自分と大切な人のために知ってほしい
「ダイアベティス(糖尿病)」との向き合い方
Profile

日本糖尿病学会 前理事長国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 院長
門脇 孝先生
かどわき・たかし/1978年東京大学医学部医学科卒業。東京大学大学院医学系研究科 糖尿病・代謝内科教授、東京大学医学部附属病院 病院長などを経て、2020年に虎の門病院 院長に就任。現在、日本医学会 会長、日本糖尿病学会理事、日本糖尿病協会理事を務める。日本糖尿病学会前理事長、国際糖尿病連合西太平洋地区(IDF-WPR)前議長。欧州糖尿病学会の最高賞であるClaude Bernard Awardを受賞。
Profile

フリーアナウンサー 山本 舞衣子さん
やまもと・まいこ/東京大学医学部健康科学・看護学科卒業。2002年日本テレビ入社。「ズームイン!!SUPER」「Oha!4 NEWS LIVE」など数多くの番組を担当し、2011年フリーに転身。その後様々な番組に出演し、TOKYO MX「TOKYO MX NEWS」など報道でも活躍。看護師・保健師免許を持つ異色のアナウンサーとしても知られる。テレビ番組出演の他、全国の医療・健康・女性参画に関するシンポジウムやセミナーで進行役としても活躍中。
毎年11月14日は「World Diabetes Day」。ダイアベティス(糖尿病)に対する理解と認識を深めるための取り組みが国内外で展開されています。2023年9月、日本では糖尿病の新たな呼称「ダイアベティス」が提起されました。現在、患者さんを取り巻く状況にはどのような変化があるのでしょうか。「ダイアベティスのある人が、ダイアベティスのない人と変わらない生活が送れる社会」の実現に向けて私たちが学び、取り組むべきこととは。日本糖尿病学会の前理事長で虎の門病院 院長の門脇 孝先生に、看護師の資格を持つフリーアナウンサーの山本 舞衣子さんが尋ねました。 2025年8月 朝日新聞本社にて取材
病気とうまく付き合っていくことが大切
「ダイアベティス」とはどのような病気?
山本さん:「ダイアベティス」どれぐらい身近な病気なのでしょうか。
門脇先生:日本の患者数でいうとおよそ1150万人で、10人に1人ほどの割合です。予備群も含めれば、2000万人以上にのぼるだろうと考えられます(※1)。世界全体を見ても、患者数が増えています。ダイアベティスは多くの場合は自覚症状がなく、血糖値(HbA1c〈※2〉)を測らなければ発症に気付かない病気です。また健診を受けて要再検査となっても、当人が「症状がないから」と放置してしまうことが多々あり課題となっています。
山本さん:それは知らぬ間に進行していた、ということにもなりそうですね。発症時は体の中でどのようなことが起こっているのでしょうか。
門脇先生:食べ物を消化吸収して生成されるブドウ糖が関係します。ブドウ糖はまず血液中に入り、それを筋肉や肝臓が取り込んでエネルギーとして利用したり、将来に使うエネルギーとしてグリコーゲンの形で蓄積します。このブドウ糖の取り込みや利用のために膵臓(すいぞう)のβ細胞から「インスリン」というホルモンが分泌されるのですが、分泌量が少なかったり働きが弱かったりすると、筋肉や肝臓でのブドウ糖の取り込みや利用が低下して、血液中にブドウ糖があふれてしまうのです。これがいわゆる「高血糖」の状態です。血液中にブドウ糖はあるものの、ブドウ糖を取り込めなかった筋肉や肝臓などの臓器はエネルギー不足になっています。そしてその結果、全身の倦怠(けんたい)感や疲労感などが生じます。
山本さん:なるほど、ブドウ糖が臓器にうまく届けられず、血液中にあふれてしまうことが問題なのですね。
門脇先生:はい。高血糖により、血管が傷つけられたり、神経の働きを障害されたりします。
山本さん:ダイアベティスの発症原因はわかっているのですか。
門脇先生:一口にダイアベティスといっても大きく言って1型と2型の2つのタイプがあり、原因も異なります。1型は体質とウィルス感染などの環境因子が重なって膵臓のβ細胞が破壊され、インスリンの絶対的欠乏が起きることで発症します。若い方の発症がよく知られ、中高年になってからでもかかり得ます。2型は「食べ過ぎや運動不足のせいだ」などと思われがちですが、「ダイアベティス=生活習慣病」と結びつけるのはよくありません。2型も膵臓のβ細胞からのインスリンが出にくいという遺伝的素因があった上で、肥満などの環境因子が引き金となり発症します。肥満によって、インスリンの効きが悪くなることがわかっており、日本の患者さんの割合としては1型に比べると2型が圧倒的に多いです(受診者数は1型:12万人、2型:363万人〈※3〉)。
※1:厚生労働科学研究費補助金 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業 糖尿病の実態把握と環境整備のための研究(研究分担者 山内敏正) 令和4年度 総括・分担研究報告書
※2:HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)と読む。過去1〜2カ月の平均的な血糖状態を示す指標で、糖尿病の診断や治療効果の評価に用いられる。
※3:厚生労働省 患者調査(令和5年)
良好な血糖管理と
「心腎連関」の意識がポイント
ダイアベティスの治療は進歩している?
