
講演②“人工関節は最終手段”の時代は終わり
〜最新の人工股関節・人工膝関節でアンメットニーズ解決へ〜
日本整形外科学会100年プロジェクトリーダー/九州大学整形外科学教室 教授
中島 康晴 先生
足腰の障害は要介護・要支援に直結する
整形外科の中でも私が専門としているのは、股関節、関節リウマチ、小児整形外科です。中でも、変形性股関節症は診療ガイドライン作成に初版から関わってきたこともあり、最も注力してきた疾患です。厚生労働省が発表している要介護・要支援が必要となる原因を見てみると、運動器では「骨折・転倒」13.9%、「関節疾患」10.2%、「脊髄(せきずい)損傷」2.2%であり、合計すると26.3%、全体の1/4以上を占めます。この割合も年々増加傾向で、運動器疾患を減少させることは介護予防の点からも重要なことです。
関節疾患の中で、圧倒的に多いのが変形性関節症(osteoarthritis、OA)です。変形性関節症とは、加齢や持って生まれた関節の形態が原因で関節軟骨が変性し摩耗・消失する病気で、進行すると関節の痛みが出て、動きも悪くなります。その中でも歩行やQOL(生活の質)に直結するのが体を支えている下肢の変形性股関節症、変形性膝関節症です。変形性関節症は、ロコモティブシンドローム(ロコモ)の大きな要因の1つです。進行すると痛みが発生し、筋力の低下や可動域の制限が起こります。さらに進むと歩行障害が起きたり、生活が制限されたりし、要介護・要支援へとつながってしまうのです。

変形性関節症の現状と人工関節置換術の高い満足度
変形性関節症は世界的に見ても増加しており、今後30年で数割から倍に増えることが予想されています。加齢とともに増加する病気なので、高齢化によって増えますが、肥満や歩行機会が少なくなっているという生活様式の変化もその一因として挙げられています。
国内においても変形性股関節症は約500万人、変形性膝関節症は約2,500万人と推計されており、日本が抱える大きな問題と言えるでしょう。残念ながら変形性関節症の進行を止める薬はありません。リハビリや運動療法、鎮痛薬などの保存的治療もありますが、本日は治療の中心である人工関節技術について述べさせていただきます。変形性関節症に関する手術は、日本整形外科学会症例レジストリー(JOANR)の2023年のデータでは、大腿骨近位部骨接合手術に次いで2番目に多いのが人工膝関節置換術で約9万件、3番目に多いのが人工股関節置換術で約8万件となっています。
人工股関節置換術、人工膝関節置換術は、傷んだ関節を取り除き、金属やプラスチックの一種であるポリエチレンでできた関節に似た形の人工物に置き換える手術です。痛みを抑える効果と機能回復が期待できる手術で、痛みで不自然な歩行をしていた患者さんも、術後数週間でスムーズに歩くことができるようになるケースが多いです。人工関節に対する満足度も非常に高く、手術を受けた患者さんのおよそ94%が満足していると答えてくれています(Shiomoto et al. J Arthroplasty, 2020)。
実際に私が担当した患者さんから「痛みが取れた」「スムーズに階段ものぼれる」「周りの人が驚く」といった声をいただいています。痛みが取れるだけではなく、スポーツもできるようになり、手術後、テニスやバレーボールを楽しんでいる方も少なくありません。

人工関節の耐久性向上 適切な早期介入を
人工関節が普及し始めたのは1960年代で、本格的に日本で手術が行われるようになったのは70年代です。ですからその歴史はまだ50〜60年とそれほど長くありません。90年代までは、その耐用性も10年で80〜90%程度であり、「どうしようもなかったら人工関節」「患者さんが60歳を超えてから勧めるように」というように人工関節=最終手段と考えられていました。しかし、90年代後半に架橋ポリエチレンが開発されたことによって、その耐用性は20年で90%以上と大きくアップしました。
従来のポリエチレンでは、その摩耗粉が人工関節周囲の骨を溶かして人工関節が緩んでしまうため、年月が経つと再手術が必要となるケースが少なからず発生していました。しかし、架橋ポリエチレンの開発によって摩耗紛が著減すると、人工関節は長寿命化が実現し、再手術が必要になることは大きく減りました。ようやく、医療を提供する私たちも、人工関節は最終手段ではなく、「20年以上先の再手術を心配するよりも、明日の痛みを取りましょう」と自信を持って手術を勧められるようになったのです。
さらに、2000年以降はコンピューター技術支援によって人工関節の設置の精度が上がり、こちらも大きな技術革新と言えるでしょう。3Dテンプレート、術前のシミュレーション、術中のナビゲーションやロボット支援手術などによって、人工関節の設置がより緻密(ちみつ)に行えるようになり、脱臼などの術後合併症を低減させることや動作制限も減らすことができます。
大事なことは、手術の回避ではなく、「痛みなく、元気に動けること」です。関節疾患は進行性であることも多く、手術にはタイミングも大切です。あまりに症状が進んでからでは、術後も十分な回復が望めない可能性もあります。人工関節手術は痛みを軽減し、歩行能力を改善できる有効な治療法です。人工関節は最終手段という時代は終わりました。ぜひ歩けるうち、筋力が残っているうちの手術をお勧めします。

中島 康晴(なかしま・やすはる)
1990年、九州大学医学部医学科卒業。同附属病院医員、福岡市民病院、米国スタンフォード大学整形外科Research fellowを経て98年から九州大学医学部附属病院整形外科助手、2008年から同大学附属病院整形外科講師、11年から同大学大学院医学研究院寄附講座(人工関節・生体材料学講座)准教授。同大学大学院医学研究院整形外科准教授を経て16年から教授。18年から同大学病院副病院長、26年より同大学病院病院長を務める。
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