全員で相続放棄すると残った借金・財産はどうなる?
相続人全員が相続放棄すると、その後最終的に国のものになる財産もありますが、すぐに国庫へ帰属するわけではなく、当面は何らかの形で相続財産に関わります。
特に借金は「相続放棄ですべて終了」とはならず、プラスの財産から弁済も必要であり、被相続人が連帯保証人だった場合は返済義務も残ります。つまり、相続放棄を全員が行っても、その後、財産がきちんと清算されるまでは管理が必要となり、相続財産管理人を選任して財産の管理や整理を行います。
相続財産管理人とは
被相続人(亡くなった方)に相続人がいない場合、相続財産管理人に財産管理や処分を任せることになります。相続放棄を全員が行った場合も相続人不在となるため、まずはその後の財産管理を任せる相続財産管理人を選任しなければなりません。
相続財産管理人の選任は家庭裁判所に申し立てますが、一般的には弁護士が選任されるので、財産に関する法律手続きも安心して任せられます。また、申し立てから選任までは1~2カ月程度かかり、選任後は財産の引継ぎも発生するため、その間の土地や建物管理は自分達で行わなければなりません。
相続財産管理人の役割は一般的なイメージの管理とは異なり、債権者への弁済や財産の換価(売却)、国庫への帰属手続きもあるため、当然ながら費用が発生します。管理する財産の数量や難易度にもよりますが、月に1万~5万円程度が相続財産管理人に支払う費用の相場であり、10万~100万円程度の予納金も必要です。相続財産すべての処分が完了するまで1年程度はかかるので、全員が相続放棄したのであれば、その後に発生する費用も試算しておく必要があるでしょう。なお、予納金は申立人が支払うことになりますが、管理業務終了後の残金は返還されます。
全員が相続放棄すると財産はどうなる?
相続人全員が相続放棄した場合、遺言による遺贈や特別縁故者もいなければ、プラスの財産は国のものになります。しかし、借金があれば債権者の権利も生きているので、できる限り債権者への弁済に充てなければなりません。不動産を処分して弁済に充てるケースもありますが、このような手続きも相続財産管理人によって行われます。
全員が相続放棄すると借金はどうなる?
借金などのマイナス財産については、相続財産管理人によって債権者が確定され、家庭裁判所の承認を経て弁済の手続きが行われます。なお、プラスの財産から債権回収が見込めない場合、債権者は連帯保証人に支払いを請求することになります。相続放棄していても連帯保証債務は残るので、支払い請求があれば応じなければなりません。
相続放棄すると、すべての支払い義務が免除されると思われがちですが、連帯保証債務は別なので注意してください。
相続放棄をする際の注意点
相続放棄が成立しても、すべての義務から解放されたわけではありません。他の相続人への配慮も必要ですし、管理や注意義務も残っています。親族や債権者との関係が悪化しないよう、次に解説する注意点も参考にしてください。
他の相続人にも連絡する
相続放棄すると、借金の返済義務は次の順位の相続人に引き継がれます。しかし、債権者からの連絡や通知はないので、自分が連絡しておかなければ債務者になったことがわかりません。何の前触れもなく借金を背負わされると誰でも不快な気持ちになるので、相続放棄する場合は他の相続人にも連絡しておきましょう。
相続財産には管理責任がある
相続を放棄しても、土地や建物の管理責任は放棄できません。近隣に迷惑をかけず、火災の原因にもならないよう十分な注意と管理責任を果たさなければなりません。
相続放棄した後は相続人に戻れない
相続放棄をすると原則として撤回は認められません。相続放棄した後で新たな財産が見つかったとしても、相続権は復活しないので注意してください。
例外として認められるのは、脅迫によって相続放棄をした場合などの特殊なケースに限られています。
期限を過ぎると相続放棄はできなくなる
相続放棄には期限があり、相続開始を知った日から3カ月以内となっています。わずか3カ月の間で相続財産の調査、相続放棄の決定、書類の準備が必要になるので、相続開始直後から行動しておかなければまず間に合いません。自分の手には負えないと思ったら、すぐにでも専門家へ依頼しましょう。
相続放棄を相続人全員でした方が良い理由
相続放棄の注意点からわかるように、1人の相続人が相続放棄したとしても、1人分の相続財産が抜け落ちるわけではなく、他の相続人に引き継がれます。つまり、相続放棄した人の返済義務も他の相続人に回るだけなので、最後に残った人がすべての負債を背負うことになってしまうということです。
したがって、相続放棄するのであれば、全員で足並みをそろえた方が得策といえます。全員で相続放棄する場合は、次に解説する流れで手続きを進めてください。
相続人全員で相続放棄をする流れ
相続放棄の手続きは家庭裁判所で行いますが、事前の準備や相続放棄が受理されるまでの期間を考えると、最低でも2カ月はみておくべきでしょう。ただし、相続放棄には期限があるので、手際よく進めなければ間に合わない可能性もあります。
相続放棄を検討している場合は、相続放棄の手続き方法・必要書類まとめ【相続放棄すべきケースや注意点も解説】の記事で詳しく説明していますので、ぜひ読んでみてください。
相続放棄をしても受け取れる財産
相続放棄の際に気を付けておきたいのが「単純承認」です。たとえ一部でも相続財産を使ってしまうと、相続を承諾したものとして単純承認が成立します。つまり、借金の相続も承諾したことになり、相続放棄はできなくなってしまいます。
ただし、次に解説する財産は相続放棄した人が受け取っても問題ありません。
葬儀にかかった費用
お葬式にかかった費用は相続財産から支払っても問題なく、単純承認されることもありません。ただし、葬儀費用が高額になった場合、被相続人の交友関係や社会的立場、地域性などの観点から、葬儀費用として認められないケースもあります。
法律では金額の線引きが明確にされていないので、過去の判例に詳しい専門家へ尋ねてみるとよいでしょう。
死亡保険金や共済金
契約者や加入者が亡くなった際に支払われる保険金は受取人固有の財産なので、相続放棄している人でも問題なく受け取れます。
財産の性質に関係しますが、死亡保険金は亡くなった方が生前から所有していた財産ではなく、死亡をきっかけとして支払われるお金です。みなし相続財産とも呼ばれ、相続税の課税対象にはなりますが、相続放棄に関係なく受け取れる固有の財産です。
まとめ
相続放棄の手続きはあまり難しくないため、多額の借金がある場合には検討してもよいでしょう。しかし実務面からみると、相続放棄を選択するまでの準備期間があまりに短く、十分な判断材料がないまま決断しているケースも多いように見受けられます。
相続を承諾するか、放棄するか、自分だけではなく家族の人生も左右しかねないため、1人で考えずに専門家の意見を参考にするよいでしょう。状況によっては相続放棄以外の解決策が見つかるかもしれません。



