Life Style
2022.01.19

私が毎日使う"いいデザイン"公開!
暮らしに寄り添う"いいデザイン"って?

(撮影:伊藤徹也、安彦幸枝、川上輝明、久保田孤庵/
取材・文:木佐貫久代/構成:ボンマルシェ編集部)

教えてくださったのは……

喜多 俊之 さん
大阪芸術大学教授・プロダクトデザイナー

きた・としゆき 1969年よりイタリアと日本で活動開始。液晶テレビ「AQUOS」を始め、家具、 家電、家庭用品など分野を超えてデザイン。世界中の美術館 に収蔵作品多数。伝統工芸や地場産業を活性化する活動 に尽力。大阪芸術大学デザイン学科で教鞭をとる。

デザインを育む土壌は暮らし=家庭にある

「アートは自分の想(おも)いを表現するのですが、日常に使うもののデザインは使う人の生活の中で創られる必要があるので、出発点が違うのですね。つまりデザインは使う人への"思いやり"の具現化なのです」

喜多さんが1960年代後半にイタリアに渡り、現地で感じたのは、自分だけではなく、友達や家族みんながコミュニケーションをとって楽しむ、暮らしが素敵になるためにデザインがあるということ。さらに、互いの家を行き来してその暮らしが相互に影響を与えて、社会全体が豊かになっていく……その光景を見て、デザインを育む土壌は暮らし=家庭の中にあると感じたのだそうです。

確かに喜多さんのデザインは、体にぴたっと寄り添う可動式のソファ、食べやすさが考慮されたコンパクトなカトラリー、取っ手のついた脚立など、シンプルで美しい見た目からはすぐには気付かれない、使い手への思いやりや遊び心が潜んでいます。「まずは使う人になってみる。そして、どの時代においても使いやすく、人と共存できるデザインを突き詰め、心に響く製品だけを作ろうと心がけています」

また、「デザインは調和」とも話されます。「素材、実用性、メンテナンス、コスト、持続可能性、思いやり……多々の要素が関わっているのです」。素材を1種類にそぎ落とし、リサイクル素材や国産の竹で開発された新素材を採用するなど、少し先の未来を見据えた取り組みはSDGsが注目される以前から取り組まれ、さらに先人の知恵や技術が凝縮された伝統工芸を守るために、「日常で使って残せる」デザインをされています。

「コロナ禍で自宅での暮らしを見直し、楽しむ工夫をするようになって、日本のデザインはこれからもっと素敵になるとわくわくしています。自分の好きなものを選んで手に入れると心が豊かになるし、家に人を招きたくなりますよ!」

Sustainable

使い込んで、"経年美化"していくものに惹(ひ)かれます

春香 さん
モデル

「横須賀に工房を構える木工作家、宮下敬史さんの栗の木のリム皿です。主張し過ぎないデザインが気に入って毎日のように使っていますが、ちっとも飽きません。木の風合いは少しずつ深まっています。自然の木本来の持ち味を大切に生かす職人さんの手仕事から生まれる、ぬくもりのあるものが私の生活道具のキホンです」

Positive Energy

自分の好きなものを一つひとつ増やすと、エネルギーが湧く

石井 佳苗 さん
インテリアスタイリスト

「イタリア人デザイナー、ジオ・ポンティが1957年にデザインした椅子『スーパーレジェーラ』です。30年ほど前に一目惚(ほ)れして、でも、実際に手に入れたのはそれからさらに10年後、やっぱりこれだ、と思って。華奢(きゃしゃ)な脚と繊細な職人技の籐(とう)の座面で、座るというより飾る感覚です。私は必ずしも実用的=いいデザインとは思っていません。見ているだけで心地が良いものは自分にとって特別なもの。家のなかでいきいき輝いて見えるし、そんな道具はパワースポットになってポジティブなエネルギーが受け取れます。そこに愛があればモノと人は繋(つな)がれると思います。だから、生活道具は"これでいいや"じゃなく"これがいい"で選んでいます」

Timeless Future

未来に生きる人々の快適さも包含するデザイン

喜多 俊之さん
大阪芸術大学教授・プロダクトデザイナー

「カトラリーシリーズ『XELA』(2005年)は、和洋が融合した多彩な日本の食事により合うように18種類デザイン。なかでもパスタフォークは、イタリアで口の周りをナプキンで拭きながらパスタを食べている人を見て発想したものです。従来の4本歯では大きすぎて口の周りが汚れるので、パスタを巻きやすく食べやすいように、日本人の口に合わせて3本歯にして幅を狭めました。使う人の身になってデザインする、私のデザインを象徴するアイテムの一つです」

Charming Shape

自分がグっと惹かれるチャーミングなところがあるものが好き

福田 里香 さん
お菓子研究家

「半年前から使っているドイツの老舗、ミュンダー社のホーロー製ケトル。手を入れて洗える大きな口、倒せる取っ手、火当たり面積が広い底、かっちりした職人技の安定感など求めていた機能性もですが、直感的に"好き"と思ったことが選んだ理由です。業務用と違って家で使うものはチャーミングと思えるものがいい。自分が好きで選んだと思えると、使うこと自体を楽しめます」

ボンマルシェ編集部とアンバサダーが
喜多さんのスペシャル解説で「喜多俊之展」へ!

暮らしを快適にする"いいデザイン"を学ぶ

美術館巡りが趣味というボンマルシェアンバサダーの淀川知子さんと前川千香子さんが、兵庫県の西宮市大谷記念美術館を訪問。喜多さんに解説をしていただきながら、展覧会「喜多俊之 TIMELESS FUTURE」(現在は会期終了)を鑑賞する貴重な時間を過ごしました。

世界初の薄型液晶テレビ「AQUOS-C1」、匠の技を継承してきた職人の技法を使った手漉(す)き和紙の壁面照明器具「TAKO」(1971年)など、時代を先取ってきたヒット作の数々に圧倒されつつ、「使い手の立場になって考えられたデザインに感動」と淀川さん。その後の喜多さんを囲んでの座談会では、デザインの基本は思いやりであり、それは"未来の快適"をも見据えた"TIMELESS FUTURE"、という展覧会テーマを解説していただきました。前川さんは「まずはお皿一枚から暮らしを見直します」と語っていました。

ソファ「SARUYAMA」(1989年)。その場にいた子どもたちは誰に促されたわけでもなく登って遊んでいた。喜多さん(中央)をはさんで、前川さん(左)と淀川さん(右)※撮影時のみマスクを外しています。
匠の技を継承してきた職人の技法を使った手漉き和紙の壁面照明器具「TAKO」(1971年)