事業承継とは
事業承継とは、先代経営者から後継者への「経営と自社株」の引き継ぎのことです。経営の引き継ぎによって従業員や取引先、仕入先との関係を守ることができ、株式承継で後継者の支配権も確保できます。事業承継には3~5年程度の期間がかかるので、先代経営者が元気なうちに着手する必要があるでしょう。
なお、2023年版の中小企業白書で経営者の年齢層をみると、2000年は50~54歳に集中していたところ、2023年は60~74歳に分散しており、75歳以上の割合も高いようです。後継者不在などの問題もありますが、事業承継に着手できないまま、経営者の高齢化が進んだものと推測されます。また、中小企業の経営者の場合は、個人の相続も考えておかなければなりません。
事業承継と相続の違い
事業承継は経営権や自社株の引き継ぎを行うことですが、相続は家族に対する個人資産の承継です。どちらも経営者の保有株式が共通しており、親族の後継者に自社株を承継する場合、「経営にタッチしていない家族にはいくら資産を残すか?」という課題があります。
後継者に自社株を引き継ぐと会社経営は安定しますが、預貯金などの財産が少ない場合、経営に関わっていない家族への配分が少なくなってしまいます。場合によっては、相続の最低保障となる遺留分を下回り、家庭内で相続争いが起きてしまうでしょう。後継者に自社株を集中させるときは、家族全員の理解も得ておく必要があります。
事業承継税制とは
事業承継税制とは、後継者に自社株を承継したときの贈与税と相続税について、一定の要件を満たせば、その納税が猶予され、最終的には免除となる制度です。制度創設は2009年ですが、適用要件が厳しく利用者数も少なかったため、2018年に特例事業承継税制が新設され、適用要件が大きく緩和されました。この制度を活用する場合には、「特例承継計画」を都道府県知事に提出し、10年以内に事業承継を実施することが求められます。特例事業承継税制の場合、以下のように贈与税と相続税の納税猶予、または納税免除が適用されます。
- 先代経営者が後継者に自社株を贈与または相続:贈与税と相続税の納税猶予
- 先代経営者の死亡時または後継者の死亡時:贈与税と相続税の納税免除
では、特例事業承継税制の具体的な適用要件をみていきましょう。
事業承継税制の適用要件
事業承継税制を活用する場合、従来税制となる一般措置と特例事業承継税制の特例措置について、それぞれの適用要件を満たす必要があります。一般措置の要件が厳しかった方でも、特例措置の要件はクリアできるケースがあるので、以下を参考にしてください。
対象株式の要件
事業承継税制の特例措置は、全株式が納税猶予や免除の対象です。一般措置は総株式数の最大2/3までが限度だったので、要件が大きく緩和されました。
特例承継計画の提出
事業承継税制で特例措置の適用を受ける場合、2024年3月31日までに特例承継計画の提出が必要です。一般措置にはない要件ですが、計画提出後に贈与しなくても特に問題はありません。
贈与と相続に関する期間の要件
事業承継税制の一般措置に適用期間はありませんが、特例措置の場合、2027年12月31日までに自社株を贈与または相続する必要があります。2027年12月31日を過ぎると一般措置の事業承継税制しか利用できないため、適用要件を満たせなくなる場合もあるでしょう。
自社株評価の要件
事業承継税制の特例措置では、自社株の評価額100%が納税猶予の対象です。一般措置で納税猶予を受ける場合、贈与は100%、相続は80%の評価額になるため、特例措置は相続時の税負担が緩和されています。
自社株の承継パターン
事業承継税制で自社株を贈与または相続する場合、一般措置と特例措置では以下のように承継パターンが異なります。
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一般措置:複数の株主から1人の後継者へ贈与または相続
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特例措置:複数の株主から最大3人の後継者へ贈与または相続
最大3人で自社株を承継するときは、議決権割合の10%以上を有しており、議決権保有割合が上位3位までの同族関係者に限定されます。なお、後継者の人数については要件の緩和といえますが、株式の分散は経営上のリスクになりかねないため、専門家を交えて十分に検討する必要があるでしょう。
従業員の雇用に関する要件
事業承継税制には雇用確保の要件があり、一般措置では贈与または相続後、5年平均で80%以上を維持しなければなりません。ただし、特例措置の場合、80%を下回った理由を報告書に記載し、都道府県知事に提出すると認定が取り消されないため、実質的な撤廃となっています。
なお、報告書には認定経営革新等支援機関の意見が記載されている必要があります。
相続時精算課税制度の適用範囲
相続時精算課税制度は2,500万円までの贈与が非課税となり、2,500万円を超える部分は一律20%の税率が適用される贈与方式です。事業承継税制の一般措置と特例措置では、相続時精算課税制度の適用範囲が以下のように異なっています。
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一般措置:後継者となる推定相続人1人のみ適用可能
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特例措置:後継者以外の推定相続人にも適用可能
ただし、贈与者(先代経営者)が60歳以上になっており、受贈者(後継者)は贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上になっている必要があります。
会社の売却や合併などに関する要件
事業承継税制を適用した後に業績が悪化し、会社の売却や合併が必要になった場合、一般措置ではその時点の自社株評価で贈与税や相続税を納税することになります。
一方、特例措置の事業承継税制では、経営環境の変化が一定要件に該当していると、売却や合併、廃業時の株価をもとに評価額を再計算します。再計算した税額に直前配当額などを加算した結果、当初の納税猶予額を下回ったときは、その差額の納税が免除されます。
事業承継税制のメリット・デメリット
