小規模宅地等の
「家なき子特例」とは|改正概要・
要件・非同居でも使える相続税対策

このコンテンツでわかること
- ■ 家なき子の特例の仕組みを理解できる
- ■ 家なき子の特例の適用条件や手続き・必要書類がわかる
- ■ 法改正による家なき子封じの具体例がわかる
家なき子特例とは、相続時に使える小規模宅地等の特例の優遇措置であり、土地の評価額が8割減額になります。
被相続人の配偶者や同居親族のほか、別居する親族の相続でも自宅敷地の評価額を8割減額できます。別居中の親族は状況によって「家なき子」と呼ばれ、小規模宅地等の特例を利用する際は通称「家なき子の特例」と呼ばれることもあります。
今回は小規模宅地等の特例に含まれる「家なき子の特例」について、制度概要や手続きに必要な書類などを解説します。
特に注意したい平成30年の税制改正ついて、事例を挙げてわかりやすく解説します。
小規模宅地等の「家なき子の特例」とは?わかりやすく解説

被相続人に配偶者も同居人もいない場合、相続が始まる前に3年以上借家での生活だった親族であれば小規模宅地等の特例を利用できます。
小規模宅地等の特例とは、330㎡(約100坪)までの土地に使える特例であり、自宅の評価額を8割減額できるというものです。
「家なき子」とは制度の特徴を捉えた通称であり、税理士などの間で使われ始めた言葉ですが、持ち家がない、または持ち家に住んでいない人を指しています。小規模宅地等の特例は地価高騰に対応したものであり、相続税を払うために自宅を売却するなど生活の場を失わないよう配慮された制度です。
家なき子の特例の趣旨
小規模宅地等の特例は同居親族による自宅の相続を基本とし、配偶者や長男・長女など被相続人と同居する親族が自宅を承継し、住み続けることを前提に税負担を軽減する制度です。
しかし、親と同居している子供が会社都合による転勤、実家とは別に持ち家を購入、または離れた場所で借家での生活になるケースは多々あり、別居している間に親が亡くなることも珍しくはありません。やむを得ない事情で別居しているにもかかわらず「別居中の親族は特例対象外」にしてしまうと、いずれ実家を承継する予定だった親族にとってかなり不本意な状況になります。
家なき子の特例はこのような状況を考慮したものであり、別居中の親族でも同居親族と同じ税負担で自宅を継承・相続できるようになっています。近年問題となっている空き家の解消にもつながるため、社会的意義も大きいといえるでしょう。
家なき子の特例の要件・適用条件
国税庁のウェブサイトには以下のような小規模宅地等の特例の適用条件が掲載されており、特定居住用宅地の要件の一部が家なき子を指しています。中にはわかりにくい条件もあるため、少し噛み砕いて解説します。
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被相続人に配偶者がいない
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相続開始の直前、被相続人の自宅に同居していた法定相続人がいない
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相続人となる親族が相続開始の3年前までに自分の持ち家、配偶者の持ち家、3親等以内の親族の持ち家、特別の関係がある法人の持ち家に住んだことがない
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相続開始時に住んでいる住居を過去に所有していない
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相続税の申告期限まで相続した宅地を所有する
家なき子の特例を使えるケースは親夫婦のどちらかが先に他界している状況であるため、1次相続の際は使えず、2次相続に限られます。
同居人がいても家なき子特例を使えるケース
家なき子の適用条件には「被相続人の自宅に同居していた法定相続人がいない」とあります。同居している人が被相続人の孫であるなど、法定相続人以外の「親族」が同居人であれば、3年以上別居している賃貸生活の相続人は家なき子の特例を使えます。
持ち家ありでも住んでいなければ家なき子になる
家なき子の特例では、持ち家のある親族は特例の対象外と思われがちです。しかし「持ち家に住んでいない」が適用条件の一つなので、持ち家があっても賃貸物件として人に貸し、相続開始前の3年以上を賃貸マンションなどで暮らしている親族は「家なき子」に該当します。
嫁ぎ先で夫の家に住む娘は特例を使えない
家なき子の特例では、持ち家の有り・無しを夫婦で判定します。
被相続人の娘が嫁ぎ先で夫名義の家に住んでいる場合、「配偶者の持ち家に住んだことがない」の条件から外れてしまうため、娘が実家を相続しても家なき子の特例は使えません。
