家族信託と成年後見制度の違いとは?
家族が認知症になった場合、まず本人の生活支援が急務となります。同時に本人の財産管理や運用、保全や承継といった問題も発生しますが、成年後見制度や家族信託を使えば大部分は解決できます。
両者には共通する部分もありますが、「何を実現したいか」によって選び方が異なるため、それぞれの特徴を理解しておくとよいでしょう。
家族信託の仕組み
家族信託は民事信託をベースにしており、以下の三者で成り立つ仕組みです。
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委託者:家族に財産を信託する人
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受託者:信託された財産を管理運用する人
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受益者:信託財産から発生した利益を受け取る人
委託者と受益者は同一人になることが多く、わかりやすい導入例にはアパートやマンションなどの賃貸経営があります。オーナーである親が委託者となり、子供を受託者にして管理や運用を任せ、家賃収入は親が受け取るという仕組みです。受託者である子供に管理権を移しているため、親が認知症になっても賃貸借契約が可能であり、土地や建物の凍結リスクを回避できます。
遺言機能によって次世代相続にも対応できるため、将来は孫やひ孫を受益者にするなど、一族に承継させたい財産や、積極運用したい財産がある場合に有利といえます。
家族信託の費用
家族信託は設計の難易度が高いため、契約書の作成までは専門家に依頼するケースがほとんどです。したがって以下のような導入費用がかかります。
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コンサルティング料:信託財産の1.1%程度(3,000万円であれば33万円)
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信託契約書の作成費用:10万~15万円程度
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公正証書の作成費用:3万~10万円程度
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登録免許税(不動産の場合):固定資産評価額の0.3~0.4%
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信託登記費用:10万~15万円程度
信託財産の内容にもよりますが、50万~80万円程度の導入費用になるケースが多いようです。なお、非営利の家族信託には信託報酬が発生しないため、基本的にランニングコストはかかりません。
成年後見制度の仕組み
成年後見制度には「任意後見」と「法定後見」の2種類があり、認知症リスクに備えてあらかじめ後見人を指定するのが「任意後見制度」です。すでに認知症になっている場合は「法定後見制度」しか選択できず、家庭裁判所が後見人を選任します。
後見人の職務は認知症になった方(被後見人)の身上監護ですが、具体的には銀行手続きや介護保険契約、入院手続きなどの契約行為を代行します。また、被後見人の財産は家庭裁判所の管理下に置かれるため、投資や生前贈与はできなくなり、被後見人にとって必要なければ不動産売却もできません。
ちなみに、成年後見制度の利用目的は預貯金管理が圧倒的に多く、次に身上監護となっています。様々な制約はありますが、本人の権利や財産保全を最優先したい場合は、成年後見制度を検討するべきでしょう。
成年後見制度の費用
任意後見と法定後見では費用が異なり、それぞれ以下のような内訳と相場になっています。
【任意後見制度】
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申立費用(収入印紙):800円
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登記費用(収入印紙):2,600円
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郵便切手(審判書送付用):3,200~3,500円程度
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司法書士費用:10万~20万円程度
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成年後見人報酬:親族等は月額0~5万円、司法書士等は月額2万~6万円程度
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任意後見監督人報酬:月額1万~3万円程度
【法定後見制度】
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収入印紙および郵便切手:1万円程度
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登記嘱託手数料:1,400円
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鑑定費用:6万円程度
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診断書作成費用:5,000円程度
家族信託に比べると、専門家に手続きを依頼しても導入費用は安くなります。しかしランニングコストがかかるため、後見人の月額報酬が3万円だった場合、3年で108万円、5年で180万円となり、後見期間が長いほど高コストになるといえます。
家族信託のメリット・デメリット
家族信託を認知症対策として利用する場合、メリット・デメリットも理解した上で成年後見制度と比較することが大切です。
家族信託のメリット
家族信託には様々なメリットがあり、代表的なものは以下の7つです。
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柔軟な財産管理ができる
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財産の凍結リスクを回避できる
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次世代相続も指定できる
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相続手続きの負担が軽くなる
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倒産隔離機能がある
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共有不動産のトラブルを防止できる
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成年後見制度よりも低コスト
少しわかりにくい部分を解説すると、信託財産は受託者の個人財産と切り離されるため、仮に受託者が破産しても差し押さえの対象にはなりません(倒産隔離機能)。また、共有不動産がある場合、共有者が認知症になると契約行為に支障をきたしますが、受託者を別に決めておけば凍結状態は防止できます。
家族信託のデメリット
一方で、家族信託には以下のデメリットもあります。
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受託者が長期間拘束される
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所得税申告の手間が増える