事業承継税制のメリットは納税猶予や免除ばかりではなく、以下のように事業承継を促進させる効果もあります。ただし、制度の複雑さや適用期間の長さがデメリットになるケースもあるので、後継者や専門家を交えて検討する必要があるでしょう。
事業承継税制のメリット
自社株の承継に事業承継税制を適用した場合、以下のメリットがあります。
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高額な贈与税や相続税を負担しなくてもよい
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納税資金を準備しなくてよい
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期間限定の税制であることから、事業承継に着手するきっかけになる
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株価対策のための利益圧縮などが不要になる
事業承継税制は2024年3月末までに計画書を提出する必要があるので、後継者から先代経営者に期限を伝えると、事業承継に着手してもらいやすくなります。また、自社株の税金対策用に利益圧縮や持株会社を設立するなど、事業承継が本来の目的ではない対策も不要になるでしょう。
事業承継税制のデメリット
事業承継税制には以下のデメリットもあるので、自社株承継に活用するときは十分な検討も必要です。
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2027年12月31日までの贈与や相続しか適用されない
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納税猶予されるまでの期間が長い
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取消事由に該当すると納税猶予がなくなり、利子税も納める必要がある
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事業承継税制に精通した税理士が少ない
令和4年度税制改正大綱では、特例措置の期限延長はない旨を明記しているため、計画的に自社株を贈与できなかった場合、高額な相続税を納めることになります。納税猶予までの期間も長いので、後継者の辞任や資本金が減少するなど、取消事由に該当したときは利子税を加算した税金を納めなければなりません。また、事業承継税制に精通している税理士が限られているため、相談できる税理士が少ないこともデメリットといえるでしょう。
事業承継税制を適用する流れ・手続き
事業承継税制を活用して自社株を引き継ぐ場合、手続きの流れは以下のようになります。贈与と相続の手続きは若干異なりますが、どちらも特例措置を適用する流れになるので参考にしてください。
自社株を贈与するときの手続きの流れ
事業承継税制で自社株を贈与する場合、特例措置を受けるときの手続きは以下の流れになります。
- 特例承継計画を作成して都道府県知事に提出(2024年3月31日まで)
- 自社株の生前贈与
- 特例承継計画の認定と申告書の提出
- 贈与税の納税猶予
- 贈与税の納税免除
特例承継計画書には認定経営革新等支援機関の所見が必要になるので、中小企業庁のホームページで税理士や会計士などを探しておきましょう。なお、贈与税の申告期限から5年間は都道府県知事に年次報告書、税務署には継続届出書を毎年提出しますが、5年経過後は3年ごとの提出に切り替わります。贈与税の納税猶予を受ける場合、報告基準日は3月15日、提出期限は6月15日になっています。
自社株を相続するときの手続きの流れ
事業承継税制によって自社株を相続するときは、以下の流れで手続きを進めます。
- 特例承継計画を作成して都道府県知事に提出(2024年3月31日まで)
- 相続発生後に都道府県へ認定申請
- 税務署へ申告書を提出
- 納税猶予
- 納税免除
先代経営者の相続が発生した場合、都道府県への認定申請は8ヶ月以内に行ってください。年次報告書や継続届出書の提出は贈与税と同じですが、相続税の場合は申告期限の翌日から1年を経過した日が報告基準日となります。また、報告基準日の翌日から3ヶ月以内が年次報告書などの提出期限になるので、日付を間違えないようにスケジュール管理しておきましょう。
事業承継税制以外で行うべき相続対策
事業承継税制を活用すると株式の税金問題は解消されますが、家庭内の相続にも以下のような対策が必要です。親族間の相続争いは後継者の自社株承継に影響するので、遺言書の作成や遺留分の侵害にも配慮しましょう。
遺言書の作成
後継者に自社株を集中させると、後継者以外の親族に不満が残ってしまい、相続トラブルに発展する可能性があります。遺産分割協議の結果、自社株が分散すると後継者の持株比率が低くなるため、相続人が複数いるときは、遺言書で株式承継を指定する必要があるでしょう。ただし、自分で作成した遺言書(自筆証書遺言)は無効になる可能性が高いので、専門家への作成依頼をおすすめします。
家族の遺留分
事業承継税制を活用して後継者に自社株を贈与・相続する場合、他の親族の遺留分を侵害し、相続トラブルになるケースもあります。遺留分の侵害が避けられないときは、自社株を遺留分請求の対象としない除外合意制度を活用するなど、親族の合意を取り付ける対応も必要です。
自社株以外の財産評価
相続税は預貯金や不動産なども含めて計算するので、自社株以外の相続財産も正確に評価してください。いくら相続税がかかるか把握できれば、早めに節税対策や納税資金対策を検討できるでしょう。
まとめ
事業承継税制は「納税時期の先送りに過ぎない」と考えられているケースもありますが、経営のバトンタッチを続けると最終的には納税免除となります。特例事業承継税制は従来制度よりも適用要件が緩和されているので、かつて事業承継税制を見送った方でも、現在は有効活用できる可能性があるでしょう。
ただし、特例承継計画の提出は2024年3月31日が期限になっており、同時に家庭内の遺産相続も考えておかなければなりません。何から手を付けてよいかわからないときや、計画書の提出期限に間に合いそうにないときは、事業承継や相続に詳しい税理士へ相談してみましょう。



