相続トラブルは年々増加傾向にある
相続トラブルは家庭裁判所を介して解決する例も珍しくありません。調停や審判の件数は最高裁判所が司法統計として刊行しており、それによると令和3年度分は1万3,447件となっています。10年前(1万793件)の約1.2倍、20年前(9,004件)に比べると約1.5倍に増加しており、一時的に減少した年はあるものの、全体的には増加傾向です。
かつては資産家の問題というイメージの強かった相続トラブルですが、遺産の価額をみると5,000万円以下が全体の76.7%を占めています。相続トラブルは決して他人事ではなく、身近な問題として捉えるべきでしょう。
では、どのような状況で相続トラブルが発生するのか、対処法とともに解説します。
相続でよくあるトラブル9つと対処法
相続では以下のトラブルが発生しやすいため、原因と対処法を理解しておくとよいでしょう。ただし、それぞれの問題が複合的に発生するケースも多いので、当事者同士の解決が難しいときは、専門家への相談も視野に入れておいてください。
1. 相続人同士の関係が悪化している
仲の悪い相続人がいると遺産分割協議でもめてしまう可能性が高く、相続が決着しないまま5年や10年が経過しているケースも少なくありません。遺産分割協議がまとまらなければ財産の行き先(帰属先)も決まらないため、ある程度の妥協や譲歩も必要です。
また、代襲相続によって孫が相続人になるケースや、前妻・前夫との間に生まれた子供が相続人になると、他の相続人から冷遇されてしまうケースもあります。
被相続人(亡くなった方)との関係は希薄かもしれませんが、権利については法律で保障されているため、同じ立場の相続人として迎え入れるべきでしょう。
2. 財産を独占している相続人がいる
旧民法には家督相続の考え方があり、かつては長男(長子)が財産すべてを相続することとなっていました。現在は長男が特別扱いされることはなく、相続人同士の話し合いで自由に遺産分割の内容を決定できます。しかし、今でも長男が全財産を継ぐものと信じ込み、他の相続人の権利を認めようとしないケースは少なくありません。
兄弟姉妹以外の法定相続人には遺留分が認められているので、特定の相続人が財産を独占しているときは侵害額の返還を請求しましょう。最低限取得できる遺産の割合を遺留分といい、基本的に法定相続分の1/2が民法で保障されています。
3. 相続財産の内容や評価額がわからない
遺産分割協議の際には相続財産の全容を明らかにしますが、被相続人の職業や生活実態から、「もっと財産があるのでは?」と各相続人が推測してしまう例があります。このようなケースでは一部の相続人の財産隠しが疑われることになり、遺産分割協議が難航する可能性が高くなります。
また、不動産や非上場株式は評価方法が複雑なため、相続してよいかどうか判断がつかず、遺産分割が停滞してしまう例もあります。相続が決着しなければ相続財産も有効活用されないため、生前の財産目録作成が重要になるでしょう。
4. 想定外の相続人が判明した
遺産分割するときは相続人の確定も必要ですが、戸籍調査によって養子の存在が判明するケースや、第三者や前妻・前夫との間に生まれた子供が判明するケースもあります。相続人が増えると遺産の取り分が減ってしまうため、被相続人の死亡を知らせない、または遺産分割協議に参加させない例も少なからずあるようです。
感情論からすると好意的な受け入れは難しいかもしれませんが、法定相続人全員の同意がなければ遺産分割協議は成立しないので、大人の判断が必要になるでしょう。
5. 二次相続の発生
夫婦(両親)のどちらか一方が亡くなる相続を一次相続といい、残された配偶者も亡くなることを二次相続といいます。一次相続では片方の親が生きているため、子供同士の仲が悪くても、遺産分割に不満があっても、親が仲裁することでトラブルを回避できます。
しかし、二次相続では仲裁役の親がいないため、不満が一気に噴き出す可能性があります。子供だけで遺産分割する場合、それぞれが親への貢献度などを主張して譲らず、今まで仲のよかった兄弟姉妹でも絶縁状態になるケースが珍しくありません。
二次相続の場合は事後対策が難しいため、公平な配分で生前贈与する、または遺言書を遺しておく必要があるでしょう。
6. 主な相続財産が不動産のみ
土地や建物は分割が難しいため、主な相続財産が不動産のみであれば、相続トラブルの確率が高くなります。たとえば、自宅だけが主な相続財産の場合、自宅の相続人とその他の相続人の取得額に大きな差が出るため、相続人同士の関係が険悪になることもあります。
