座談会・インタビュー記事
専門家と考える“女性のライフステージ”
~女性の更年期 日々の笑顔を取り戻す~

女性が年齢を重ねる上で避けて通れない、更年期。体調や気分の優れない日が続いても、周囲に明かすことなく耐えて過ごすという女性は少なくないようです。主な症状をはじめ、治療の流れや選択肢を知れば、改善の道が見えてきます。2025年秋に始動し、更年期に関する様々な情報を発信する「ハルノヒ スマイルプロジェクト」が、4月25日、東京・御成門でシンポジウムを開催。臨床医ら専門家が女性の更年期にまつわる多様なトピックを紹介しました。
主催=ハルノヒ スマイルプロジェクト
後援=厚生労働省、国立成育医療研究センター、公益社団法人 日本医師会、公益社団法人 日本産科婦人科学会、公益社団法人 日本産婦人科医会、一般社団法人 日本女性医学学会
ごあいさつ
国立成育医療研究センター 理事長
五十嵐 隆先生

健康をイメージする時、「病気ではないこと」だと思う方が多いかもしれません。しかし、今日では「身体はもちろん、心理的・社会的に良い状態であること」だと考えられています。この3要素は小児期を過ぎて大人になり、高齢期を迎えてからの健康にも大きく影響を与えます。日本では昨年5月に「女性の生涯の健康に関するプロジェクトチーム」が提言を出すなど、近年は女性医学と性差医学の観点から女性特有の健康問題を注視し、女性の健康を推進する機運が高まってきました。当センター内の「女性の健康総合センター」開設も、その流れをくんでいます。この先、女性固有の問題に対し研究を深め、臨床でも女性を支える体制を目指します。本日の女性の更年期を軸にしたシンポジウムをどうぞお楽しみください。
メッセージ
示されるエビデンスと知識を
明日からの行動につなげて
衆議院議員
仁木博文氏

シンポジウム開催、おめでとうございます。私は政治家として活動する以前は産婦人科の臨床医で、更年期障害や不妊症などの治療や出産に携わってきました。女性の体はライフステージに応じて様々な「特徴ある状態」が訪れます。これには女性ホルモンが影響します。皆様にはそういったことをよく知った上で、医師や医療チームと乗り越えていただきたいと思います。今日示される詳しいエビデンスと知識をぜひ、明日からの生活や行動につなげてください。ご家族や職場の理解が広がることも祈念して、祝辞とさせていただきます。
女性の健康総合センターについてご紹介
「性差を踏まえたアプローチ」で
思春期から老年期まで女性を支える
国立成育医療研究センター 女性の健康総合センター
センター長
小宮ひろみ先生

2024年10月、当センターは国立成育医療研究センター内に誕生しました。女性のライフステージが様々ある中、思春期・生殖時期にあたる産前産後・更年期に重点的にタッチして診療相談をお受けします。このほか、研究開発や人材育成、啓発・情報発信、政策提言などに取り組む組織です。特に啓発と情報発信における外部連携として、協力医療機関や関係学会とともに、企業ともタッグを組んで活動します。オープンイノベーションセンター、データセンター、シンクタンクという三つの機能が一体になっていることも、当センターの大きな特徴です。
開設の理由は第一に、女性は年齢やライフイベントに伴って健康課題が変わることが挙げられます。加えて、同じ疾患でも男性と女性では症状や経過が異なる場合がありますし、働く女性の増加、妊娠・出産年齢の上昇によるハイリスク妊産婦の増加といったライフスタイルの変化も生じています。また少なからず、ジェンダーバイアスも存在します。
こういった現状や、未病のような「なんとなく調子が悪い」という状態への対処を念頭に「女性の健康総合センター」は皆様の健康を推進していきます。思春期から老年期まで、女性の健康に「性差を踏まえたアプローチ」を実施する中核拠点です。ぜひ今後の活動にご期待ください。
専門家による講演
更年期障害とは?HRTとは?
千葉大学大学院医学研究院 産婦人科学 教授
日本産科婦人科学会 常務理事
甲賀かをり先生

