家族信託とは?成年後見制度との違いとは?
家族信託は委託者・受託者・受益者の三者から成り立つ仕組みのことをいいます。
委託者は財産の所有者であり、認知症になると財産管理できなくなるため、生前に受託者へ管理・運用・処分などの権限を託します。財産運用で発生した収益は受益者のものとなりますが、委託者本人が受益者になるだけでなく、他の受益者を設定するなど、様々な運用が可能となっています。
一方、成年後見制度は後見人と被後見人から成り立ち、後見人は認知症となった被後見人の身上監護を行います。身上監護とは、被後見人に代わって行う治療や療養、介護などに関する法律行為であり、財産については基本的に「保全」が目的となります。したがって、成年後見制度では積極的な財産運用や処分(売却)ができず、所有者(被後見人)の財産を減らす行為になるため、生前贈与も不可能になります。
家族信託が認知症対策になる理由7つ
成年後見制度も有効な認知症対策ですが、財産管理や運用面からみると家族信託が有効だといえるでしょう。自由度の高い設計や柔軟な運用が可能であり、利用者数も年々増加していますが、具体的には次のようなメリットがあります。
1. 認知症になっても財産管理や運用ができる
銀行手続きや不動産などの管理は所有者(名義人)にしか認められておらず、家族であっても引き出しや運用・処分はできません。しかし本人が認知症になると各種手続きや契約行為はできなくなるため、財産は事実上の凍結状態になってしまいます。一方、家族信託では受託者に管理権限を移転させるため、本人が認知症になっても預金引き出しや解約ができ、建物の修繕や賃貸借契約も受託者が行なうことが可能です。
また、介護施設の入所費用を準備するため自宅を売るケースもありますが、成年後見制度では裁判所の許可が必要なところ、家族信託は受託者の判断で売却できます。受託者権限の範囲も細かく設定できるので、判断力が低下した後でも有効な財産活用ができるでしょう。
2. 遺言機能がある
家族信託には遺言書と同等の機能があり、財産の承継者を決めておくことができます。仮に遺言書を作成せずに死亡したとしても、財産所有者の意思はそのまま家族信託に盛り込まれているので、遺産分割で相続人が揉めることもないでしょう。
遺言書を作成したものの家族に発見されず、遺言が実行されなかったという事態も防止できます。
3. 次世代相続(数次相続)にも対応できる
遺言書の効力は一代限りなので、配偶者から子供、子供から孫など、次回の相続までは指定できません。しかし家族信託では、委託者や受益者を数世代にわたって指定できるため、長期にわたるプランニングも可能です。
特に地主の場合、先祖代々の土地は一族で承継したいと考える方が多いようですが、家族構成によっては土地や建物が他家に相続されてしまう可能性もあります。また、前妻と後妻両方に子供がいるなど、相続事情が複雑な場合にも有効であり、一族の財産流出や相続争いの防止効果も期待できるでしょう。
4. 共有不動産のトラブルを防止できる
不動産の所有権を共有している場合、運用や処分には共有者全員の同意が必要です。共有者のうち誰か1人でも認知症を発症すると、賃貸アパートなどの賃貸借契約や修繕契約ができなくなり、土地売却も不可能になります。
しかし家族信託ではもっとも年齢の若い人、または誰かの子供に共有持ち分を信託できるため、認知症になった人がいても賃貸経営には影響ありません。不動産の凍結リスクを回避できるので、共有者が高齢な場合には家族信託を検討してはいかがでしょうか。
5. 受託者が自己破産しても財産に影響なし
家族信託では信託財産が受託者名義になるため、委託者が倒産しても財産は守られます。これは倒産隔離機能という家族信託の特徴ですが、信託財産は信託契約中、委託者・受託者から独立した「誰のものでもない財産」となります。このため、たとえ受託者が破産した場合でも、受託者個人の財産とは切り離して扱われるため、債権者による差し押さえも回避できます。
6. 成年後見制度よりも低コスト
認知症対策に各種制度を使う場合、導入コストや運用コストが気になるところでしょう。
まず成年後見制度ですが、後見人を申立てる際には15万~20万円程度の費用がかかります。後見人には毎月の3万~5万円程度の報酬(資産額によって異なります)も発生し、後見内容が複雑な場合は50%加算も適用されます。
次に家族信託ですが、信託内容の設計は弁護士や司法書士に依頼するケースが多く、20万~80万円程度の導入コストが必要になるでしょう。ただし、信託スタート後は家族間の運用になるため、基本的に報酬が発生しません。もちろん受託者に報酬を払う例もありますが、金額はプランニングの段階で決めておけるので、成年後見制度よりも低コストになる場合がほとんどです。
7. 相続手続きの負担を軽くできる
遺言書がない相続の場合、遺産分割協議によって財産の分け方を決めていきます。
遺産分割協議は相続人全員の参加が必要ですが、それぞれ離れて住んでいる、スケジュールが合わないなど、スタートさせるだけでもかなり大変です。また、預貯金口座は基本的に凍結されるため、遺産分割協議の決着までは引出も解約もできません。
一方、家族信託では財産の承継先がすでに決まっているため、遺産分割協議そのものが不要です。ほとんどの相続手続きは期限付きですが、遺産分割協議をスタートできない、または揉めてしまったために決着せず、期限を経過するケースも少なくはありません。
家族信託によって遺産分割協議が不要になれば、家族の心理的負担も軽くなるでしょう。
家族信託の注意点
認知症対策をはじめ、財産承継にも有効な家族信託ですが、決してメリットばかりではありません。家族信託を導入するかどうか、次の注意点も参考にしながら検討してください。
家族信託に詳しい専門家が少ない
