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相続税

最終更新日:2023.07.31

10年以上前の生前贈与が
相続に与える影響とは?
特別受益の持ち戻し・遺留分を解説

10年以上前の生前贈与が相続に与える影響とは?特別受益の持ち戻し・遺留分を解説

このコンテンツでわかること

  • ■ 生前贈与と相続の関係性
  • ■ 10年以上前の生前贈与や遺留分の取り扱い
  • ■ 生前贈与があった時の特別受益の持ち戻し計算方法
  • ■ 特別受益の持ち戻しの範囲
  • ■ 生前贈与を特別受益の持ち戻し対象にしないケース

生前贈与は遺産の前渡しともいえるため、有効活用すると相続税の節税につながります。ただし、特定の親族だけに高額な贈与をすると、相続発生時に他の親族から「贈与があったのだから遺産の分配は少なめにする」と主張されるかもしれません。

特別な利益となる生前贈与を「特別受益」といい、相続の際には特別受益者とそれ以外の相続人がもめてしまうケースがあります。また、法定相続人には遺産分割の最低保障となる「遺留分」があり、遺言書によって侵害されたときは返還請求が認められています。

どちらも相続争いの原因になってしまうので、今回は生前贈与と相続の関係性や、特別受益や遺留分があったときの遺産分割方法をわかりやすく解説します。

生前贈与と相続の関係性

生前贈与した財産は受贈者のものとなりますが、贈与者の死亡前3年以内に行われた生前贈与については、贈与者の相続財産へ加算することになっています。このルールを「相続財産への持ち戻し」または「生前贈与加算」といい、持ち戻しによって相続財産が一定額を超えたときは相続税も発生します。

また、遺産の前渡しとみなされる生前贈与は特別受益に該当するケースがあり、他の相続人の最低保障となる遺留分を侵害する可能性もあります。

特別受益や遺留分の侵害があった場合、生前贈与を受けた人・受けなかった人との間に不公平や権利侵害が生じるため、相続財産の分割方法を調整しなければなりません。

贈与税と相続税の関係性

生前贈与と相続は税金にも関係性があり、贈与税は相続税を補完する税金となっています。一定額以上の相続財産には相続税がかかるので、税金を避けるために子供や孫へ財産を移転させると、国は課税する機会を失ってしまうことになります。

このような事情から、生前贈与も一定額を超えると課税対象になり、以下の課税方式によって贈与税がかかる仕組みになっています。

  • 暦年課税:1年間の贈与額が110万円を超えると、超過部分に贈与税が課税される

  • 相続時精算課税:贈与の総額が2,500万円を超えると、超過部分に20%の税率で課税される

贈与税が発生すると受贈者が申告・納税義務者となるので、税負担を考慮した生前贈与を行うべきでしょう。

生前贈与するときの注意点

特別受益に該当しない生前贈与でも、贈与として認められなかった場合は贈与者の相続財産にカウントされます。代表的な例に名義預金があり、預金口座が受贈者の名義であっても、預金通帳や印鑑などの管理を贈与者が行っていた場合、贈与者の相続財産とみなされます。

すでに名義預金となっている口座があれば、贈与契約書を作成して早めに本人へ渡しておいた方がよいでしょう。

また、贈与契約書を作成して生前贈与している場合でも、贈与者の判断力が低下していたときは贈与契約が無効になる可能性があります。判断力が低下している人の法律行為は制限されるので、贈与者の健康状態も考慮しておかなければなりません。

遺留分の侵害額は現金返還が原則

遺言書によって遺留分の侵害があった場合、侵害している相手に対して侵害額の返還を請求できます。 民法改正前の「遺留分減殺請求」では返還される財産を選べませんでしたが、2019年の法改正により、遺留分の侵害は金銭請求・金銭返還が原則となっています。

仮に土地の生前贈与で遺留分の侵害が発生した場合、侵害額によっては返還請求に応じることができず、土地を売却しなければならないケースも生じるでしょう。

結果的に生前贈与した土地が第三者の手に渡ってしまう可能性もあるので、相続の発生まで見据えた贈与を考えておかなければなりません。なお、亡くなった方の兄弟姉妹には遺留分がないので注意してください。

