家族信託とは
財産管理や運用などの権限を家族に託す仕組みが家族信託であり、委託者・受託者・受益者の三者から成り立っています。実際の活用例には賃貸経営があり、オーナーが委託者、家族が受託者となり、オーナーにもしものことがあっても賃貸経営や受託者の家族が継続してくれます。家賃収入は受益者のものとなりますが、このようなケースではオーナーを委託者兼受益者にするのが一般的です。つまりオーナーが認知症になっても、賃貸経営にはほとんど影響がないということです。
自分で家族信託の手続きをするメリット・デメリット
家族信託の手続きは、弁護士や司法書士などへ依頼するのが一般的です。信託契約や相続の専門知識が必要なため、法律職へ依頼するケースが多くなっていますが、自分で手続きすることも十分可能です。ただし、次のメリット・デメリットを理解した上で検討するようにしてください。
自分で家族信託の手続きをするメリット
自分で手続きするメリットはなんといってもコストカットになるということです。専門家に手続きを依頼した場合、財産額の0.5%~1%程度の費用が必要になり、プランの内容によってはさらに費用がかかる場合もあります。また、自分で手続きをすると第三者に財産内容を知られることもありません。
自分で家族信託の手続きをするデメリット
専門家に依頼せず自分で手続きする場合、家族信託の設計に漏れが生じる可能性があります。
信託財産に含めなかった財産を巡って相続人同士が揉めたり、信託期間終了後の財産について帰属先がどうなるかで意見が対立したりする場合もあります。
家族信託では信託口口座で財産を管理しますが、一般口座に比べて特殊なため、開設に応じてくれる銀行が近くにない場合もあるでしょう。信託を開始する場合は契約書も必要ですが、不慣れな方が作成すると納得していない家族が無効を主張してくるかもしれません。家族信託の手続きには高度な専門知識が必要であることを理解しておきましょう。
自分で家族信託の手続きをするときに集める情報
家族信託を利用する場合、まずプランニング用の情報収集が必要になります。家族信託の必要性を見極めるためにも重要なステップになるので、次に解説する6つの情報は漏れなく収集するようにしてください。
家族信託の目的をはっきりさせる
家族信託では委託者が何を信託したいのか、何のために家族信託を利用するのか、目的をはっきりさせておきましょう。賃貸アパート経営を例にすると、以下のような情報をまとめておく必要があります。
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父親が経営する築30年の賃貸アパートがある
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高齢な父親は徐々に判断力も衰えている(日常生活や法律行為は問題なし)
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父親は長男にアパート経営を引き継ぎたいと考えている
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父親には長男と次男、孫(長男の子供)がいる
父親が認知症になった場合は賃貸借契約ができなくなり、修繕についても業者と契約できなくなるため、アパートの管理・運営は停止してしまいます。このようなケースでは後見人制度も使えますが、被後見人の財産保全が主な業務であり、賃貸経営を代行してくれるわけではありません。この場合の家族信託の目的としては「父親がいずれ長男に引き継がせたい賃貸アパートの経営を続ける」ということになります。
受託者や受益者を決める
信託の目的がはっきりしたら、次に受託者と受益者を決めていきます。受託者とは財産管理や運用を託す人なので、父親の希望どおり長男を受託者にするのが妥当でしょう。次に財産から発生する利益を享受する人、つまり受益者を決めますが、財産の所有者を受益者とするケースが一般的です。
また、家族信託は設計の自由度が高いため、第2受託者や第2受益者も契約に盛り込んでおくことができます。父親よりも先に長男が亡くなった場合は次男を第2受託者とし、父親が亡くなったときの第2受益者に孫を指定してもよいでしょう。このように家族と話し合って情報を集約し、少しずつ信託の設計図を完成させていきます。
信託財産を明確にする
家族信託では信託財産を指定して契約書を作成するため、信託しない財産については受託者に管理権限はありません。
今回の例では賃貸アパートの管理・運用・処分を信託していますが、父親が死亡した場合、自宅などの財産は遺言による遺贈、または通常の遺産分割が必要になります。成年後見制度では財産全体が保全の対象になりますが、家族信託では限定的になるため、受託者や受託者以外の家族も両者の違いを理解してく必要があります。
信託期間や制限を決める
家族信託の信託期間は自由に設定できるので、以下のような例で決定します。
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受益者が死亡するまで
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受益者および第2受益者が死亡するまで
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受託者が死亡するまで
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信託開始(契約発効)から○○年
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受益者が満○○歳になる日まで
なお、一族の財産を直系の子孫へ承継させるなどの目的で、子から孫へと受益者を連続させる信託を「受益者連続型信託」といいます。受益者連続型信託の場合、受益権の承継回数に制限はありませんが、30年経過後の受益権承継は一度しかできないので注意してください。
信託監督人の選任
家族信託では必要に応じて信託監督人も設定できます。通常は受益者が受託者を監督しますが、何らかの事情で受益者本人が監督出来ない場合は、第三者を信託監督人として選任することもできます。成年後見制度における後見監督人のような立場だと理解してください。
信託終了時の財産の帰属先を決める
家族信託が終了したときの信託財産、また信託財産以外の財産について、誰に帰属するのか決めておくとよいでしょう。つまり家族信託がリセットされた状態ですから、相続問題に発展しないよう家族同士で話し合っておくことが理想的です。家族信託は長期的な利用になるため、ここまでの情報がまとまらないと効果的な設計ができません。
自分で家族信託の手続きをする流れ・必要書類
家族信託のプランが完成したら、次は信託開始に向けた諸準備が必要になります。主な手続きは信託契約契約書の作成や締結、管理権限の移転になるので、流れに沿ってわかりやすく解説します。
1)信託契約書の作成および締結
家族信託は口頭による契約でも成立しますが、行き違いからトラブルに発展しないよう信託契約書は必ず作成してください。家族信託では信託口口座の開設も必要になりますが、公正証書以外の契約書は受け付けてくれない金融機関がほとんどです。公正証書は公証人へ作成を依頼するため、信託財産の額に応じた手数料が必要になりますが、5万円前後から9万円程度の費用をみておくとよいでしょう。費用を節約する場合は、公正証書以外の契約書でも受付可能かどうか、金融機関へ確認してください。なお、信託契約書には以下のような内容を盛り込みます。
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信託の目的
