ウーマンズ パビリオンが
問いかける未来
女性の活躍とジェンダー平等をメゾンの礎としてきたカルティエ。その象徴のひとつが、2025年大阪・関西万博に出展した「ウーマンズ パビリオン」である。カルティエが世界の舞台でジェンダー平等に挑み続ける背景には、過去から未来へと紡がれる物語がある。女性が輝けば、人類・社会全体が輝く。その信念を胸に、カルティエは自らに、そして社会に問いかける。――「ともに生き、ともに輝く」未来を、私たちはどう創り出すのか。(文中敬称略)
20世紀初頭から続く女性活躍を支援する文化~ラ パンテール
カルティエの象徴である「パンテール(仏語で豹〈ヒョウ〉)」を語るうえで、欠かすことのできない女性がいる。ジャンヌ・トゥーサン(1887-1976)。
カルティエの3代目、ルイ・カルティエから才能を見いだされ、1933年にクリエイティブディレクターに抜擢された。当時の宝飾やファッション業界では、女性が表舞台で活躍することはまれであり、統括的立場に女性が就任することは革新的な出来事だった。
ジャンヌは、華やかなカラーパレットや、イエローゴールドを積極的に採り入れるなど、従来の常識にとらわれない大胆な発想で、新たな美を次々と形にしていった。その自由で力強いスタイルから、「ラ パンテール(仏語で“雌豹”)」の異名を取り、カルティエの新境地を切りひらいた。
ジャンヌの活躍からも見られるように、「女性が輝けば、人類・社会全体が輝く」というカルティエの理念は100年近く前から受け継がれてきたものである。この精神は、現代における女性支援とジェンダー平等への取り組みの礎となり、適材適所で女性が重要な役割を果たすブランドカルチャーを育んできた。
19年間で66カ国330人の女性起業家を支援
© Cartier
女性の創造力とリーダーシップに支えられてきたカルティエは、21世紀に入ると女性のための取り組みを一層加速させた。その代表例が、2006年に創設された国際的なプログラム「カルティエ ウーマンズ イニシアチブ(CWI)」で、今年で20周年を迎える。
社会に貢献する世界中の女性インパクト起業家をフェローとして選出し、助成金やビジネス教育プログラムへの参加機会を提供するもので、カルティエはこれまでの19年間で、66カ国330人を支援してきた。
さらに2012年には慈善財団「カルティエ フィランソロピー」を設立し、女性や子どもをはじめとする社会的に脆弱な立場にある人々の生活改善に取り組んできた。
2019年には、国連が推奨する企業のジェンダー平等推進指針「女性のエンパワーメント原則(WEPs)」に署名。2021年には、パリで開催された国連女性機関主導の「ジェネレーション平等フォーラム」に参加し、長期的かつ持続可能な視点からジェンダー平等への取り組みを続けている。
こうした活動を通じて、カルティエは、女性の活躍を支えることがメゾンの責任であり、その持続可能性にとっても不可欠であるという考えを育んできた。女性支援が「選択」ではなく「必然」であるという姿勢は、その延長線上にある万博でのウーマンズ パビリオンの出展にも表れている。
ドバイから大阪へ――。加速する「女性活躍」の意識
カルティエの万博における取り組みは、ドバイ万博において展開された「ウーマンズ パビリオン」に始まる。
このパビリオンを通じてカルティエは、「ジェンダー平等」と「女性の社会的地位の向上」が、国連の持続可能な開発目標(SDGs)や平和で豊かな世界の実現に不可欠であることを可視化した。そして、「女性が輝けば、人類・社会全体が輝く」という理念を、展示や対話を通じた体験として伝えることを目指した。
会期中、ウーマンズ パビリオンには世界中から35万人以上が来場し、150を超える対話やプログラムが展開された。単なる展示にとどまらず、社会課題への気づきと行動を促す場として、多くの人々に強い印象を残した。
ドバイで掲げられた「女性が輝けば、人類・社会全体が輝く」という理念は、大阪・関西万博へと引き継がれ、「ともに生き、ともに輝く未来へ」という新たなコンセプトへと発展した。
より公平で持続可能であり、世代を超えて共鳴する未来を目指す思いが込められた。
受け継いだのは理念だけではない。パビリオンの外観には、ドバイ万博日本館で使用された7千点以上の部品が再利用され、SDGsの達成や循環型社会への意識を強くアピールした。
さらに、館内の展示やセッションは、より多くの人たちがジェンダー平等や社会課題を自分ごととして捉えられるよう「体験」と「参加」に重点を置いて構成。女性3人の人生を追体験できる没入型展示や、国際的に活躍するゲストとのトークセッションなどを通して、多くの人たちが気づきを深め、問題意識を共感できる場として、ウーマンズ パビリオンを進化させたのである。
「ともに生き、ともに輝く」未来をめざして
世界経済フォーラム(WEF)の2025年版レポートによれば、世界全体でジェンダー公正を実現するには、現在のペースのままでは123年を要するとされている。日本はジェンダーギャップ指数で148カ国中118位に位置し、G7(主要7カ国)の中で最下位と、依然として厳しい現実がある。(2025年現在)
カルティエは、長年にわたり、「美の創造」と「社会的責任」をブランドの根幹に据えてきた。ドバイ万博を経て、大阪・関西万博のパビリオンでも、女性たちを励まし、未来に向けて「ともに生き、ともに輝く」社会の実現を呼びかけたことは、より良い社会の構築に向けて率先して行動するブランドの意思表示でもあった。
万博での取り組みは、カルティエにとってひとつの通過点に過ぎない。最終的な到達点は、「ウーマンズ」という特別な名称が不要となる社会の実現である。誰もが平等に夢を抱き、輝き続けることができる社会を一歩でも前進させるために――。