自民党派閥による政治資金パーティー収入をめぐる巨額裏金問題は、「組織犯罪」ともいえる、システム化されたものでした。政治資金規正法を踏みにじり、裏金を得て、説明責任からも目を背ける――。「アンフェアの極み」といえる構造悪を解明するため、私たちは編集局の力を最大化して、取り組みました。

「集計ミスとは言えない」 別次元の巨額の裏金作りがみえてきた

 取材の初動は、東京地検特捜部などを担当する社会部記者らが担いました。特捜部の捜査の端緒は、2022年11月の「しんぶん赤旗」の調査報道に基づく大学教授による告発(最終的に不起訴)で、自民党の5派閥でパーティー券の集計ミスがあるという内容でした。捜査関係者や議員、秘書、弁護士らに取材を重ねると、自民党の最大派閥「清和政策研究会」(安倍派)などによる別次元の巨額の裏金作りがみえてきました。販売ノルマを超えた売上金は、派閥から議員に「還流」したり、議員が派閥に納めず「中抜き」したりし、その金の流れは政治資金収支報告書に記載しない――。

 「還流の不記載が組織としてシステム化されている。ミスとは言えないレベルの故意犯」。ある検察幹部はそう言いました。

 「安倍派裏金1億円超か ノルマ超分、議員に還流」
 2023年12月1日付の朝刊1面で一連の報道の口火を切りました。その後、社会部や政治部のデスクや記者による会議を開き、報道で目指す方針を共有しました。大きく三つあります。一つ目は、東京地検特捜部による立件基準や捜査方針を見極めるだけでなく、事件化されないとしても自分たちの取材で裏金作りの全容を解き明かすこと。二つ目は、裏金作りの土壌となった自民党の体質を解剖すること。三つ目は、制度の穴が放置されてきた政治資金規正法の問題点を指摘すること。

培ってきた多様なスタイルを駆使して報道

 こうした狙いを、捜査報道や調査報道、政局報道、企業や国会議員へのアンケート報道、識者へのインタビュー報道、ビジュアル重視のデジタル報道など、新聞社が培ってきた多様なスタイルを駆使して報じました。

 社会部では、初報の次の焦点に、裏金を受領した議員名と金額、特に政権中枢の安倍派幹部の関与を据えました。「松野博一官房長官に1千万円超」との特報に続き、安倍派6幹部の実名と金額を報じました。裏金はいつ、なぜ始まり、何に使われたのか。東京社会部、ネットワーク報道本部、大阪社会部の記者らは議員や秘書らへの「直当たり」を重ねました。「2000年代初めには還流システムがあった」「政治改革でパー券に頼るしかなくなった」などの証言を得て、事件の背景を描きました。

 東京社会部の調査報道班は、「ザル法」とも呼ばれる政治資金規正法の構造的欠陥を明らかにするため、全国会議員約700人にアンケートを行いました。パーティー券収入の取り扱いや政治資金制度のあり方を問う一方で、回答率22%という自民党議員の無責任な姿勢も浮き彫りにしました。

 経済部は、企業がパーティー券を買う動機を追いました。自民党支部へ献金する企業約7500社にアンケートし、258社が回答。慣例や惰性で続けていることや、不利益を恐れやめられないなどの本音が寄せられ、結果の報道に加え、実情を描く連載も始めました。

 規正法は今年6月に改正されました。パーティー券購入者の公開基準額が引き下げられ、収支報告書提出時に政治家の「確認書」が義務となりましたが、実効性にはなお疑問が残ります。

 政治部は、政権与党の政治責任を問い続けました。裏金は、政権主要ポストを占め続ける安倍派で組織的に作られており、幹部の去就はこの四半世紀にわたる自民党政治の岐路でした。丹念な取材から「松野・西村・萩生田氏更迭へ 安倍派5人衆を一掃」といち早く報じ、その後、松野氏ら安倍派4閣僚は事実上更迭、萩生田光一政調会長ら党幹部は辞表を出しました。

 裏金問題という戦後政治で最悪レベルの不祥事は、各報道機関が粘り強く独自報道を続けました。報道界全体での追及は、政治改革を促すうねりとなりました。結果的に、特捜部は、国会議員やその秘書、派閥の会計責任者たち計11人を起訴しました。自民党は内部調査で、現職国会議員ら85人が2022年までの5年間で、計約5億7000万円分を政治資金収支報告書に記載していなかったことを公表しました。岸田首相は真相究明に踏み込まないまま、8月に退陣。石破新首相も就任直後から、裏金問題の対応に追われています。

 しかし、多層的な報道によっても、謎や危惧は残されています。裏金作りは誰が、いつ、どのように始め、何に使われたのか。政治資金規正法が改正されたあとも、同じようなアンフェアが起きるのではないか。裏金問題は、現在進行形です。問題を掘り起こすには、記者一人一人の取材力が問われている、と感じています。取材力とは、埋もれたファクトをつかみとる力。そして、そのファクトをデジタルや紙面を駆使してあらゆる世代にわかりやすく伝える展開力を意味します。こうした個々の取材力をさらに磨いていかねばなりません。ジャーナリズムの権力監視機能も進化させながら、「政治とカネ」の問題を、これからも追い続けたいと思います。

東京本社編集局社会部次長 板橋洋佳