不動産相続のトラブル解消には以下の方法もありますが、メリットばかりではないため十分な検討が必要です。
-
共有分割:持分に応じて所有権を分割する方法(世代交代によって権利関係が複雑になる)
-
代償分割:不動産の相続人がその他の相続人に現金を支払い、不公平を解消する方法(代償金を支払う人の資力が必要)
-
換価分割:不動産の売却代金(現金)を分割する方法(不動産を失う)
7. 寄与分の主張をめぐるトラブル
被相続人を献身的に介護していた、または財産の維持・増加に貢献していた相続人は寄与分(特別寄与分)を主張できます。しかし、寄与分を認めると他の相続人の取り分は減ってしまうため、スムーズに寄与分の主張が認められるケースは滅多にありません。
また、特別な寄与があったことの証明や、寄与料の提示も必要になりますが、すべて自分で対応しなければならないため、かなりハードルの高い作業になるでしょう。当事者同士の協議がまとまらなければ家庭裁判所に調停を申し立てられますが、寄与分を立証できなければ裁判所を介する意味がありません。
寄与分の主張を認めてもらいたいときは、相続の専門家にも相談しておきましょう。
8. 親が認知症になっている
認知症のレベルにもよりますが、重度の場合は法律行為が制限されてしまい、生前贈与や遺言書作成などの相続対策ができなくなってしまいます。賃貸アパートなどの所有者が認知症になった場合、賃貸借契約を結べなくなるため、収益が悪化した状態の物件を相続する可能性もあるでしょう。本来は相続するメリットの大きい財産ですが、収益悪化によって負の財産になると、相続人同士で押し付け合いになってしまうこともあります。
また、相続人が認知症になっていると遺産分割がスムーズに進まないため、相続の早期決着が難しくなります。財産の移転は本人が元気なうちにスタートし、もしもに備えて成年後見制度や家族信託も検討した方がよいでしょう。
9. 遺言書の内容が偏っている
遺言書が遺されていれば、原則として遺言書どおりに遺産分割しなくてはならないため、多少の不満があったとしてもひとまず相続は決着します。
ただし、遺産の配分が偏ると遺留分を侵害してしまい、相続人同士のトラブルになる可能性があるので要注意です。遺留分は民法で保障された最低限の取得割合なので、「長男に全財産を相続させる」といった遺言書であれば、長男は他の相続人から遺留分の返還を請求されます。
遺留分は現金返還の原則があるため、不動産相続によって遺留分を侵害した場合、土地や建物を売却して返還に応じなければならない場合もあるでしょう。
遺言書をどう書いてよいかわからないときは、専門家の意見も参考にしましょう。
相続トラブルを予防する方法
相続トラブルには金銭や感情論が絡んでいるため、和解するつもりで話し合いを始めても、終わってみれば喧嘩別れだったというケースがよくあります。
当事者同士の解決はかなり難しいので、トラブルの予防策として以下の方法を検討してください。
誰が法定相続人になるか確認しておく
お盆や正月など、家族が集まる機会があれば、一度は法定相続人について話し合ってみましょう。家族全員が共通認識を持っておけば、相続発生後のトラブルも最小限にとどめることができます。
また、認知した非嫡出子(第三者との間に生まれた子供)がいれば、生前に家族へ伝えるべきでしょう。放っておいてもいずれ家族が知ることになるので、同じ相続人として受け入れるよう、生前に言い含めておく必要もあります。
親が相続の話題にまったく触れようとしないときは、子供から切り出してみるのも一つの手段です。
財産目録を作成する
相続財産が不明瞭な場合は家族同士が疑心暗鬼になりやすく、財産調査にかかる負担も大きくなってしまうため、相続対策をする場合、財産目録は必ず作成してください。パソコンで作成すれば更新が楽なので、文書作成ソフトや表計算ソフトなどを使うとよいでしょう。
預貯金は金融機関名や支店名、預金種別や口座番号を記載(入力)しますが、変動する残高は必要ありません。また、不動産は地番や地積、家屋番号などを記載し、登記事項証明書や公図などを補足資料として添付しておくとわかりやすくなります。ただし、家族が知らなければ意味がないため、プリントアウトした財産目録の保管場所も伝えるようにしましょう。
法定相続分を理解しておく
法定相続分は民法で定められた遺産の取得割合です。あくまでも遺産分割の目安ですが、法定相続分を基準にすると相続トラブルの発生確率は下がるので、家族全員が共通認識を持つようにしてください。
-
