パネル討論
くらしチェンジで未来を守ろう
島村 琢哉
AGC取締役兼会長
旭硝子財団理事長
井上 咲楽
タレント
戸田 政考
朝日新聞政治部記者
無理せず、我慢せず、楽しみながらサステナブルな世の中に

モノやお金だけではない「真の豊かさ」を実現するため、地球環境の保全と改善につながる活動を続ける旭硝子財団の島村琢哉理事長。栃木県の自然豊かな中で育ち、サステナブルな生活習慣が身についているというタレントの井上咲楽さん。
「朝日地球会議2022」で行われたパネル討論を中心に、環境のために今日からできる「くらしチェンジ」について考えます。
貢献の「見える化」で環境に良い行動を促す
戸田近ごろはスプーンやフォークなどの身近なプラスチック製品が木製に変わったり、東京都が新築住宅の太陽光パネル設置を義務化したり、世の中の変化を実感することが増えてきました。
島村こういう制度づくりはもっと早くやっておくべきだった、というのが正直な思いです。私はAGCという会社の代表でもあるのでお話しすると、窓などの開口部のガラスを二重にするだけで、建物のエネルギー消費を大きく減らせることがわかっています。もちろんこういう建物をつくるには初期投資が必要ですが、それを後押しする補助金などの制度があれば、より環境に良いほうを選択したいという人は少なくないはずです。
戸田最近注目されている取り組みのひとつに「デカボスコア」があります。ある製品が、既存の同種の製品と比べて二酸化炭素の排出を何%抑制しているかを数値(スコア)で示すものです。
井上製品ひとつでは数%の違いでも、それが毎日使うものだったら「ちりも積もれば」で大きな差になりますよね。頑張って、我慢してやることというのは、それ自体が「持続可能」じゃないと思うので、普通にできる取り組みで環境に貢献できるというのはうれしいです。数値で見せてくれることで、自分のやっていることには意味があるんだと感じることもできますし。
島村おっしゃる通りですね。その実感があればこそ人は行動を続けていけるので、見せ方・伝え方というのは非常に重要です。

一人ひとりの「幸福」を持続可能にする社会へ
戸田見せ方ということで言えば、今年も9月に公表された旭硝子財団の「環境危機時計」が話題を集めました。
島村そうですね。この取り組みは、地球環境がもう後戻りできない状態を12時としたら、今は何時何分だと思うかという意識調査の結果を「時刻」として表したものです。今年はそれが9時35分となり、昨年に比べれば多少改善しましたが、依然としてかなり強い危機感があることがわかります。
井上これも先ほどのお話と同じ「可視化」ですよね。こういうかたちで示してもらえると自分ごととして考えやすくなります。
戸田一方で、そうした環境危機の解決に向けた研究や活動で顕著な功績のあった人と団体を顕彰する「ブループラネット賞」も、旭硝子財団が30年にわたって続けておられる取り組みですね。
島村毎回2組を選定して賞をお贈りしていますが、第1回受賞者のおひとりは、昨年のノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎博士でした。今年のブループラネット賞受賞者であるワンチュク前ブータン国王は、人々の「幸福」を中心に置いて開発を考えるべきだという「国民総幸福量」の哲学を提起した方で、私たちが教えられることは非常に多いと感じています。
井上みんなが幸福を感じられて、環境にもやさしい世の中になればうれしいですよね。
戸田そのためにできることから始め、今すぐにはできないことにも楽しみながら挑戦していく。そのように私たちのくらしをチェンジしていけたらと思います。
島村小さなことでいいので、一人ひとりができることを考え、実行することが大切です。当財団ではこれからも様々な知識や情報をお伝えすることで、みなさんが考え・行動するヒントを提供したいと考えています。
井上すごく頑張る、我慢する、というのではなくて、みんながハッピーになれるエコが広がっていけば、本当に持続可能な世の中になるんじゃないかと思います。
人類が真の豊かさを享受できる社会のために
―旭硝子財団のあゆみ―
1933年、旭硝子(現AGC)が創立25周年を迎えたことを記念して設立された旭硝子財団。その目的は、「人類が真の豊かさを享受できる社会や文明の創造に寄与する」こと。以来90年を経た現在、同財団では主に三つの事業に取り組んでいる。次の時代を担う優れた人材への奨学助成、次代を拓く科学技術への研究助成、そして地球環境問題の解決に向けて貢献した個人や団体の顕彰だ。
1992年、ブラジルのリオで開催された地球サミット(国連環境開発会議)は、史上初めて人類が共同で地球環境問題に対処していく必要があることを確認した重要な契機。旭硝子財団のブループラネット賞は、この場で世界に向けて創設が発表された。
1992年当時は現在ほど気候変動の深刻さが知られておらず、一般の関心もまだまだ低かった。第一回受賞者のひとり真鍋淑郎博士の受賞理由は、奇しくもその30年後のノーベル賞の受賞理由と同じだった。同財団が早くからこの問題への対処の重要性に着目し、解決に向けた研究や活動を支援し続けてきたことがうかがえる。
またもうひとつ、全世代に向けた関心の喚起として、同じく30年前から続けられているのが環境危機時計だ。第1回の調査で時計の針が示していたのは7時49分、「かなり不安」の領域だったが、21世紀に入ってからは常に9時を越えており、「極めて不安」の領域に入り込んでいる。
また、アンケート調査の回答者は、長く研究者や政策決定に携わる人などに限られていたが、2020年からは一般にも対象を広げている。その結果見えてきたのは、有識者に比べて一般の人はまだそこまで強い危機感を持っていないということだ。2022年の調査では、世界25カ国の一般生活者平均は7時25分であり、有識者とは大きな隔たりがある。
地球会議のセッションの中で島村理事長は、「最近少し自然災害が多い、規模が大きくなっているようだということは感じていても、あくまでひとつの台風、一時的な大雨と考えている人が多いのではないか。身のまわりの変化に気付き、そこから地球環境全体へと関心を広げていくことが大切だ」と語った。

■ 2022年(第31回)ブループラネット賞受賞者
環境危機時計
2022年の「9時35分」という時刻は前年より7分早く、2年連続で時計の針が戻るのは12年ぶり。旭硝子財団では、中国が環境政策に積極的に取り組むようになったことで、中国内に居住する人の危機感が大きく改善されたと分析している。一方で北米やアフリカ、中東などでは10分以上も針が進み、二極化が顕著になった。

生活者が考える
「世界一の環境先進国」は?
- 1位
- 日本
- 2位
- アメリカ
- 3位
- オーストラリア
- 4位
- ドイツ
- 5位
- カナダ
- 6位
- スウェーデン
- 7位
- イギリス
- 8位
- ニュージーランド
- 9位
- 韓国
- 10位
- ノルウェー
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旭硝子財団では、日本を含む25カ国の一般生活者を対象に、環境についての様々な意識・知識を問う調査も行っている。2022年は、「環境への取り組みが進んでいるイメージのある国」をたずねたところ、日本が1位という結果になった。
その理由は、「リサイクルや廃棄物処理などの先進的技術を持っている」「人々が謙虚にルールを守っている」「街が清潔でゴミ分別のマナーが良い」など。そうした良いイメージを維持するには、国としてそれに見合う行動をとることが求められているとも言えるだろう。
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