診断基準は患者本人の主観がベース
日本の母親の病院受診は1割未満※1
更年期とは閉経前後の5年、計10年を指します。「今、私は更年期かしら?」と思っても、閉経は12カ月以上の無月経を確認して確定されるため、更年期も実際には後付けで決まります。個人差が大きいのですが、日本人の平均閉経年齢は51歳ですから、この辺りの年齢に差しかかって調子が悪ければ更年期が関連していることを疑うのが現実的な感覚でしょう。
更年期障害の前に、更年期症状についてお話しします。これはこの時期に表れる多種多様な症状の中で「器質的変化に起因しない」、つまり臓器に目に見える変化がないものとされます。その症状が「日常生活に支障を来す」と、更年期障害という病気になります。その方の主観で決まるのですが、保険診療も可能です。
主な症状は、月経不順のほかホットフラッシュやイライラ、頭痛・関節痛や肩こり、疲労感などです。年齢が高くなると尿もれや動脈硬化、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)なども問題になります。女性ホルモンの一種であるエストロゲンが血圧や脂質代謝のバランスをコントロールする、自律神経を安定させる、骨密度を保つといった役割を持っているからです。更年期に体内で起きる大きな変化は、こうした女性ホルモンの著しい低下(下図参照)。更年期症状は卵巣で分泌される女性ホルモンの量が減った時、脳の下垂体が出す分泌の指令によって、ホルモンが乱高下することで引き起こされます。

体に不調を感じた時はまず、病院を受診して他の原因がないかを探ってください。そして更年期だと判明したら、バランスのいい食事や運動、睡眠を。家族のサポートも大切です。それでも支障がある時は、症状に応じて睡眠導入剤、抗不安薬、漢方薬などを取り入れます。違う選択肢として、HRTというホルモン補充療法があります。飲み薬や貼り薬、塗り薬などでホルモンを補うもので、若い頃に卵巣でつくられていたホルモンと成分は同じです。服用すると下垂体が「頑張らなくてもいい」とわかり、ホルモンの値が安定して骨粗鬆症や動脈硬化のリスクも低下していきます。産婦人科医のガイドラインにも記載があるため、ホットフラッシュや発汗、不眠などの症状があれば、多くの場合HRTを行います。
ある調査では、更年期症状を自覚する母親のうち、治療を受けていたのは4.6%ほどしかいませんでした。まずは悩まず相談してください。症状をメモしておくと話しやすいでしょう。私自身も、共に症状に向き合う医師でありたいと考えています。
※1 出典:国立成育医療研究センター プレスリリース「更年期症状のある母親の家庭では子どものメンタルヘルスが悪化」から
更年期診療の現状
〜クリニックの現場から〜
Inaba Clinic院長
稲葉可奈子先生

エストロゲンの効果を一部取り戻すと
身体や精神の症状改善が期待できる
更年期症状の出現は50歳前後からが多いのですが、個人差が大きく症状も千差万別です。典型的なホットフラッシュがなくても、つらい関節痛や理由がわからない不安感などが表れることがあり、日常生活の大きな支障となることもあります。「もしかして更年期症状かも……」と思ったら、婦人科で相談してみましょう。問診や血液検査などで他の病気ではないと確認してから、必要に応じて治療の相談をします。

