朝日デジタル
Presented by KOBE
絶品アサリ きらめく魚 よみがえれ あの須磨の海 行動つなぐ 仲間の輪
里山・里海SDGs

絶品アサリ きらめく魚
よみがえれ あの須磨の海
行動つなぐ 仲間の輪

「ここのアサリは日本一うまいアサリやったんちゃうかなぁ」
神戸市須磨区に広がる須磨海岸。
その一角にある平屋建ての事務所の中で、大学生の私にとって、人生初のインタビューが始まりました。
須磨で暮らし、漁船に乗って30年以上という漁師の岡田真一さん。
緊張する私の前で、須磨の漁業の現状についてとつとつと語っていた岡田さんの口調が、アサリの話になると一気に熱を帯びてきました。

漁師の岡田真一さんが「須磨のアサリ」のおいしさを力説してくれた
漁師の岡田真一さんが「須磨のアサリ」のおいしさを力説してくれた

取れなくなって13年。あー、食べたい!!

「酒蒸しとかお吸い物にしたら、だしが真っ白けになるくらい、めっちゃ濃厚。大っきいやつはハマグリみたい。中身がはみ出るくらい、120%くらい入っていて、もう何とも言えないおいしさ。他で取れたアサリと全然ちゃう。須磨のアサリを食べたことある人は絶対また食べたいと思うよ」
マスクで隠れた岡田さんの口元に、笑みがあふれているのが分かります。
私もすっかり緊張を忘れて、生つばが湧いてきました……。
あー、須磨のアサリ、食べたい!!
でも、そんなアサリが、2009年を最後に、須磨では取れなくなったそうです。
なぜでしょうか――。

穏やかな海とビーチが広がる須磨海岸
穏やかな海とビーチが広がる須磨海岸

申し遅れました。私たちは、神戸でSDGsに取り組む学生団体「Re.colab KOBE」(リコラボコウベ)です。漁師さんから伺ったアサリの話があまりに美味しそうで、伝えるのに夢中になってしまいました。
SDGsの目標14は「海の豊かさを守ろう」です。
私たちリコラボは、2021年から須磨海岸に通い、「豊かな海の再生」をめざす活動に加わっています。昨年度は「海のブルーカーボンの取り組み」にも参加しました。
そもそも、私たちが目指すべき「豊かな海」って、どんな海でしょう。
私たちは自分たちの「ゴール」を探すため、漁師さんらから話を聞き始めました。

カレイもエビも…人間の活動のせい?

「ここ数年で、取れる魚の量がグッと減っています」
冒頭でインタビューした岡田さんと同じく、須磨で漁業を営む「すまうら水産有限事業組合」代表の森本明さんはそう話します。
取れなくなったのはアサリだけではないそうです。カレイ、カニ、エビなど、「マエモノ」と呼ばれる地元の海で育つ海産物の漁獲量も、年々減少傾向にあるといいます。
「魚が取れなくなった原因はさまざまですが、総じて言えるのは、人間の活動と自然の活動のバランスが悪化しているということではないでしょうか」と森本さんは続けます。

神戸市経済観光局「神戸市農漁業の現況」から
神戸市経済観光局「神戸市農漁業の現況」から

そんな状況の中、海の豊かさを取り戻そうと、調査と活動に乗り出した人たちがいます。 2018年に発足した「須磨里海の会」です。
会長の吉田裕之さんは、地元・須磨海浜水族園の元園長。その経験と知識を強みに、地域の人たちと連携しながら、海の生き物に関する調査や教育活動を進めています。目指すのは「みんなが環境に対して関心を持つようになること」だと吉田さんは言います。

アサリのすみやすい海をめざす「海底耕耘(こううん)」
アサリのすみやすい海をめざす「海底耕耘(こううん)」

海を耕す。みんなで耕す。

地元の漁師から「アサリが取れなくなった」と聞いた吉田さんたちは、海の中を調べました。その結果、ホトトギスガイという別の貝が増えすぎて、その分泌物が海底を覆い、マットのように固まっていることが分かりました。そのせいで、アサリなどの他の生き物は酸欠状態になるそうです。
そこで、里海の会は巨大なすきを綱引きのようにみんなで引いて、海の底を耕す「海底耕耘(こううん)」に取り組んでいます。須磨海岸でイベントを開くたびに、参加者を巻き込んで海底耕耘を行い、アサリもすめるような環境づくりを目指しています。
里海の会は他にも「須磨のアサリ」復活のための調査や実験を続けていますが、残念ながら、まだ復活したと言える状況ではありません。
冒頭でインタビューした漁師の岡田さんは、里海の会の発足メンバーの一人で、現在は副会長。「アサリを復活させたいっていうのが一番の思い。でもまずは、須磨に漁師がいることを知らん人も多いから、須磨の海でもおいしいもんが取れることを知ってほしいな」と言います。