マンションにも家なき子の特例は使える
小規模宅地等の特例では一戸建て住宅をイメージしがちですが、マンションの相続にも使えます。
購入したマンションの敷地権に適用できるため、配偶者や同居親族はもちろん、家なき子が相続する場合でも評価額を8割減額できます。
平成30年の税制改正による家なき子の特例の変更点
かつて家なき子の特例は作為的な相続税逃れに使われる事例があったため、平成30年の税制改正で持ち家や相続人などの条件が見直され、改正前よりも家なき子の適用条件が厳しくなりました。
本来の趣旨から逸脱した利用を防ぐため「家なき子封じ」とも呼ばれますが、改正前と改正後の違いについて実例を挙げながらわかりやすく解説します。
別居の孫が家なき子の特例を使えなくなったケース
改正前の家なき子の特例では、相続税対策というより税逃れを目的とした事例が発生することがありました。
別居中の子供の住居が持ち家であれば、子供は特例の対象外ですが、その家に住む子(被相続人の孫)には持ち家がありません。つまり家なき子に該当する親族になるため、小中学校に通う年齢の孫であっても祖父母の自宅の相続人(受遺者)に指定される事例も多発していたようです。
しかしこの考え方は特例本来の趣旨に沿っておらず、作為的な相続税逃れとなるため、税制改正後の適用条件では「3親等以内の親族の持ち家に住んだことがない」とされています。
つまり3親等以内である親の持ち家に住む孫は、家なき子として認められなくなったということです。
持ち家の名義変更は家なき子と認められないケース
以前の家なき子特例では、作為的に持ち家なしの状態にするケースもありました。子供が自分で購入した家に住み、親と別居している場合ですが、親が子の持ち家を買い取って親名義にすると、子供は持ち家がなく借家住まいの状態になります。このまま3年間住み続けると家なき子の条件を満たすため、子供は8割減額の評価減で親の家を相続できました。
つまり作為的な名義変更で家なき子状態にしたという事例であり、法改正により「相続開始時に住んでいる住居を過去に所有していない」の条件が追加されています。
ちなみに親に購入してもらった家に住み、名義も親になっている場合は上記と同様の状態になるため、家なき子の特例は使えません。
親が経営する賃貸物件暮らしは家なき子と認められないケース
税制改正後の適用条件には「特別の関係がある法人の持ち家に住んだことがない」が追加されたため、親が経営する賃貸物件に住む子供は特例を使えない場合があります。
なお、特別な関係がある法人には、親または親族が株式の50%超を保有する法人も含まれます。
リースバックでは家なき子と認められないケース
不動産業者等へ売却した自宅に、家賃を払いながら住み続ける仕組みがリースバックです。
親と別居している子供が自分名義の家に住んでいる場合は家なき子に該当しませんが、リースバックを利用すると家の名義は業者になるため、持ち家なしの賃貸住まいになります。
そのまま3年経過すると家なき子になりますが、税制改正後には「相続開始時に住んでいる住居を過去に所有したことがない」とされ、見かけ上の家なき子は認められなくなりました。
家なき子の特例を利用するときの流れ・必要書類
家なき子の特例は課税対象額を減額する手続きになるため、税務署への申告が必要となります。相続税の申告期限までに手続きすると特例が適用されるので、あらかじめ必要書類を確認し、漏れのないよう準備してください。
基礎控除の範囲内であれば家なき子特例は必要なし
見落としがちな点ですが、課税遺産総額が基礎控除内であれば申告は不要です。相続税の基礎控除は以下のように計算するため、相続人の人数次第では相続税が非課税になる場合もあります。
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計算式
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相続税の基礎控除:3,000万円+600万円×法定相続人の数
ただし土地の評価額は立地状況や接道条件、周辺環境など様々な要素を考慮するため、素人による算定はほぼ不可能です。土地の評価額算定は、相続に強い税理士など専門家への依頼をおすすめします。また、隣地との境界が不明瞭な場合は境界確定も必要となり、測量を依頼するケースもあるでしょう。
家なき子特例は相続開始から10カ月以内に申告する
家なき子の特例は税務署への申告により適用されるため、相続税の申告と合わせて手続きします。
相続税の申告期限は「被相続人の死亡を知った日の翌日から10カ月以内」とされており、期限を過ぎると特例や他の控除も認められず、延滞税などの罰則もあるため、十分に注意してください。
家なき子の特例に必要な書類