更年期症状にはセルフチェックリスト※2があり、そこには「51点以上は医師の診察を」とありますが、51点以下の受診でも全く問題ありません。
これらの症状は女性ホルモンが関連しているので、治療法として最も効果的なのは、先にも紹介があったHRT。ホルモンの補充によってエストロゲンの効果の一部を取り戻すことを目指す治療です。ホットフラッシュや関節痛などの身体症状に加え、不安感や不眠といった精神的な症状の改善も期待できます。骨粗鬆症や生活習慣病の予防にも役立ち、実は美肌の効果などもあると考えられています。
この治療では、子宮がある女性の場合、子宮体がんのリスク上昇を防ぐためにエストロゲンとともにプロゲステロンを併用します。副作用の有無を心配される方もいるでしょう。中には 、不正出血や胸の張りが出ることがあるものの、おおむね治療初期に収まっていく傾向です。長期にわたって継続すると乳がんのリスクが少し上がるとされていますが、5年以内の使用ならば影響しないという研究結果が報告されています。
診療していて印象的なのは、患者さんの「治療して人生が変わりました!」という言葉です。関節痛が和らいで包丁が普通に持てる喜びを伝えていただいたり、不安が強く外出できずにいたけれど友人と旅行できたと笑顔を見せてくださったり。データでは、HRTで約9割の患者さんのホットフラッシュが改善するとわかっています※3。一部にはこの治療ができない方もいますが、医師から他の手立てを提示してもらえます。
友人同士で更年期症状について相談すると心は軽くなりますが、症状の改善には受診が必要です。保険診療で治療でき、薬剤によって異なるものの薬代の3割自己負担は月額約2千円と経済的な負担が少ないことも特徴です。よく「アンチエイジング」と言いますが、年齢にあらがおうとするのではなく、快適に年齢を重ねる「ウェルエイジング」を婦人科の医師と一緒に目指してもらえたら、こんなにうれしいことはありません。
※2 更年期症状指数票(SMI)
※3 Menopause. 2022 Jul 1;29(7):767-794.
世界標準と日本の現状
東京科学大学 茨城県地域産科婦人科学講座 教授
日本女性医学学会 副理事長
寺内公一先生

国によって症状のパターンが異なる
更年期障害による経済損失は世界共通
更年期障害の患者さんの数は厚生労働省の調査で約32万7千人ですが、実際は200万~300万人にのぼると推定されます(下図参照)。大多数は医療機関にかかっておらず、氷山の一角なのです。

日本で更年期障害の女性がどのような症状を訴えているかというと、肩こりや疲労が多く、ホットフラッシュ、うつ、不眠と続きます。しかし、国によって大きな差があります。例えば、日本でおよそ37%が感じているホットフラッシュは米国では80%に達していて、日本で70%近くが感じている関節痛は欧米では50%以下にとどまっているのです※4。
症状のパターンは異なるものの、生活に支障を来していることや経済への影響は共通課題です。更年期障害による経済損失は、米国で年間3.5兆円ほど※5。数年前のデータのため現在のレートでは4.1兆円にもなります。働いている女性の6〜7人に1人が更年期障害という業務の支障を抱えているのです。日本でも2兆円近くと推定され※6、大変高額です。大きな要因は離職で、責任ある立場の女性が更年期障害を理由に退職することが経済的に大きな影響をもたらしています。
今日はHRTが重要な意味を持つと説明されてきましたので、この治療の歴史を少し紹介します。概念自体は19世紀後半に誕生し、1960年代の米国で閉経予防と加齢感の軽減を目指して確立されました。その後、女性ホルモン受容体が全身に分布していることが判明し、症状緩和にとどまらない骨量減少を防ぐ、血管疾患・コレステロール上昇の予防、膣(ちつ)萎縮の改善といった多面的メリットが認識されます。その後、2000年代にはHRTが動脈硬化のリスクを高める可能性が報告されましたが、研究対象とした女性の年齢層などを踏まえて後に「閉経直後の女性に対する治療の有効性」が改めて認められました。また血栓症のリスクは貼付型や塗布型の製剤で回避できると明らかになり、今日ではホットフラッシュに対する第1選択肢として国際閉経学会が推奨しています。
日本における更年期世代の女性はおよそ1340万人です。しかし、ホットフラッシュがある患者さんのうち受診をするのは15%程度で、HRTを受けるのはわずか4〜5%です※7。欧州諸国で積極的な治療が進められている中、日本は遅れをとっています。プロジェクトをきっかけに、治療法の種類や有用性を知っていただき、更年期障害の治療に積極的になっていただけることを願っています。
※4 Tang 2025 Climacteric
※5 Mayo Clinic Proceedings 4/26/2023
※6 経済産業省 ヘルスケア産業課 令和6年2月
※7 Terauchi et al(2026),総務省「人口統計」,厚生労働省「更年期症状・障害に関する意識調査」