「ビーチクリーン」の参加者に語りかける「神戸海さくら」理事長の森口智聡さん
「ビーチクリーン」の参加者に語りかける「神戸海さくら」理事長の森口智聡さん

「美―チ」活動200人。楽しくなければ続かない。

2022年、須磨海岸で新たに「Suma豊かな海プロジェクト」が始まりました。
里海の会、すまうら水産とともにプロジェクトを主催するのが、NPO法人「神戸海さくら」。2013年に発足し、浜辺のごみを拾って美しく保つ「ビーチクリーン」活動に取り組んできた団体です。
モットーは「楽しくなければ続かない」。活動に参加した人の数は累計で2000人を上回ると言います。
理事長の森口智聡さんはこう言います。「9年間、ビーチクリーンを続けてきたからこそ分かります。海中に漂うプラスチックごみの数は無限に近い。ごみをゼロにするのはほぼ不可能だと。でも、そんな現実にくじけることなく、今の活動を仲間とともに続けたい」

私たちリコラボもビーチクリーンに参加しました
私たちリコラボもビーチクリーンに参加しました

海と人を豊かにつなぐ。私たちにできること。

さて、私たちの活動をお伝えしましょう。
10月16日。夏を感じる日差しのもと、須磨海岸で「Suma豊かな海フェスタ」が開かれました。
さかのぼること1か月前、私たちは、里海の会会長の吉田さんにこんなお願いをしました。
「リコラボのブースを出させていただけませんか」
「いいよ、やってみて」。驚いたことに吉田さんは二つ返事で承諾してくれました。
こうしてフェスタ当日、須磨海岸の遊歩道沿いに、すまうら水産や須磨里海の会、神戸海さくらなどのブースと並んで、リコラボもブースを出展することが決まったのです。
「豊かな海」の実現のために、私たちは何を伝えるか。
メンバーで議論した結果、神戸市北区の耕作放棄地で「里山の再生」に取り組んでいるリコラボの特色を生かし、「海と山をつなごう」をテーマに掲げることにしました。
人の手が適度に加わることで生物多様性や自然環境の保全につながる「里山」と「里海」の意義を伝えるパネルを展示。放置されて増えすぎると他の生物の成長を阻害することもある「竹」の問題も紹介。自分たちで伐採した竹を活用して水鉄砲などのおもちゃを自作し、親子連れに遊んでもらいました。須磨海岸で集めたプラスチックごみを使って作ったアクセサリーも販売し、子どもたちから好評でした。

海洋プラスチックで作ったアクセサリー(上)と竹で作ったおもちゃ(下)
海洋プラスチックで作ったアクセサリー(上)と竹で作ったおもちゃ(下)

山と海でそれぞれ「邪魔者」とされる「竹」と「海洋プラスチック」。その見方や使い方を変えるだけで、魅力あるものに変化する。こうやって視点を転換することが「豊かな山」「豊かな海」の実現につながるのではないか。そんな思いを伝えようと企画しました。
最初は人が来てくれるかなと不安でしたが、当日は予想以上にたくさんの人たちが私たちのブースに来てくれて、「どんな活動してるの?」「面白いことしてるね」と声をかけてくれました。
私たちの思いが少しでも伝わっていたら、うれしいなと思います。

ブースで展示したパネルを持って記念撮影
ブースで展示したパネルを持って記念撮影

これまでに1年以上、須磨海岸に通い続ける中で、たくさんの方たちに出会いました。
朝早くから海へ出かける漁師さん。
浜辺でごみを拾うボランティアの方たち。
海を守ろうと一生懸命活動する方たち。
潮干狩りを楽しむ子どもたち。海水浴を楽しむ若者たち。
波の音に合わせて楽器を奏でる人。ただ静かに海を見つめる人、
それぞれが、それぞれの思いや目的を持って、同じ海を共有しています。豊かな海は、多種多様な人たちがいるからこそ、つくり出せるのだと思います。
海と人のつながりを豊かにしたい。多くの人が環境に心を向けるようになってほしい。
須磨の人たちの言葉を聞くうちに、そんな思いが、私たちの中に自然に湧いてきました。
学生ならではの自由な発想力とパワフルな行動力で、この思いを発信し、仲間の輪をつないでいきたい。
私たちはこれからも須磨に通い続けます。

藤野 真太郎
藤野 真太郎

水産業の現場は、僕の想像をはるかに上回るほど危機が迫っていることを知りました。今回伺った貴重なお話をもとに、改めて私たち若い世代に何ができるのか考えたいと思います。

松本 奈々
松本 奈々

幼稚園の時にはじめて海開きに訪れた須磨の海。インタビューを通して、須磨の海をより良くしようと活動されている人々の想いと、継続することの大切さを学びました。これからもリコラボの活動を通して今まで知らなかったことを吸収していきたいです。

矢野 まなみ
矢野 まなみ

今回の活動でたくさんの人、生き物に出会い、いろんな考えを持つようになりました。これからもこのご縁を大切にしていきたいです。須磨にいるパワフルで熱い想いをもつ大人の方たちに負けないよう私も頑張ります!

吉田 有里
吉田 有里

須磨に通い始めて半年。以前は単に「須磨にある海」だったものが、私にとって特別な存在の「須磨海岸」になりました。その思いと、新しい世界に飛び込むワクワク感を、多くの人と共有できたら嬉しいです。

【文・取材】
藤野真太郎、松本奈々、矢野まなみ、吉田有里
【写真】
水本彩葉、吉田有里、高田将之
【動画編集】
吉田涼音
【動画撮影】
雪定弦生
【協力】
神戸海さくら、すまうら水産、須磨里海の会、東須磨漁協振興会
【監修】
朝日新聞DIALOG編集部
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