
僕なりの世界1位像を
体現したい
時間を自分のものにする意識で
波乱の一年だった。昨年1月に国際大会での優勝直後に交通事故で負傷し、手術。2月末に練習を再開したものの、照準を合わせていた東京での大会が延期になった。それでも、年末の国内大会で優勝。年始から海外転戦に出ようとした矢先、新型コロナウイルス感染が発覚した。
そして復帰。桃田賢斗はこの一年を、どんな思いで過ごしてきたのか。
「ケガが癒えて、ここからギアを入れようというタイミングで大会が中止になったので、正直なところ、混乱したというか戸惑いはありました。ただ大事なのは、今どうするか。切り替えて練習に打ち込みました」
トップ選手の練習時間に大差はない。自身ではとにかく、時間を有益にすることに心を砕いたという。勝負を左右するのは、極限の集中で磨かれる正確さや力強さだからだ。
「考えを持ってやり抜いた日々が、失われない自信になっていきます。地に足をつけ、時間を自分のものにする意識で練習を重ねました」
言葉にして行動に落とし込んでいく
先を見過ぎず一つずつクリアしたからこそ、今がある。世界ランク1位には、そうやってたどり着いた。男子バドミントン界の頂点に立つと、行動・言動への責任感が自然に強くなるのを感じた。自分なりの「世界ランク1位像」を体現する上で、相次いで引退した海外のレジェンドたちの取り組みも刺激になっている。
「彼らは自国で普及イベントを開くなど、熱心に活動しています。これからは僕ら世代の番。例えば、今日本では近くにクラブチームがないために子どもたちの競技離れが起きやすくなっています。状況を変える道を模索しています」


長期的な課題に目を向けつつ、「UDN FOUNDATION」を通じたスピーディーな取り組みも進めてきた。昨年は3月に呼びかけ動画を配信し、5月に子どもたちと医療従事者にマスクを寄贈。12月には都内の小学校を訪問した。つながり合うことで生まれる、新たな可能性を感じたという。
開設したばかりの動画配信チャンネルでは、「桃田賢斗体育館をつくりたい」と壮大な夢を明かしている。初心者からプロ志望選手まで、バドミントン愛好者が集う場だ。
「僕は思いを言葉にすることが大事だと思っています。夢に近づけるし、感謝なら忘れないので。人に伝えたり自分に言い聞かせたりすると、行動に落とし込めるんですよ」
表明して、意識し続ける。圧倒的な強さを支える地道さは、プレーだけではないのだ。

昨年はそんな桃田の「声」が反映されたアイテムが生まれた。社会貢献型ブランドSHIFTHで取り扱うマッサージガン「SHIFTH BODY-RAISE PRO」だ。トップアスリートから一般人まで、幅広い層を意識した。誰もが気持ちよく体を動かすきっかけに、そんな思いが込められている。
スポーツの力を信じている
今年2月13日の夜中、東日本大震災の余震と見られる長い揺れが再び東日本を襲った。2011年3月11日、あの日から地続きの今日を生きていることを改めて実感した人は少なくないだろう。発災当時、桃田は福島県の高校に通っていた。当日はインドネシアに遠征中で、目を疑うニュースにぼうぜんとするほかなかった。
「10年経っても、まだ復興したとは言い切れないと感じます。ただみんなの団結があって、ここまで来たことも事実です。人間を動かすのは、気持ち。感動や勇気を与えられるスポーツの力が、必ず役立つと思っています。スポーツの力を信じる人間の一人として、みんなのエネルギーになりたいですね」
3月にイギリスで開かれた国際大会が、世界の舞台での復帰戦になった。結果はベスト8。しかし、各国の強豪と対峙する緊張感を味わえたことが何よりの収穫だろう。困難と向き合い、飛躍の原動力を得た桃田が「さらなる強さ」を体現する日は、そう遠くないはずだ。
ももた・けんと/1994年生まれ。小学1年からバドミントンを始め、中学進学時に頭角を現す。高校卒業後に実業団チームへ。2018年1月の世界ランキングで初めて1位に輝き、19年は国際大会で11回の優勝を飾った。