小規模宅地等の特例を利用する場合、相続の事実などを証明するため以下の書類が必要となります。なお、家なき子の特例では親と同居していないことや借家住まいを証明するため、登記事項証明書や賃貸借契約書等を準備します。
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相続税の申告書
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遺言書または遺産分割協議書の写し
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図形式の法定相続情報一覧
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被相続人の戸籍謄本(相続発生日から10日以降に作成されたもの)
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相続人全員の印鑑証明書
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相続人の戸籍の附票の写し(相続発生日以降に作成されたもの)
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相続する家屋の登記事項証明書および借家の賃貸借契約書等
相続税の申告書には以下の付表を添付しますが、各様式は国税庁のウェブサイトからダウンロードが可能です。
① 付表1 小規模宅地等についての課税価格の計算明細書
② 付表1(続) 小規模宅地等についての課税価格の計算明細書(続)
③ 付表1(別表2) 特定事業用宅地等についての事業規模の判定明細
④ 付表2 小規模宅地等の特例、特定計画山林の特例又は個人の事業用資産の納税猶予の適用にあたっての同意及び特定計画山林についての課税価格の計算明細書
家なき子の特例を利用する際の注意点
家なき子の特例を適用できれば、自宅の敷地は8割減額となるため、十分な節税効果を期待できます。主な相続財産が被相続人の自宅だけたった場合は、家なき子の特例によって非課税相続できる可能性もあります。
ただし、以下の注意点には気を付けてください。
相続税申告が必要
家なき子の特例(小規模宅地等の特例)は申告によって適用できる特例措置なので、必ず相続税申告を行わなければなりません。相続税の申告期限は「相続開始を知った日の翌日から10カ月以内」となっており、期限を経過すると、相続税の本税に延滞税などが加算されるので注意してください。
申告先は相続人(家なき子の特例を受ける人)の住所地を管轄する税務署となり、申告方法には窓口への直接提出や郵送提出、e-Tax(電子申告)があります。なお、土日や祝日、年末年始が申告期限だったときは、税務署の翌開庁日に申告期限がスライドします。
小規模宅地等の特例よりも必要書類が多い
家なき子の特例は申告時に以下の必要書類を提出するので、同居親族が小規模宅地等の特例を適用するケースよりも準備する書類が多くなります。
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相続人の戸籍の附票の写しや住民票
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賃貸借契約書
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不動産の全部事項証明書
マイナンバーカードがあれば、戸籍の附票の写し等(住所遍歴の確認用)は提出不要になります。
賃貸借契約書や全部事項証明書については、以下の証明用として提出します。
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相続開始前3年以内に相続人またはその配偶者、3親等以内の親族、特別な関係にある法人の所有住宅に住んでいなかったこと
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相続開始時に居住している家屋を過去に所有していない
まとめ
相続財産には様々な種類がありますが、その中でも土地はもっとも税負担の大きい財産といわれています。しかし税額が高いといわれる反面、特例や控除などの優遇措置が用意されているため、評価額を下げやすいという特徴もあります。
家なき子の特例を使えば同居親族ではなくても、土地の評価を8割減額にでき、自宅を承継して住み続けられることから、資産の有効活用にもつながります。親の自宅を継ぐ予定の方はぜひ利用していただきたい制度ですが、肝心なのは適用条件を満たしているかどうかです。
家なき子の特例を使えるかどうか判断に迷う場合は、相続事案に強い税理士へ相談してみましょう。