Life Style
2022.10.27

私たちは「土」に支えられて暮らしています
「土」のこえ、聞こえていますか?

佐藤俊さんは木々のこえを聞き、風を読み、大地の呼吸を感じながら、自然の循環と再生を目指す造園家であり、"大地の再生士"です。人の営みと大地の関係、水と空気が大地を通して循環する大切さ、私たちが心地よく呼吸できる自然環境を蘇らせるために取り組めることについて、うかがってみました。

(撮影:河内 彩/イラスト:加藤木茉里/取材・文:角田奈穂子/取材協力:和久倫也、宮崎志津香、土井孝志朗/構成:ボンマルシェ編集部)

教えてくださったのは……

佐藤 俊 さん
WAKUWORKS専務取締役・大地の再生関東甲信越代表

さとう・しゅん 新潟県村上市出身。日本大学生物資源科学部卒業。鎌倉と京都で庭師の修業をしたのち、「庭師植旬」の肩書きで活動。8年前から「大地の再生」活動に関わる。映画『杜人』にも出演。希望者に参加いただける講座を開催中。詳しくは、WAKUWORKSのHP→ https://www.wakuworks.jp/

人の体が空気と血液の循環を必要とするように、「土」にも空気と水の循環が大切。大地の「水脈」は人の体の血管のようなものなのです

佐藤俊さんが"大地の再生士"として活動するようになったのは、ドキュメンタリー映画『杜人』(イベントレポートページ参照)の主人公でもある造園家で環境再生医の矢野智徳さんと出会ったことがきっかけでした。

「それまで庭造りのために、コンクリートを使って水はけの改善をしたり、弱った樹木に肥料や薬剤を与えたり、いろいろ試してみましたが、思い通りの結果が得られませんでした。専門書で調べたり、先輩の造園家に尋ねたりしても、納得できる答えが見つかりません。もやもやしていたとき、矢野さんの現場にうかがい、お話ししたことで、霧が一気に晴れて答えが見つかったんです」

佐藤さんが衝撃を受けた「大地の再生」とは、それぞれの土地が本来、持っている「水脈※」と「空気」に着目し、滞ったり、止まっている流れを動かしたり、水の通り道を整えたりすることで、樹木や生き物の生態系を回復させていく方法です。「水脈」は「大地の再生」の専門用語で、土のなかにある水と空気の通り道のこと。人間の体でいえば、血管にあたる部分です。※「大地の再生」の現場では「気水脈」と説明。

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「水脈は、地面の中にホースが入っている状態がイメージしやすいと思います。地面から出ているホースの先が、ダムなどのコンクリートで作られた構造物や道路でふさがれていると、ホースのなかを通る水と空気の流れが止まったり、滞ったりしてきます。そうなると、大地が呼吸不全をおこしたような状態になってしまいます。雨水が染みこみにくくなるので、大地はどんどん乾燥していきます。その結果、樹木が傷んで枯れたり、土砂崩れなどの災害につながったり、生き物が減少したりという異変が起きてしまうのです」

そこで、佐藤さんたちは、五感を使い、その土地の自然環境を観察しながら、「水脈」を開き、大地が呼吸しやすい状態に戻していきます。方法は、「水脈」となる地面に溝を掘りその場の自然素材を入れると(炭、くん炭、枝葉などの有機物や石など)、それらが土中で変化を起こし、菌糸と繫がることで「空気や水の通り道」を作ったり、地上と地下を繫いで空気と水を大地に送る役割を担う「植栽」をしたり、植物の根を育てる「剪定(せんてい)や草刈り」をするなど様々。空気が通ると、有機物が健全に変化して土中が育まれ豊かになります。大地が再生していくと、風の通りがよくなり、水の循環が始まり、大地に雨水を蓄える力が蘇(よみがえ)り、命を育む豊かな土壌に回復していきます。

「再生した大地は、体を吹き抜ける風やしっとりした土の手触りが、とても心地いい。自然と思いっきり深呼吸したくなります」

家の中にも風の通り道をつくることから

穏やかに話す佐藤さんの笑顔を見ていると、都市部で暮らす私たちも大地の再生に役立つことはできないかと、うかがいたくなります。すると佐藤さんは、「すぐにできるのは、風の通り道をつくること」とアドバイスしてくださいました。

「窓だけでなく、玄関の扉も開けることで、家の中に風の通り道ができます。風が通るようになれば、こもっていた湿気が流され、空気の循環が促されていきます。風の通り道をふさいでいないかどうか、家具の配置も見直してみてください」

そして、もう一つ、大切なのが窓の外の環境です。庭に樹木を植えたり、マンションのベランダでも樹木のプランターを置いたりすると、直射日光がさえぎられ、葉が呼吸することで、風の流れが心地よい方向に変わっていきます。「樹木の手入れをするときは、手袋は使わず、素手で土を触って欲しいです。形状や湿り具合、見た目、匂いなど、土の状態がわかり、五感が研ぎ澄まされます。気持ちのよくない感覚を感じ取れるようになると、樹木の育ち具合や生育環境に敏感に反応できるようにもなりますよ」

人は大地がなければ生きていけません

家は大地の上に立ち、野菜や飼料用の植物を育ててくれるのも大地。衣類の素材になる綿や麻も大地から生まれます。しかし、私たちは便利さや快適さを求めるあまり、大地を痛めつける生活を享受するようになってしまいました。その弊害が昨今の水害にもつながっていると言えます。

「大地の再生には時間がかかりますし、その土地本来の風景にならった方法を模索するので、正解はありません。しかも、終わりがなく、継続して手をかける必要があります。すぐに答えが欲しい、変化が欲しいと考える現代生活に逆行するような方法です。ですが、大地の再生には、人生の豊かさに通じる生き方のヒントが隠れています。土を手で触り、風を肌で感じ、雨水の流れに目を向ける。五感をフルに働かせて、心で感じることが、環境問題を自分ごととして捉えることにつながっていくのだと思います」
そして、活動を通して佐藤さんは、「大地の再生という考え方を共有できる仲間ができたことが心強い」と言います。「多様な参加者と共に作業をしていると、様々な視点が加わり、人と人、人と自然が繫がる"結"の連携の大切さを感じます」

私たちも今日からもっと、土を、風を、身近に感じる暮らしを目指しませんか?