山本さん:1型も2型も、体の状態と環境因子が掛け合わさって発症するのですね。それぞれの治療についてもお聞かせください。
門脇先生:どちらも栄養バランスのいい食事と適度な運動が大切です。その上で、1型の場合はインスリンが全く分泌されないことが多いので、「インスリン注射」が基本的な治療となります。だいたい1日4回、3度の食事前と就寝前です。2型の場合は先ほど肥満を回避する大切さをお話ししましたが、こちらも同じくまずは食事と運動が基本となります。インスリンの効きが悪いので、その効き方の程度に応じて血糖値が上がらないようにすることが重要です。体を動かすと筋肉が収縮して、インスリンに頼らずにブドウ糖を取り込むことができるのです。日常の食事や運動で血糖マネジメント(管理)が難しい場合にはお薬を服用します。インスリンの分泌を改善するお薬、効きをよくするお薬などがあり、病態に合うものを選びます。そして2型でもインスリンの分泌が少なければ注射を取り入れる場合もあります。1型、2型どちらもダイアベティスによる合併症や併存疾患の発症、進展を予防し、ダイアベティスのない人と変わらない人生を送っていただくことが大切です。
山本さん:まずは食事・運動をしっかりと行い、患者さんの状態に合わせてお薬を使い分けていくのですね。最近ではダイアベティスの治療も進歩しているのでしょうか。
門脇先生:薬の種類が増えるなどして、血糖マネジメントがしやすくなりましたね。そして1型で頻回インスリン注射を行う代わりに、インスリンポンプ療法を行う患者さんも少なくありません。これは小型の機器を操作することで、皮下に刺した柔らかい針を通じて設定した量・タイミングでインスリンを体内に注入できるというものです。
山本さん:患者さんごとの生活スタイルに合わせてインスリンの量を調整できることは、毎日の生活を送る上ではすごくありがたいですね。
門脇先生:そう思います。また、2型についてもかつては薬の種類が少なく、低血糖や体重増加をきたしやすい薬が主でしたので、血糖マネジメントが難しかったのですが、この数年の間に、体重増加や低血糖のリスクを抑えながら、ダイアベティスの合併症や併存疾患のリスクを低減する薬(例:SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬)が登場し、これまで以上に治療サポートがしやすくなりました。ダイアベティスは古くからある病気ですが、治療の状況や選択肢がずいぶん変わってきていることは知っておいてほしいポイントです。そして血糖のマネジメントが良好になったことで、病気の進行状況にも大きな変化が見られています。失明(※4)や人工透析(※5)の原因となる病気についての調査で、ダイアベティスの割合が下がってきています。また、発症メカニズムに関する基礎研究も進んでいて、ダイアベティスの治療がどんどん変わってきています。
※4:中江公裕ほか.厚⽣の指標 1991;38:13-22. / Matoba R, et al.Jpn J Ophthalmol 2023;67(3):346-352.
※5:正木崇生ほか.透析会誌 2024;57(12):543-620.
