ジェンダーレスな未来を創造する舞台、
ウーマンズ パビリオン
「ともに生き、ともに輝く未来へ」を掲げた2025年大阪・関西万博の「ウーマンズ パビリオン」は、女性の活躍とジェンダー平等に光を当て、184日間にわたり、来場者に新たな視点とインスピレーションを届け続けた。没入型展示やトークセッションへの参加を通して、ジェンダーにおける問題を提起し、社会に変革を促したパビリオンの記憶は、今も多くの人たちの心に刻まれている。(文中敬称略)
官民で社会課題に向き合うパビリオン
「ウーマンズ パビリオン」は、大阪・関西万博会場の東ゲートゾーン、日本館の隣に建設された。カルティエと内閣府、経済産業省、2025年日本国際博覧会協会による共同出展で、官民が協力して社会課題に向き合うという点でも先進的だった。
大阪・関西万博のウーマンズ パビリオンのコンセプトは「ともに生き、ともに輝く未来へ」。この言葉には、ジェンダーを超えた対話の広がり、多様な存在が融合することで生まれる力、そして未来への希望が込められている。同時に、ウーマンズ パビリオンは、女性が持つ変革の力と、より良い未来を形づくる可能性をたたえる場であることを示した。
伝統とモダンが響き合う建築デザイン
ウーマンズ パビリオンは、延床面積1708平方メートルに建てられた2層構成の建物である。設計は、ドバイ万博日本館を手掛けた建築家・永山祐子が担った。
まず来場者の目を引くのは、日本の伝統とモダンの融合を象徴する白いファサード(仏語で外観)だ。永山が伝統的な木工技術「組子」から着想を得たという。
建材には、ドバイ万博日本館で使用された7千点以上の部品を再利用した。釘やハンマーを使わず、手作業で丁寧に組み上げた。建設時のCO2排出量を大幅に削減し、循環型社会の理想を体現した。
1st Floor――
課題を「自分ごと化」する没入型展示
エントランスの「THE GARDEN」を通り抜けた先の空間は、英国の世界的アーティスト、エズ・デヴリンが演出を手掛けた。
来場者は最初のエリア「YOUR NAME」で自身の名前を登録する。その名前はストーリーに組み込まれ、体験は「自分ごと」として展開。女性たちが抱える問題を遠い世界の出来事ではなく、自らの課題として意識することで、ストーリーへの没入感を一層高める仕掛けであった。
その先のエリア「THREE WOMEN」では、小説家の吉本ばなな、詩人で活動家のエムティハル・マフムード、環境保護活動家のシエ・バスティダという異なる背景を持つ3人の女性が登場。彼女たちの物語は、映画監督・河瀨直美によるショートフィルムで描かれ、来場者は映像を通じて彼女たちの思いに触れることができた。
ショートフィルムが終わると扉が開き、来場者の名前が呼ばれて、3人のうちの1人の人生を追体験する「THREE PATHWAYS」へといざなわれる。
たとえば、吉本ばななの人生を追体験する道では、東京の下町で生まれ育ち、20代で作家として成功する過程で抱えた葛藤や苦しみを、思い出の写真やオブジェとともに垣間見ることができた。
来場者は光が差し込む瞑想的な空間「MA」にたどり着く。光を受ける楕円形のテーブルの上には水が広がり、黒い小石が撒かれている。
今見てきた女性の人生と自分の人生を重ね合わせ、セルフリフレクションを促した。
ひと時の静寂の時間を過ごした後は「PUZZLE BOX(パズルボックス)」へ。ここでは、女性国会議員の議席数といったジェンダー格差などを数字とビジュアルで学び、社会に変化を起こす責任を来場者に問いかけた。
最後に足を踏み入れるのは「YOUR HAND」。ここには、女優・タレントの黒柳徹子をはじめ、世界で活躍する14人が映し出された。人物の中央に現れる円に来場者が手を差し入れると、光のメッセージやフレーズが投影される仕掛けだった。
これらの没入型展示を通じて、来場者一人ひとりが自分の人生と重ね合わせながら、よりよい社会を築くためのヒントやインスピレーションを得る場となった。
2nd Floor――
自然とアートのコラボレーション
パビリオンの随所に設けられた庭は、景観デザイナー・荻野寿也が中心に地域の植物などで構成した。その中でも、吹き抜けが印象的な2階の「UPPER GARDEN」は、日本の四季の移ろいを描写し、来場者を楽しませた。木々は地元で調達され、ウーマンズ パビリオンが掲げる「自然、人、資源が相互に関連し合うサイクル」のビジョンのもと、万博終了後には大阪の山に返された。
パビリオンの2階には、フランスの女優・監督・アーティストであるメラニー・ロランが、女性のエンパワーメントをテーマに制作したポートレートや彫刻などの作品を展示した。彼女が作曲したサウンドスケープは、展示体験を振り返り、没入感を高める効果を発揮した。
さらに、パビリオン内では多くのクリエイターによるアートとクリエイションが展開された。1階から2階へと続く階段には、アーティストの千葉尋がメラニー・ロランと共同制作した、葉に写真を焼き付ける「クロログラフ」技法を用いた作品が並んだ。
また、パビリオンのユニホームは、日本を代表するブランド「サカイ(sacai)」のデザイナー兼クリエイティブディレクターである阿部千登勢が手掛けた。年齢や性別を問わずシンプルに着こなせるシャツとグレーのパンツスタイルで、来場者をもてなした。
未来志向の対話を生んだ「WA」スペース
アイデアの合流点として設けられた「WA」スペースでは、連日トークセッションが開かれた。「WA」には、輪=Loop、環=Ring、話=Talk&Story、和=Harmony&Peaceといった多層的な意味が込められている。
ここでは、「大いなる地球」「ビジネスとテクノロジー」「教育と政策」「芸術と文化」「フィランソロピー」「役割とアイデンティティ」という六つの重要テーマを軸に、世界各地で活躍するリーダー、活動家、専門家が集い、未来志向の対話を繰り広げた。
国際交流の精神に基づいて設けられた「WA」スペースでは、参加者に対し、前向きな変化に貢献するための自身の可能性を認識してもらい、その使命をパビリオンの外へと広げることを促す場になることを目指した。
パビリオンの記憶、40万人から世界へ
大阪・関西万博会期中、ウーマンズ パビリオンへの来館者数は40万人を超えた。その中には150カ国の代表団や著名人も含まれる。「WA」スペースでは、約半年間で200のセッションが開催され、世界中から1万9千人が参加。1千人を超える世界のリーダーやチェンジメーカー、エキスパートが集い、将来を見据えた議論を通じて地球規模の課題について熱く語り合った。
新たなアイデアや取り組みを支援し、国や文化の壁を越えたつながりを育み、有意義な対話と新たな連携を創出してきたウーマンズ パビリオン。そのレガシーは、パビリオンを訪れた人々の心に変化をもたらし、そこでまかれた種が力強くグローバルコミュニティーで芽吹くことで、閉幕後も影響を与え続けるものとなるだろう。
(敬称略)