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損益通算が使えない
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相続税対策には不向き
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専門家が少ない
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信託口口座を扱っている金融機関が少ない
家族信託では新たな所得税申告の手間が増えてしまい、信託財産以外の事業収入を損益通算(相殺)できないため、却って所得税が高くなる可能性もあります。まだまだ新しい制度のため、相談できる専門家や家族信託を扱う金融機関も少なく、そもそも信託を設計できない可能性もあるでしょう。
成年後見制度のメリット・デメリット
制約の多さから使いにくいと思われがちですが、成年後見制度でなければ実現できないこともあります。認知症対策として検討する場合、次のメリットやデメリットも理解しておきましょう。
成年後見制度のメリット
成年後見制度には大きく3つのメリットがあります。
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専門家による適切な財産管理
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不要な契約を結ぶことがなくなる
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認知症になった方の契約行為を代行してもらえる
被後見人の財産は後見人によって保全されるため、家族による使い込みを防止できます。また、後見人が間に入るため、不要な商品を大量購入したり、詐欺商法に引っかかるなど、判断力の低下が引き起こす不利な状況も回避できます。
入院や施設等への入所手続きも後見人が代行するため、被後見人にとって安心・安全な生活環境も確保できるでしょう。
成年後見制度のデメリット
成年後見制度のデメリットは以下のとおりです。
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柔軟な財産管理には不向き
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途中でやめられない
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費用が高額になる可能性が高い
財産管理は基本的に保全なので、被後見人の利益になるとわかっていても自由な売却や活用はできません。また、被後見人の判断力が回復するまでやめられないため、実際に利用すると被後見人の死亡まで続くケースがほとんどです。認知症で介護を要する期間は6~7年が多いため、数百万円の費用になる可能性が高いこともデメリットとして挙げられます。
家族信託の利用が向いているケース
家族信託にも一長一短ありますが、総合的にみると次のようなケースに向いているといえます。
柔軟に財産管理したい
成年後見制度の後見人は金庫番のような役割であり、被後見人が認める用途にしか財産は使えません。しかし家族信託は財産の管理方法を自由に決定できるため、積極的な運用や売却も可能です。たとえば改修によって賃貸物件の収益性を上げる場合、成年後見制度では銀行融資も建築業者との契約もできませんが、家族信託は受託者判断で実行できます。
もともと委託者が元気なうちに契約するため、家族の意思を反映した財産管理には家族信託が向いているでしょう。
家族に財産を託したい(第三者に関与されたくない)
任意後見制度では親族も後見人になれますが、弁護士や司法書士などが任意後見監督人として関与します。しかし法定後見制度では親族が後見人になれないケースが多く、家庭裁判所によって選任された弁護士や司法書士が後見人となります。財産は家庭裁判所の管理下に置かれるため、収支報告用に領収書などの保管も必要であり、煩わしさを感じる人も少なくはありません。
家族信託でも専門家を「信託監督人」に指定する例はありますが、あくまでも任意です。第三者の関与を避けたい場合は家族信託が向いているでしょう。
費用を安く抑えたい
家族信託には信託報酬が発生しないため、基本的にランニングコストはほぼかかりません。一方、成年後見制度は毎月の後見人報酬が発生し、場合によっては付加報酬も加算されます。平均的な後見期間からすると、家族信託の方が安くなる可能性が高いでしょう。
次世代の相続も指定したい
家族信託には遺言書の拡張版といえる機能があり、「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」の仕組みが使えます。遺言書の効力は一代限りですが、家族信託では次回分の相続も指定できるので、直系の子孫に財産を承継させることも可能です。一族での財産保持を可能とするので、先祖代々の土地を守りたいというニーズにも対応できるでしょう。
成年後見制度の利用が向いているケース
家族信託は法律行為のサポートに限界があるため、次のようなケースには成年後見制度が向いています。
身上監護を最優先したい
家族信託は柔軟な財産管理を目的としていますが、身上監護の面では十分なサポートができません。たとえば病院への入院や施設入所の際、本人が認知症になっていれば手続きできないため、一般的には家族が入退院や入退所などを決定します。しかし病院や施設によっては、入所決定などを家族に委ねないケースもあるので、法定代理人である成年後見人の設定も必要になるでしょう。
安全な生活環境を確保したり、適切な医療を受けたりなど、本人の身上監護を優先したい場合は成年後見制度が向いているといえます。
身上監護を専門家に任せたい
費用をかけてでも身上監護を専門家に任せたい、という場合も成年後見制度が適しています。特に子供と親が離れて暮らしており、仕事も忙しいために日常的な面倒をみられない場合、成年後見制度を検討する余地があります。
また、過去には親族が後見人になった結果、判断の難しい法律行為に対応できない、または財産を使い込まれるなど、トラブルも多発していました。家族間の運用と異なり、成年後見制度は専門家が後見人になるため、財産保全や身上監護も安心して任せられるでしょう。
家族信託と成年後見制度は併用もできる
家族信託と成年後見制度は選択制ではないため、併用すればさらに強力なサポート体制を構築できます。
たとえば本人が元気なうちに家族信託を導入し、将来に備えて任意後見制度も併用しておけば、自由度の高い財産管理とともに身上監護も可能になります。ただし、費用面などの事情からどちらか一つしか選べない場合は、次のような基準で考えておくとよいでしょう。
医療や介護を優先したい場合は任意後見制度
財産管理の必要性が低く、将来の医療や介護を優先する場合は任意後見制度をおすすめします。どのような医療や介護を受けたいか、あらかじめ希望を伝えておけば、可能な限り後見人が実現してくれるでしょう。
財産管理や運用・処分を優先したい場合は家族信託
運用している財産が多いほど家族信託が適しています。
たとえば親が複数の賃貸物件を所有している場合、認知症になると賃貸借契約は締結できなくなるため、家賃収入に影響します。借入金の返済にも影響してしまうため、柔軟な財産管理を優先したい場合は家族信託がおすすめです。
まとめ
成年後見制度には「使いづらい」というイメージが先行しており、なかなか導入に踏み切れないという方も多いようです。一方、家族信託は営利目的の商事信託と勘違いされやすく、「コストが高い」というイメージもあるようです。また、信託そのものが理解できていないため、「未知のものには手を出したくない」という方もおられるでしょう。
しかしどちらも認知症対策には有効なので、将来の財産管理や身上監護に不安がある場合は、まず一度専門家に相談して詳しい内容を聞いておくことをおすすめします。