山本さん:ダイアベティスの治療も進歩しているのですね。一方で、適切な治療を行わずに病気が進行してしまった場合にはどのような影響が出ますか。
門脇先生:腎臓病(腎不全)や網膜症、神経障害などといった細い血管が傷ついて引き起こされる「合併症」があります。また、高血糖により太い血管が傷つき、動脈硬化による脳梗塞(こうそく)や心筋梗塞、心不全といった「併存疾患」のリスクも高まります。ダイアベティスのような代謝疾患と心臓や腎臓の疾患は互いに密接な関係であることから、どれかひとつの機能障害が他の疾患へ影響を及ぼすことが考えられます。ですので、ダイアベティスの治療においては、良好な血糖マネジメントに加えて、「心腎連関」を考慮することが非常に重要だと思います。
山本さん:治療の進歩も踏まえ、患者さんの平均寿命などにも変化は見られますか。
門脇先生:長らく「この病気の患者さんは短命だ」と思われていたわけですが、それはずっと前の話です。最近ではダイアベティスのある人の平均寿命もダイアベティスのない人と変わらない場合が多いです(※6)。
※6:厚生労働省 日本人の平均余命 平成12年度簡易生命表
Goto et al. J Diabetes Investig,2020(1995~2001年の調査)
当事者を苦しめる差別や偏見がある
善意の言動が「スティグマ(社会的偏見)」になっている?
門脇先生:治療が進歩する一方、病気のイメージはなかなか変わっていないのが現状で、特にダイアベティスのある方は「短命である、合併症にかかりやすい」といった根強い誤解がありますね。そしてそれらは仕事での昇進や結婚、保険の加入など人生の色々なシーンでネガティブな影響をもたらし続けています。こうした誤解や偏見のことを「スティグマ」と呼びます。
山本さん:私は大学で看護を学び、実習などで患者さんに接していました。ある病棟で「糖尿病(ダイアベティス)はぜいたく病だ」という発言を聞いた記憶がありますが、これもスティグマにあてはまるのでしょうか。
門脇先生:はい。まさにそれがスティグマの事例の一つと言えると思います。ダイアベティスの人は「普段甘いものばかり食べている」とか「過食で自己管理ができていない」などとレッテルを貼られやすいのです。そんな情報に日々接している患者さんも、いつの間にかそう思い込んでしまうのです。それに、周囲の体調を気遣うがゆえの不用意な声かけなどによって、実は肩身の狭い思いをさせているということもあります。その結果、診断が遅れたり、治療が続けられなくなる原因となり、次第に患者さんが社会生活への参加を避けることにもつながる可能性があります。
山本さん:なるほど。悪気のない言葉であっても、言われ続ける本人にはつらいことかもしれませんね。
門脇先生:そうです。そもそもダイアベティスは発症しやすい体質の遺伝と社会的なものも含めた環境因子による病気ですから、不摂生や自己責任で片付けるのは誤りなのです。そして、スティグマを与えるのは家族や周囲の人だけではなく、一緒に治療に取り組む医療従事者であることも少なくありません。受診時に医療従事者から「そんなに沢山食べていたのですか」「運動も大切だと説明したじゃないですか」といった具合に言われると、患者さんは「責められている。自己責任だ」と思ってしまうのです。
山本さん:先生ご自身が患者さんの立場でご経験されたのでしょうか。
門脇先生:はい。私は高血圧の薬を服用していますが、薬の飲み忘れがしばしばあって。通院の度に主治医に怒られて次第に足が遠のいていったのを覚えています。ただ次の病院では「忙しいのはわかります。一緒に頑張りましょう」と私の状況を考慮して、優しい声をかけていただいたことで救われました。医療者の伝え方次第でモチベーションにつながります。患者さんの多くは、自分の生活態度に多少なりとも後ろめたさを持って診察室に入ってきますので、スティグマを与えないコミュニケーションが不可欠なのです。人間どうしても、生活習慣を改善しにくい、薬を飲み忘れてしまったということは生じます。そんな時に、どんな声かけができるか。そういう細かいところに前を向くきっかけがあると思っています。患者さんに寄り添う医師、反面教師の医師、どちらにもかかったことで、医療従事者の意識改革も急務だと感じました。
ダイアベティスと呼ぶべき意味がある
広く知られる呼称、変更が必要?