配偶者と子供が相続する場合:配偶者1/2、子供1/2(複数いれば人数で割る)
-
配偶者と被相続人の親が相続する場合:配偶者2/3、親1/3
-
配偶者と被相続人の兄弟姉妹が相続する場合:配偶者3/4、兄弟姉妹1/4
不動産の相続方法を決めておく
主な相続財産が不動産しかないときは、誰にどのような形で相続させるか生前に決めておくとよいでしょう。たとえば、同居して面倒をみてくれた長男夫婦に自宅を遺す場合、介護への貢献や相続税の負担、今後の固定資産税や修繕費などを他の兄弟に伝えてください。長期的な維持コストをみると、現金や預貯金を相続した方が得策だと考えてくれるケースもあります。
なお、地方の土地は誰も欲しがらないことが多いため、遺言書で相続人を指定するときは、預貯金などを少し多めに渡すなど、ある程度の調整も必要になります。
相続税がかかるかどうか確認しておく
相続税の負担は家族にとって大きな問題になるため、財産全体にかかる税金がいくらになるか、ある程度の理解は必要です。相続税は基礎控除を超える部分に課税されるので、以下の計算で控除額や課税額を把握しておきましょう。
-
計算式
-
相続税の基礎控除:3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
法定相続人が3人いると基礎控除は4,800万円(3,000万円+600万円×3人)になるため、財産が4,800万円以下であれば相続税はかかりません。基礎控除を超えた部分が課税額となりますが、被相続人の借金や葬儀費用は差し引いて構わないことになっています。
なお、不動産や非上場株式は評価が難しいため、専門家に計算してもらうことをおすすめします。
成年後見制度や家族信託を活用する
認知症になると生前の相続対策は困難になるため、成年後見制度や家族信託も検討しましょう。
成年後見制度は被後見人を成年後見人がサポートする制度ですが、主な職務は身上監護となっており、法律行為も代行してもらえます。ただし、被後見人の財産は成年後見人によって保全されるため、生前贈与などの相続税対策はできなくなります。
家族信託では財産の管理権限を家族に託せるため、本人が認知症になっても柔軟に財産を管理・運用できます。賃貸アパートなどのオーナーに向いている制度ですが、信託契約の設計が難しいため、専門家に依頼するケースが一般的です。
どちらも認知症対策には有効なので、元気なうちに検討するとよいでしょう。
専門家に遺言書を作成してもらう
遺言書の書き方は書籍でも紹介されていますが、財産の内容や家族構成は各家庭によって異なるため、本を読めば誰でも書けるようになるというわけではありません。遺言内容が家族の人生を左右する可能性も十分にあるので、何度書き直しても納得できないという方もおられるでしょう。
相続トラブルを回避しつつ、法的にも有効な遺言書を作成したいときは、公証役場で公正証書遺言を作成してもらう方法が確実です。ただし、遺言書の原案は自分で作成する必要があるため、どう書けばよいかわからないときは専門家に相談してみましょう。相続の専門家は遺留分や相続税の負担なども考慮してくれるので、トラブルに発展しない遺言書を作成できます。
遺言執行者を決めておく
遺言書があれば、原則として遺言書どおりに相続しなければなりませんが、相続人全員の同意があれば遺言書を無効とし、遺産分割協議に切り替えることができます。しかし、遺産分割協議に移行したことでトラブルが発生したケースもあるので、相続人同士の争いが想定される場合は、遺言執行者を指定した方がよいでしょう。
遺言執行者は遺言内容に従った相続を実現してくれるので、相続人は不満があっても従わなければなりません。なお、遺言執行者は以下の方法で指定できます。
-
遺言書で指定する
-
第三者に遺言執行者を指定してもらう旨の遺言書を作成する
-
遺言者が亡くなった後、家庭裁判所で遺言執行者を選任してもらう
まとめ
相続トラブルの増加は司法統計からもわかりますが、あくまでも調停・審判に発展した件数なので、裁判所を介していないトラブルは膨大な件数になるでしょう。「そんなにトラブルがあるのか?」と思われるかもしれませんが、親族間のもめ事はオープンにしない方が多いため、水面下では「争続」になっているケースもあります。
回避策や予防方法は何パターンもありますが、最善策は家庭ごとに異なるため、財産の内容や家族構成に合わせてアレンジしなければなりません。相続トラブルを回避したいが何をしたらよいかわからない方や、いつ頃から始めてよいか迷っている方は、まず相続の専門家に相談してみましょう。