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信託財産
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委託者、受託者および受益者
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信託期間
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信託財産の管理処分
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信託終了に関する必要事項
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契約締結日
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委託者および受託者の住所、署名捺印
2)信託財産の登記
賃貸経営を例にした場合、家族信託ではアパートなどの所有権を受託者に移転させます。所有権には管理権と受益権が含まれていますが、家族信託で移転するのは管理権であり、委託者と受託者による共同申請が必要です。実際に登記申請すると、登記事項証明書に信託目録が追加され、受託者の名前が表示されます。なお、登記申請の際には以下の書類が必要です。
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登記済証または登記識別情報(権利書)
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固定資産税評価証明書
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戸籍謄本または抄本
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委託者の実印および受託者の認印
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委託者の印鑑証明書(発行後3カ月以内のもの)
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委託者と受託者の本人確認書類(運転免許証など)
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受託者の住民票
3)信託口口座の開設
家族信託の受託者は、信託財産を専用口座で管理する必要があるため、銀行で信託口口座(しんたくぐちこうざ)を開設します。まず取引銀行や証券会社に連絡し、信託口口座を開設できるか確認しておきましょう。
信託口口座の多くは通帳発行のみであり、入出金はすべて窓口扱いになるため、キャッシュカードの発行やネットバンキングが利用できるかも問い合わせてください。なお、信託口口座の開設には以下の書類等が必要になります。
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家族信託の契約書
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受託者の届出印
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受託者の本人確認書類
無事に口座開設できれば家族信託のスタートとなります。
家族信託の手続きをするときにかかる費用
自分で手続きをする場合と、専門家に依頼した場合では費用が大きく異なります。家族信託開始までにかかる費用は次のようになるので、費用対効果を考慮しながら専門家への依頼も検討してください。
自分で手続きする場合の費用
専門家を頼らず自分で家族信託の手続きをする場合は、以下のような費用がかかります。
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戸籍謄本または抄本:1通450円
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固定資産税評価証明書:300円
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登記事項証明書:窓口600円、オンライン・郵送500円、オンライン・窓口交付480円
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印鑑証明書:窓口450円、オンライン・郵送410円、オンライン・窓口交付390円
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公正証書費用:信託財産額による(例:1,000万円超~3000万円以下は23,000円)
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信託口口座開設費用:各金融機関による
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登録免許税:建物は固定資産税評価額の0.4%、土地は0.3%(軽減税率あり)
専門家に依頼した場合の費用
弁護士や司法書士などに家族信託の手続きを依頼した場合、以下の費用が発生します。
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相談料および着手金:50万~100万円程度
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公正証書の作成費用:10万円程度
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不動産登記費用:10万円程度
その他諸費用も含め、75万~125万円程度が専門家の報酬相場となっています。
自分で家族信託を手続きするときの注意点
家族信託は長期間の運用になるため、家族の理解が重要になります。家族信託以外の選択肢など、次に挙げる注意点を意識しながら検討してください。
家族の十分な理解が必要
受託者となった家族は管理責任や義務を負いますが、家族信託の仕組みを理解していない家族には「1人だけ優遇されている」とみられるかもしれません。また、委託者の権限も以前とは違うため、自分の財産だからといって自由に処分はできません。理解不足のままスタートするとトラブルになりやすいため、関係者全員に丁寧な説明が必要となります。
家族信託以外の方法も検討する
家族信託の仕組みは画期的ですが、利用目的を突き詰めると成年後見制度が適していたという例もあります。遺言書で目的を果たせるケースもあり、人によっては商事信託(信託銀行の利用など)が向いている場合もあるでしょう。他の選択肢と比較しながら、家族信託でなければならない理由があるかどうか、十分に検討してから決めるようにしてください。
まとめ
高齢化社会の進行とともに認知症リスクも拡大していくため、何らかの対策が今後ますます重要になってくるでしょう。家族信託の利用数は徐々に増えていますが、まだ歴史が浅いため、世間一般の認知度はあまり高くありません。しかし従来制度をカバーし、柔軟性や拡張性も高いため、近い将来財産管理や認知症リスクへの対応策としてスタンダードな仕組みになっているかもしれません。ただし、どのような相続対策も元気なうちでなければできないため、将来に不安のある方は早めに専門家へ相談するべきでしょう。