山本さん:ダイアベティスという呼称を提起された背景を、改めてお聞かせください。
門脇先生:ダイアベティスは紀元2世紀ごろから使われている世界的な呼称でありますが、現在でも「糖尿病」やそれに似た呼称で呼ぶのはアジアの数カ国だけです。ダイアベティスの古来の意味は「食べたものが栄養として血肉にならずそのまま体外に出てしまう、通り抜ける、すり抜ける」という状態を指しています。糖の名前や食べ過ぎを想起させる排泄(はいせつ)物の名前がつくのは心理的負担になると思います。アジアでも今、正しい理解を促し、患者への偏見・差別をなくそうと、呼称変更の動きがあります。日本では2023年9月にJADEC(公益社団法人 日本糖尿病協会)と日本糖尿病学会(JDS)によって英語名から基づく「ダイアベティス」という呼称を提起しましたが、今も関係する団体と様々な角度から丁寧に話し合っています。
山本さん:日本での提起を受けて、患者さんの反応はいかがですか。
門脇先生:「ダイアベティス」と言われても分からないという患者さんが多いですが、よく説明すると納得してくれます。よく理解していただくために、しばらくの間「ダイアベティス(糖尿病)」という使い方をすることも良い方法かもしれません。「メタボリックシンドローム」はもともと「代謝症候群」という日本語が用いられていましたが、今では「メタボリックシンドローム」、日常的に「メタボ」としてカタカナのまま、よく受け入れられています。いずれそんなふうになっていけばいいと思っています。
山本さん:「ダイアベティス」への呼称変更で、前向きな治療につながりそうですね。
今こそ転換期!
これからのダイアベティスを取り巻く社会に向けて
誰もが自由に心地よく生活するためには?
山本さん:11月14日は「World Diabetes Day」です。ダイアベティスのある方に対して、周りにいる私たちはどう向き合い、理解を深めていけばよいのでしょうか。
門脇先生:「その人も自分と同じように日々仕事をしたり、世の中に貢献したりしている仲間だ」と忘れずに接するべきではないでしょうか。持病があるのは特別なことではありません。ただ、どういうわけかダイアベティスは病気と生活ぶりが結びつけられがちで、当事者には絶えず監視されているような窮屈(きゅうくつ)さがあるのです。今、スティグマや自己暗示に苦しんでいるかもしれない方々をそのままにはできません。偏見や差別の種を見聞きしたら、ぜひ正しい知識を広げていただきたいですね。呼称変更の提起をきっかけに、ダイアベティスについて正しく理解しようという機運が盛り上がっている変化を感じています。これからも、患者さんやそのご家族の立場に立ち、ダイアベティスに関わる幅広い世代や立場の方々に呼称変更や啓発活動の大切さを伝えていき、ダイアベティスを隠さずにいられる社会を実現したいと思います。
山本さん:先生は50年近くダイアベティスのご診療、ご研究に携わってこられました。治療と啓発の転換期を迎え、どのようなことを感じていますか?
門脇先生:私は診察する患者さんに「一病息災ですよ」と伝えてきました。「無病息災」とは、全く病気をせず元気でいられること。それに対し「一病息災」とは「1つくらい病気があった方が、かえって体に気を付けるので健康でいられる」という意味です。大きな理由として、食事や運動に留意して健康志向になることが挙げられます。さらには定期的に通院して、合併症も含めた様々な検査を受ける機会もあります。これは他の病気の早期発見・治療にもつながることでしょう。長らく診察室でお話ししてきたことが、いよいよ実現できる時代に入ったと実感しています。原因遺伝子の解明も進みつつあり、採血で2型にかかりやすい人の予測も比較的簡単に分かるようになる時代が近くなってきましたので、ダイアベティスの発症予防が今後さらに発展していくと思います。
山本さん:患者さんの数も多いですし、他人事ではないですね。今日のお話を受けて、「ダイアベティス=生活習慣病」と結びつけてはいけないことや、良好な血糖マネジメントで合併症や併存疾患の発症、進展を予防できることなど、正しい知識を得て、患者さんへの差別をなくしていくことが大切だと感じました。「糖尿病」という言葉やスティグマが受診のハードルを上げているという側面も忘れずに過ごしたいと思います。ありがとうございました。