挑戦の場は海外 女性研究者の選択
1897年の創立以来、「自由の学風」が息づく京都大学。その原点は、創設に深く関わった当時の文部大臣・西園寺公望の自由思想にあるという。西園寺は20代の時、自身の強い希望で、自由の機運に満ちたフランスへ留学していた。
一世紀を経て、西園寺と同じく、若くして挑戦の場を海外に求めた女性がいる。大学院法学研究科の西谷祐子教授だ。
専門は、国境を越えた個人間の問題を解決する国際私法。1994年、同大大学院の修士課程を修了後に休学し、ドイツ最古の大学、ハイデルベルク大学での博士号取得を目指した。24歳だった。西谷教授は言う。
「若いうちから留学したほうが語学も早く身につき、将来にわたって外国人研究者とも対等に議論できるようになるのではないかと考えたのです」
19世紀の法学者マンチーニの理論を論じた博士論文は、ハイデルベルク大学の権威ある「ゼーリック賞」を受けた。その後、27歳で東北大学助教授に就き、教職の傍ら、イタリア、アメリカ、オランダへ留学。2007年からは、パリ第二大学、ドイツ・マックスプランク研究所で研究に没頭した。在外研究は5カ国、足かけ9年に及ぶ。その原動力は、「各国の法制度や、歴史的な背景をもっと知りたいという純粋な好奇心」だったという。
もともと弁護士を目指していた西谷教授。「おおらかな雰囲気が漂うキャンパスに憧れて」京都大学法学部に進学した。法曹ではなく、研究者の道を選んだのは、2年生の時だ。
人生を決めた国際私法との出会い
緑がまぶしい吉田キャンパスの中庭
「幼い頃に父親の仕事でドイツに住んだ経験から、国際的な仕事に興味があり、大学で国際私法の授業を受けた時に『これだ』と思いました。既にある法律を動かす仕事に就くよりも、世界と比較しながら日本の法律を客観的に見つめ、改善点を提言したりする研究者になるほうが面白いのではと思ったのです」
グローバル化が進む今、国境を越えた人の動きは飛躍的に増えた。それに伴う法律問題を扱うのが、国際私法だ。
例えば国際結婚。イタリア人と日本人が結婚する場合、どちらの国の法律が適用されるかは、国際私法によって決められる。
「婚姻届けを役所に出す日本と異なり、教会の影響力が強いイタリアでは、挙式をすると夫婦と認められます。国際私法では、このように法と法がぶつかり合うときに、どの国のルールを適用するかを見ていきます。国境を越えた離婚に伴う子の親権争いや、相続のトラブルが起きたとき、国際私法が解決に役立ちます」
西谷教授の研究室には、英語、ドイツ語、フランス語のカラフルな外国語文献がずらりと並ぶ。世界の法制度の変化は早く、知識のアップデートが日々欠かせない。
「世界では今、同性婚の増加に加えて、代理出産(代理母)を認める動きが広がっています。生まれた子と、依頼者である親との親子関係が認められず、子どもの法的な立場が保護されない深刻な状況が生まれているためです」
独創的な学生を育む伝統の自由の学風
大学の授業風景。国連職員を志す学生もいる
ゼミでは、病気で子宮を失ったタレントの向井亜紀さんが、アメリカで代理出産を依頼した事例を取り上げた。学生たちは、親子関係の成立を認めなかった2007年の最高裁決定をめぐり、白熱した議論を重ね、それぞれの見解を発表した。
「私も読んだことのない向井さんの事例についての論文や、タイやインドの代理出産の例まで調べてくる学生もいて、とても驚かされました。京大は型に縛られずに、主体的に考え、学び、行動する学生が多いと感じています」
西谷教授は、代理母や子の権利を守る国際機関「ハーグ国際私法会議」のプロジェクトメンバーでもある。国際的な研究者になる夢を叶えられたのは、「京大がやりたいことを後押ししてくれる環境だったから」と、これまでの道のりを振り返る。自由の学風が伝統のキャンパスで、世界に貢献する独創的な力は育っていく。
「のびのびした京大に来て、アンテナを張って、ぜひやりたいことを見つけてください」