家族信託は民事信託をベースとしており、2007年9月からスタートした信託スキーム(仕組み)です。したがって歴史が浅く、家族信託に詳しい専門家も少ないため、有益な仕組みとわかっていながら導入できない家庭もあります。
また、信託財産は「信託口口座」による管理が理想的ですが、対応している金融機関が少ないといった現状もあります。
信託の設計には時間がかかる
信託設計は遺言書以上に手間と時間がかかります。家族構成や財産内容、家族それぞれの考え方をまとめ、さらに中長期的な将来予測も立てるため、何パターンものプランを練る必要があり、最終決定までに数カ月かかることもあり得ます。
弁護士や司法書士は受託者になれない
成年後見制度では専門家を後見人にできますが、家族信託の受託者は基本的に家族です。弁護士や司法書士などの士業は受託者になれないので、信託内容が複雑な場合は対応できる家族がいないという事態もあり得ます。
家族信託に不安がある場合は、成年後見制度や商事信託、遺言代行信託などを検討してもよいでしょう。
損益通算が使えない
複数の事業を経営している場合、A事業は黒字だがB事業が赤字という場合もあるでしょう。このようなケースでは「損益通算」が使えるため、黒字から赤字を差し引いて所得を計算します。
しかし、B事業を家族に信託した場合、B事業の赤字分はA事業の黒字と損益通算できなくなり、結果として所得税が高くなってしまう可能性があります。また、B事業の信託によって新たな所得税申告が発生するため、申告・納税の手間も増えるでしょう。
受託者を長期間拘束してしまう
家族信託は長期的な運用を前提としているため、受託者となった家族の拘束期間も長くなります。信託内容が様々な情勢に噛み合わなくなった場合でも、当初の契約に縛られてしまい、臨機応変な対応ができなくなるかもしれません。
家族信託のメリットが裏目に出てしまうケースもあるため、長期的な信託設計は慎重に行いましょう。
すでに認知症を発症している場合は利用できない
家族信託は委託者・受託者合意のもとに契約するため、委託者がすでに認知症になっていた場合は利用できません。ただし、認知症のレベルによっては「判断能力あり」に判定されるため、家族信託を利用できる可能性はあります。
では財産の所有者がすでに認知症を疑われる状態だった場合、どのように対処すべきかを次の項で説明していきましょう。
家族信託手続き時に認知症だった場合の対処法
家族の状態をみて認知症を疑うケースは珍しくありません。しかし判断能力の有無は判定しなければわからないため、まずは専門家の診断が必要になります。状態次第では家族信託も利用できるので、「認知症かな?」と思ったら次のように対処していきましょう。
認知症と判断される基準
認知症にも軽度~重度のレベルがあり、以下の軽度認知障害(MCI)がみられる場合は、契約行為に支障をきたすかもしれません。
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同じ話や質問を繰り返し何度もする
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直前の会話内容や銀行口座の暗証番号などを忘れる
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簡単な計算やスケジュール管理ができず、効率的な段取りができない
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以前より疲れやすくなる
ただし、医師から認知症の診断があったとしても、契約行為ができるかどうかは公証人の判断になります。
公証人にチェックしてもらう
認知障害のレベルによっては契約行為も可能であり、公証人が以下の項目から理解力や判断力をチェックします。
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自分の名前や生年月日、住所が言える
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署名できる(身体的に難しい場合は除く)
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大まかな契約内容や仕組み、メリットやデメリットを理解している
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どの財産を誰に託すのか理解している
公証人が「契約内容を理解している」と判断すれば、家族信託の利用も可能になるでしょう。
認知症発症後は法定後見制度しか利用できない
すでに判断能力が不十分な場合、法定後見制度のみが利用できる制度となります。家庭裁判所が成年後見人を選任しますが、業務範囲は被後見人の身上監護であり、財産保全を目的としています。したがって財産の運用・処分はできなくなり、毎月の報酬も発生するため、後見期間が長くなるほど出費もかさみます。
また、成年後見人はよほどの事情がなければ解任できないので、利用価値のある制度かどうか、慎重に検討する必要があるでしょう。
まとめ
相続対策と認知症対策はセットで考えるべきですが、元気なうちは緊急性を感じにくいでしょう。しかし、認知症になると本人を支える家族は体力的にも精神的にも消耗し、本人の財産も凍結されるため、その生活全般を自費でまかなう羽目になってしまいます。
成年後見制度も認知症対策として有効ですが、運用そのものに手間がかかり、家族の負担になってしまう可能性もあります。
家族信託は万能な仕組みではありませんが、認知症対策としては優れているといえます。ただし、本人が元気で明確な判断ができる間しか契約できないため、将来の認知症リスクが心配な方はぜひ専門家へ相談してください。