10年以上前の生前贈与・遺留分の取り扱い

特別受益や遺留分を侵害する生前贈与があった場合、相続財産へ持ち戻す対象期間を理解しておく必要があります。遺産分割するときの争点になりやすいので、以下の考え方を参考にしてください。

特別受益の持ち戻しは期間の制限なし

特別受益は持ち戻しの期間に制限がないため、すべて相続財産に加算することになります。ただし、時期の古い生前贈与は証明が難しく、不動産や非上場株式の贈与だった場合は相続発生時の評価額を自分で計算しなければなりません。

不動産や非上場株式は評価額の計算が複雑になっているので、計算方法がわからないときは財産評価に詳しい税理士へ相談してみましょう。

遺留分の侵害は相続開始前10年以内が持ち戻しの対象

生前贈与によって遺留分の侵害が発生した場合、相続開始前10年以内の贈与分が持ち戻しの対象になります。期間は限定されていますが、時期の古い生前贈与は立証が難しいでしょう。

また、遺留分の侵害額も相続発生時の時価で計算するため、不動産や株式の生前贈与だったときは正確な評価額を算出できない可能性もあります。贈与時には遺留分を侵害していなくても、地価や株価の上昇で相続時に侵害してしまうケースも考えられます。

生前贈与があった時の特別受益の持ち戻し計算方法

特別受益に該当する生前贈与があった場合、すべて相続財産に持ち戻して遺産分割します。遺産分割は法定相続分がベースとなり、特別受益者とそれ以外の相続人の配分を調整するので、以下のような計算方法になります。

特別受益の持ち戻しをしなかったときの計算例

特別受益の持ち戻しをしなかったときの計算例として、夫が子供2人に生前贈与していたケースをみていきましょう。

  • 家族構成:夫婦とその子供2人(長男と長女)

  • 夫名義の財産:6,000万円

  • 特別受益となる生前贈与:夫が長男に1,200万円、長女に800万円を生前贈与

夫が亡くなった場合、夫名義の財産は4,000万円(6,000万円-1,200万円-800万円)に減少しています。特別受益の持ち戻しを行わず、4,000万円を法定相続分どおりに遺産分割すると、各自の取得分は以下のようになります。

  • 計算式

  • 妻:4,000万円×法定相続分1/2=2,000万円

  • 計算式

  • 長男:4,000万円×法定相続分1/4=1,000万円

  • 計算式

  • 長女:4,000万円×法定相続分1/4=1,000万円

では次に、特別受益を考慮した各自の取得分を計算してみましょう。

特別受益の持ち戻しと遺産分割の方法

先ほどの計算例には長男と長女の特別受益を考慮していないため、公平な遺産分割になっていません。特別受益を持ち戻すと夫の相続財産は6,000万円になるので、公平な遺産分割にするときは以下のように取得分を計算します。

  • 計算式

  • 妻:6,000万円×法定相続分1/2×特別受益0円=3,000万円

  • 計算式

  • 長男:6,000万円×法定相続分1/4-特別受益1,200万円=300万円

  • 計算式

  • 長女:6,000万円×法定相続分1/4-特別受益800万円=700万円

特別受益を考慮して遺産分割する場合、生前贈与がなかったものとして各自の取得分を計算してください。

特別受益の持ち戻しの範囲

特別受益は生前贈与の目的や金額、受贈者の範囲によって持ち戻しするかどうかを判断します。扶養義務の範囲内で学費などを渡す場合、基本的に特別受益や贈与税の課税対象にはなりませんが、以下のようなケースは特別受益になりやすいでしょう。

