講演 3
新型コロナに対する取り組みと
今後に備えた医師会の対策
日本医師会 常任理事
釜萢 敏先生
ワクチン接種の
迅速な実施に貢献

日本で最初に新型コロナの感染者が確認されて間もない2020年2月、横浜港に入港したクルーズ船の乗員・乗客に感染が広がっている可能性があることがわかりました。当時、医療関係者が連日緊迫した様子で対応にあたる姿を映像でご覧になった方も多いでしょう。あのとき日本医師会では、現場にJMAT(日本医師会災害医療チーム)を派遣しました。
JMATとは医師を中心とした医療従事者のチームで、もともとは災害対応が主な役割です。2023年末の時点で、新型コロナ感染症対応のため、JMATとして派遣された医師は延べ85,000人以上。看護師、薬剤師、歯科医師などを含めると、この間JMATに参加した医療関係者は延べ24万人に上ります。活動として最も多かったのは宿泊療養施設での対応で、その他にはワクチン接種や発熱外来の支援にも多くの関係者が携わりました。
感染者が増えている時期でも、持病などのために治療や検査が必要な人は少なくないため、そうした方々が安心して医療を利用できる環境は守らなければなりません。新型コロナ感染症への緊急的な対応と、それ以外の一般医療を両立するというのは大変難しいことでした。また国では「1日100万接種」という目標を掲げてワクチン接種を急ぐよう呼び掛けていましたが、そんな状況というのは誰も経験がありません。
最終的には最大で「1日170万接種」を達成できるほどの体制を迅速に整えられたのは、そこに関わる人たちへの研修・人材育成が非常にうまくいったということでもあります。この点で、日本医師会が果たした役割は大きかったものと考えています。
大切なのは、
正しい情報の把握と役割分担

日本では、2009年の新型インフルエンザの後にもその対応について様々な議論がありましたが、残念ながらコロナ禍においても、その時の反省が十分に生かされなかった面があるのは事実です。しかし今回、国はこの経験を踏まえていくつかの法改正を行いました。それがきちんと機能するかは今後の検証が必要ですが、少なくとも一歩前進ではあると思います。
今後また新たなパンデミックが起こった際に大切なことは、「正しい情報の把握」と「医療機関の役割分担」です。どのような性質の病気か、どのように感染が広がっていくのかがまだよくわからない段階では、まずは封じ込めることが必要であり、その役割は感染症指定医療機関がその任にあたるべきだと思います。ある程度の知見が蓄積されるまで、大体3カ月ほどはその体制を継続し、対応の方向性を見極めていく。それと同時に様々な情報を集め、なるべく多くの医療機関が対応できるように準備を進めていくことが必要です。
感染者の中にも集中治療が必要な重症の方と、感染症指定医療機関でなくとも対応可能な軽症の方がいるわけです。症状に応じてどこが対応するのか、というのはなかなか判断が難しいところですが、これも今後の課題だと思います。
感染症対応研修の
体制整備を進める

医療機関の役割分担ということでいえば、多くの皆さまから寄せられたのが「コロナ対応をしない医療機関があるのは困る」という不安・不満の声でした。そのお気持ちは当然だと思いますが、医療機関といっても一様ではありません。施設の規模やスタッフの数も違いますので、その全てが初めからパンデミックに対応するというのは現実的に不可能です。
また「うちでは診られません」という病院や診療所でも、他の疾患の治療に訪れた患者さんが感染していることもあり得ますし、その際はすぐに適切な医療機関につなぐ責任を負います。また感染拡大の初期段階では対応できなくても、病気の実態がわかってくれば発熱外来や自宅療養者へのケア、ワクチン接種などで相応の役割を担うこともあるでしょう。いずれにしても大切なのは、まずは感染の発生状況・動向を正確に把握することです。
現状ではまだ多くの医療機関が、感染者の隔離スペースや動線を確保できないといった問題を抱えています。今後は医療機関、特に診療所のような小規模な施設を新設する際には、できる限り感染症に配慮した構造を考えていく必要があり、またこの点については、国の支援が必要となります。
日本医師会としては、医師が感染症に適切に対処できるよう、必要な研修の準備を進めています。知識というのは一回学んだだけではなかなか定着しないので、定期的に知識を更新できる仕組みが必要であり、eラーニングと実地研修を組み合わせながら、まずは各地の中心となる医師の方々に研修を受けてもらい、それぞれの地域で指導的役割を担って頂きたいと思っています。また研修の開催については、日本感染症学会や日本環境感染学会などの専門家の力もお借りしながら、しっかりと取り組んでいきたいと思います。
かまやち・さとし/日本医科大学卒業後、同大学付属第一病院小児科入局。高崎市医師会理事、副会長、会長を経て、2011年、群馬県医師会参与に。14年から現職。

