつけ医には行かずに、救急車を呼んで下さい」と呼び掛けました。これは、フランスの医療における緊急時の行動計画「Plan Blanc」にのっとった対応でしたが、その結果、病院はあっという間にパンク。第1波の時点で、病床の8割がコロナに転用されるまでになりました。

「このままではフランスの医療提供体制がもたない。診療所にもできるコロナ対応はある」。そう声を上げたのは総合医、つまり地域の開業医たちでした。政府はほどなく当初の方針を転換し、総合医らによるコロナ診療を認めました。その結果、第2波(2020年10月)以降、フランスの医療現場では大きな混乱は起こりませんでした。

次に、ドイツの状況です。ドイツにはかかりつけ医の登録義務はありませんが、慣習としてかかりつけ医をもつことが根付いています。この実質的なかかりつけ医を中心とした開業医が、ドイツのコロナ診療の20分の19、実に95%を引き受けました。それによって病院に軽症者が押し寄せることはなく、診療所の開業医も「患者を入院させたいときに、病院から断られたことはなかった」と振り返っています。地域の診療所の存在が、病院の機能、特に集中治療機能を守る“防御壁”となっていたのです。

更に、ドイツは、感染拡大のピーク期においても、フランスやイタリア、オランダなどから、重症者の受け入れを担うなど、大きな役割を果たしました。

新興感染症を
ひとくくりにすべきではない


各国の事例から日本が学ぶべきことは、多々あります。まず、限りある医療資源を守るためには、コロナを始めとする新興感染症の医療を、ひとくくりにして考えるべきではないということです。

コロナと一言でいっても、最初の発熱診療から重症化した際の入院まで、提供する医療の内容は様々です。これを細分化して、例えば、「発熱診療」「検査」「重症度判定」については、かかりつけ医が担うという方法もあると思います。2024年4月から改正感染症法が施行されますが、これらをどこが担うのかについては、きちんと考えなければならないと思っています。

また、国家が統制する危機対応はとても重要だと思いますが、そこには落とし穴もあります。イギリスのJESIPやフランスのPlan Blancに基づく「危機対応」によって、対応できる医療機関の数は限定されました。そのことが、「診療所は空いているのに、病院では医療逼迫(ひっぱく)が起こっている」という事態を生むことになりました。この点は十分に注意して、対応にあたる必要があると思っています。

もりい・だいいち/大阪大学医学部卒業。国立病院機構呉医療センター、大阪大学医学部附属病院感染制御部等を経て、現職。2020年8月からは厚生労働省技術参与としてコロナ対策に関わる。

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講演 3

新型コロナに対する取り組みと
今後に備えた医師会の対策

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