特別受益の持ち戻しになりやすい生前贈与

特別受益に該当する生前贈与は以下の3種類です。

  • 生計の資本となる贈与

  • 婚姻費用のための贈与

  • 養子縁組のための贈与

  • 高額な死亡保険金や死亡退職金

生計の資本となる贈与にはマイホーム資金や開業資金の支援などがあり、結婚費用には支度金や持参金も含まれます。養子縁組の際にも、養子となる子供に実親が支度金などを持たせた場合、特別受益とみなされる可能性があります。

なお、死亡保険金や死亡退職金は受取人固有の財産になるため、遺産分割の対象ではなく相続財産へ持ち戻す必要もありません。ただし、極端に高額な死亡保険金を受け取ったときや、死亡退職金の性質が賃金の後払いであり、遺族の生活保障といえない場合は特別受益になるケースがあります。

特別受益の持ち戻しは法定相続人が対象

特別受益になる生前贈与があった場合、相続財産への持ち戻しは法定相続人だけが対象になります。法定相続人の範囲は以下のようになっており、優先的に相続できる順位も決まっています。

  • 配偶者は常に相続人となる

  • 第1順位の法定相続人:亡くなった方の子供

  • 第2順位の法定相続人:亡くなった方の父母

  • 第3順位の法定相続人:亡くなった方の兄弟姉妹

亡くなった方に配偶者と子供がいる場合、孫が特別受益にあたる生前贈与を受けたとしても相続財産へ持ち戻す必要はありません。なお、第1順位の法定相続人には養子や前妻・前夫の子供、婚姻関係にない第三者との間に生まれた子供(認知されている場合)も含まれるので注意してください。

代襲相続人の孫は被代襲者の持ち戻しを引き継ぐ

相続発生時に亡くなった方の子供がすでに死亡しており、孫が第1順位の法定相続人に繰り上がる仕組みを「代襲相続」といいます。代襲相続人の孫は被代襲者(本人の親)の地位と権利を承継するため、被代襲者に特別受益があった場合、相続財産への持ち戻しも引き継がれることになります。

生前贈与を特別受益の持ち戻し対象にしないケース

特別受益に該当する生前贈与があった場合でも、以下のようなケースは相続財産への持ち戻しが不要となります。遺言書を作成しておけば、特別受益を原因とする相続トラブルを防止できるでしょう。

贈与者が持ち戻し免除の意思表示をしている場合

遺言書などによって「持ち戻しをしなくてよい」と遺言者が意思表示している場合、特別受益を相続財産に持ち戻す必要はありません。特別受益を原因とした相続争いを回避したいときは、遺言書で持ち戻し免除の意思表示をしておくとよいでしょう。

ただし、遺留分の侵害には効力がないため、特別受益者が侵害額の返還に応じなければならない可能性もあります。

配偶者へ居住用不動産を生前贈与した場合

配偶者に居住用不動産となる自宅を生前贈与した場合、婚姻期間が20年以上だったときは相続財産への持ち戻しが不要です。この場合は持ち戻しの免除が推定されるため、遺言書による意思表示があったかどうかは問われません。

まとめ

生計の資本となるマイホーム資金などの贈与があった場合、特別受益かどうかで意見が分かれてしまい、相続人同士が対立関係になるケースがあります。

また、遺留分を侵害する生前贈与があったときは、遺留分の侵害額請求に発展する可能性が高いでしょう。

どちらも遺産分割協議の紛糾や相続争いの原因になってしまい、期限付きの相続手続きに間に合わなくなる場合があるので注意しなければなりません。特別受益は判断が難しく、当事者同士の話し合いでは解決しないケースが多いので、弁護士などの専門家にも相談した方がよいでしょう。

税理士 古尾谷 裕昭
  • この記事の監修者

  • 税理士 古尾谷 裕昭

VSG相続税理士法人
代表 税理士

2006年に古尾谷会計事務所開業。現在は、相続を専門とするVSG相続税理士法人の代表税理士。
税理士・司法書士・弁護士・行政書士・社会保険労務士・不動産会社が在籍し、相続税申告のみならず、相続登記、相続争い、遺言書作成、信託、資料収集から不動産売却・コンサルティングまで様々な業務に対応。年間申告件数3,000件以上。

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